鶯鶯伝(読み)おうおうでん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鶯鶯伝」の意味・わかりやすい解説

鶯鶯伝
おうおうでん

中国、唐代の短編小説。『会真記(かいしんき)』ともいう。元稹(げんしん)の若いころ(804?)の作と伝えられる。美しく才たけた崔(さい)氏の娘鶯鶯と、高級官僚の試験を志す若者の張生との恋愛を対象とする。その初め、2人は母親の目を盗み、紅娘(こうじょう)という鶯鶯の侍女を仲立ちとし、世間の常識を無視して結ばれてゆく。「月を待つ 西廂(せいしょう)の下、風を迎えて 戸 半ば開く。牆(しょう)を隔てて 花影動く、疑うらくは 是(こ)れ 玉人の来たるかと」という鶯鶯の歌には、若者のひそかな訪れを待つ娘心のときめきが響く。しかし科試の制度や時代の倫理によって、互いにそれぞれの道を歩み、ついに愛情も破れざるをえなかった。一編は曲折に富む構成をとり、詩歌を交える達意筆致でもって、短編小説の領域に新しい様式を開拓した。後世自伝小説としてもてはやされ、『商調蝶恋花(ちょうれんか)』『西廂記』『続西廂記』など、詩歌や戯曲を多く生み、少なからぬ影響を及ぼした。

[花房英樹]

『花房英樹編『元稹研究』(1977・彙文堂書店)』『前野直彬編・訳『唐代伝奇集1 鶯々の物語』(平凡社・東洋文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鶯鶯伝」の意味・わかりやすい解説

鶯鶯伝
おうおうでん
Ying-ying zhuan

中国,唐の伝奇小説元 稹 (げんじん) の作。『会真記』ともいう。張生という男が旅先の寺で,幼名を鶯鶯という崔家の娘を見そめ深い仲となったが,男の科挙受験のために添いとげられずに,彼女は別な家庭の人となる。作者の元じんが張と特に親しい友人として登場するが,実は張が作者であり自伝的要素をもつ小説であるという考証が,宋の王ちつによってなされている。この小説自体は特に傑作というほどではないが,宋以後しばしば小説や戯曲に改作され,元代にいたって戯曲史上最高の傑作とされる王実甫の『西廂記』となって花咲いた。

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