ほう‐べん ハウ‥【方便】
[1] 〘名〙
① (upāya の意訳) 仏語。
仏教で、下根
(げこん)の
衆生を真の教えに導くために用いる便宜的な手段。また、その手段を用いること。法便。
※法華義疏(7C前)一「凡虚妄者、非レ善言レ善、非レ悪言レ悪、欲レ賊二前人一是名二虚妄一、如来雖二復非レ三面三一、只欲レ利レ物、可レ言二方便一、何是虚妄」
※観智院本三宝絵(984)下「もしよの人の畜生をころさむをみん時は方便してすくひたすけよ」
② とくに、密教では、自利と利他、向上と向下の両義にとり、自利、利他の実践を完成することとする。〔大日経‐一〕
③ 目的のために利用される一時の手段。また、その手段を用いること。てだて。たばかり。計略。「嘘も方便」
※続日本紀‐和銅四年(711)五月辛亥「其雖レ叙レ位、逗留方便、違レ主失レ礼、即追二其位一、還二之本貫一」
※太平記(14C後)三二「何にもして南山より盗出し奉らんと方便(はうベン)廻されけれ共」
[2] 〘形動〙 都合のよいさま。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三「ホンニホンニ
御方便(ホウベン)な物でございます」
た‐どき【方便】
※
万葉(8C後)五・九〇四「思はぬに 横しま風の にふふかに 覆ひ来ぬれば せむすべの 多杼伎
(タドキ)を知らに」
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方便
ほうべん
サンスクリット語のウパーヤupāya(近づく、到達する意)の訳。仏教の教えや実践がむずかしくて、一般の人々に理解しがたく実行しがたいのを、彼らを教え導いて、仏教に親しみ、仏教の本旨に到達させるために考案された巧みな手段をいう。とくに仏教が民衆化した大乗仏教において、さまざまな方便が語られ、大乗仏教経典は「方便品(ほん)」を設けている例が少なくない。とくに『法華経(ほけきょう)』のそれは名高い。方便が非常に重要視されて、六波羅蜜(ろっぱらみつ)に次いで方便波羅蜜(はらみつ)がたてられることもあり、密教は方便を究竟(くきょう)(最高)とする。また中国仏教では、方便のあり方を種々に分類する。のち俗語に転化し、「嘘(うそ)も方便」などと、目的に対して利用される便宜的な手段、過渡的な方法をいい、日本語ではかならずしもよい意味だけに用いられるとは限らない。
[三枝充悳]
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デジタル大辞泉
「方便」の意味・読み・例文・類語
た‐ずき〔たづき〕【方=便/活=計】
《「手付き」の意。「たつき」とも》
1 生活の手段。生計。
「此地に善き世渡の―あらば」〈鴎外・舞姫〉
2 事をなすためのよりどころ。たより。よるべ。
「言ふすべの―もなきは我が身なりけり」〈万・四〇七八〉
3 ようす。状態。また、それを知る手がかり。
「世の中の繁き仮廬に住み住みて至らむ国の―知らずも」〈万・三八五〇〉
た‐どき【方=便】
「たずき」に同じ。
「立ちて居て―を知らにむら肝の心いさよひ」〈万・二〇九二〉
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方便
ほうべん
upāya
仏教用語。原義は近づく,到達するの意。仏陀が衆生を導くために用いる方法,手段,あるいは真実に近づくための準備的な加行 (けぎょう) などをいう。転じて「嘘も方便」などの用例にみられるように,目的のために用いられる便宜的手段などをいうこともある。
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ほうべん【方便】
一般的には〈方法〉〈巧みなてだて〉ということ。ただし,仏教で方便を用いる場合は基本的に,すぐれた教化(きようけ)方法,サンスクリットのupāya‐kauśalya(善巧方便)ということであり,衆生を真実の教えに導くためにかりに設けた教えの意味である。経典・論釈のみならず,文学作品などに用いられる場合,微妙な意味の変化がみられるが,基本の意味をふまえることによって理解できよう。とくに《法華経》では方便を開いて真実をあらわすことが大きなテーマになっており,〈方便品〉では〈三乗(さんじよう)が一乗(いちじよう)の方便である〉という。
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普及版 字通
「方便」の読み・字形・画数・意味
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世界大百科事典内の方便の言及
【般若】より
…それらは《大般若波羅蜜多経》600巻(玄奘訳)として集大成された。さらに密教では,〈般若〉と〈方便(ほうべん)〉(ウパーヤupāya)とがあいまってはじめて解脱が成就されると説かれた。真理たる〈般若〉を体得するためには,手段としての〈方便〉が必要だからである。…
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