高天原神話(読み)たかまがはらしんわ

改訂新版 世界大百科事典 「高天原神話」の意味・わかりやすい解説

高天原神話 (たかまがはらしんわ)

記紀神話には,天界高天原,地上葦原中国あしはらのなかつくに),地下界黄泉国(よみのくに)(もしくは根の国)という3層の神話的世界構造がみられる。それぞれに王権神話における固有の意義をにない,単に天,地上,地下というだけではない。とりわけ高天原は,王権の神聖性がそこに由来する特別の世界であった。《古事記》では,高天原は原初にすでにあったように書かれている。それは,葦原中国に蟠踞する国津神(くにつかみ)と対立する天津神(あまつかみ)の居所であった。日向(ひむか)の檍原(あわきはら)で誕生した日神天照大神(あまてらすおおかみ)が,支配者として高天原にまつり上げられた。乱暴者の弟神素戔嗚(すさのお)尊との葛藤のあげく,日神が天の岩屋戸にこもる天の岩屋戸神話の舞台もここである。さらに高天原の天安河原(あまのやすのかわら)で,葦原中国の統治者としてアマテラスの子を天降すべく,天神の協議が行われた。国津神の国譲り(国譲り神話)の後に,葦原中国の統治を託す旨の神言を授かって,日神の孫瓊瓊杵(ににぎ)尊は高天原から日向に降臨する。この由来をもって,〈日の御子〉の裔(すえ)が代々葦原中国の統治者たることの正統性は動かぬものとなったとされる。奈良時代宣命にも〈高天原ゆ天降(あも)り坐(ま)しし天皇(すめら)が御世を始めて〉といった類型的表現が頻出する。すなわち高天原とは,地上の王権支配の正当性がそこに由来するところの天上の神聖な他界であるが,古くから現実の地図上に在所を求める説が絶えなかった。
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