精選版 日本国語大辞典 「頼・便」の意味・読み・例文・類語
た‐より【頼・便】
〘名〙 (「た(手)よ(寄)り」の意)
[一] 助けや、よすがとなるもの。
① 漠然と、すがってたのみになるものや人をいう。力になってくれるもの。よるべ。たのみ。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「ただこの猿どもにやしなはれて、こよなくたよりをえたる心地するもあはれなり」
※今昔(1120頃か)四「我一人の子をだに設て便(たより)と為むと思て」
② 具体的にたのみになるもの、効果を期待するものをさしていう。
(イ) 手がかり、足がかりなど、よりどころ。また、ものごとの契機・きっかけ。
※山家集(12C後)中「かさね着る藤のころもをたよりにて心の色を染めよとぞ思ふ」
(ロ) よりどころとなる資金など。よすが。
※今昔(1120頃か)四「更に経を可奉書一塵の便(たヨリ)无(な)し。〈略〉此を売て法花経書写・供養の便と為(せ)むと云ふ」
③ たのみとしてすがれるような間柄、関係などをいう。
(イ) 縁故。つて。てづる。
※平中(965頃)一八「なまほぎしたるものから、さすがに、ふみはとり伝へつべき人をたよりにて、上達部めきたる人の女、よばひけるを」
(ロ) 近い関係。縁。つながり。関連。
④ 処理、とりはからい、またその時機など、主として有利と判断されるものをいう。
(イ) 便利。便宜。都合。
※書紀(720)継体六年一二月(寛文版訓)「父の天皇便宜(たより)を図計(はか)りて勅賜ふこと既に畢りぬ」
(ロ) 都合のよい時。よい機会。ついで。幸便。
※土左(935頃)承平五年二月一六日「たよりごとに、ものも絶えずえさせたり」
(ハ) 手段。方法。方便。
※源氏(1001‐14頃)総角「人の心をのぶるたよりなりけるをおもひいで給ふ」
[二] (便) 連絡、通信などを伝えるもの。
② 消息を伝えるもの。音信。手紙。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「かたらひつきにける女房のたよりに、御ありさまなども聞きつたふるを」
※波形本狂言・木六駄(室町末‐近世初)「伯父や人から久々便(タヨ)りもないが」
た‐よ・る【頼・便】
〘自ラ五(四)〙
① 助けやよすがになるものとしてとりすがる、または心を寄せる。何かを期待して接近する。現在では「…をたよる」の形で他動詞的にも用いる。
※赤染衛門集(11C中)「笛の音に神の心やたよるらんもりの野風も吹きまさるなり」
※浮世草子・西鶴織留(1694)二「わがたよる所は、必(かならず)家さかへ繁昌するぞかし」
※夜明け前(1932‐35)〈島崎藤村〉第二部「知人の許をたよって行けと教へた」
② よりどころとして用いる。依存する。かかわりをもつ。
※続門葉(1305)冬「晴れ残る雲のひとむらたより来てまた降りいづる夕時雨かな〈憲円〉」
③ 恋心をもって異性に近づく。言い寄る。くどく。
※浮世草子・本朝二十不孝(1686)四「継母よろしく取なし〈略〉、人の娌などたよるを頻りに申せば」
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