難破物除去ナイロビ条約(読み)なんぱぶつじょきょないろびじょうやく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「難破物除去ナイロビ条約」の意味・わかりやすい解説

難破物除去ナイロビ条約
なんぱぶつじょきょないろびじょうやく

航行の安全や海洋環境の保護のために、座礁して放置された有害な船舶などの除去について定めた条約。正式名称は「2007年の難破物の除去に関するナイロビ国際条約(Nairobi International Convention on the Removal of Wrecks, 2007)」である。国際海事機関IMO)の下で2007年5月18日に採択され、2015年4月14日に発効した。2021年9月時点での締結国は56か国である。

 適用範囲は排他的経済水域であるが、締約国は、領海も適用範囲とすることを選択できる。有害性の判断基準としては、水深航路との近接性、航行の密度と頻度、航行タイプ、港湾施設の制約などが定められており、環境基準としては、積み荷または油の海洋環境への漏出に起因する損害が定められている。また、効果的な措置がとられておらず、沈没・座礁の直前の船舶またはその合理的な可能性のある船舶にも適用される。

 船主は、難破船などの位置の特定・標示・除去のための費用負担に関する厳格責任(いわゆる無過失責任。故意または過失がなくても成立する責任)を負い、300総トン以上の船舶については強制保険またはその他の財政保証を付保し、締約国による確認証を取得し、それを当該船舶に常備しなければならない。また、船主または運航者は、難破船などについて被影響国や海運界に対して通報または警告する義務とともに、位置の特定に必要で実行可能なすべての手段をとる義務を負う。

 なお、日本沿岸の放置座礁船に対処するため、改正船舶油濁損害賠償保障法の下で2005年(平成17)3月1日から、船主責任相互保険(PI保険)に加入していない100総トン以上の外国航路船舶は入出港が禁止されていた。しかし、保険加入していても、船主による保険契約違反などの理由で保険金が支払われないケースもあり、放置船の除去は進んでいなかった。

 日本国内では、2020年(令和2)7月1日の加入書の寄託、7月2日の公布を経て、10月1日に発効した。

[磯崎博司 2021年10月20日]

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