阮咸(読み)ゲンカン

デジタル大辞泉 「阮咸」の意味・読み・例文・類語

げん‐かん【××咸】

中国、魏晋時代の文人。陳留(河南省)の人。あざなは仲容。阮籍の兄の子に当たる。音楽に通じ琵琶をよくした。竹林の七賢の一人。生没年未詳。
が愛用したところから》中国の弦楽器の一。円形または八角形の胴に長いさおをつけ、4弦または5弦を張り、棹上に十数個のじゅうを立てたもの。日本でも明清楽みんしんがくに用いる。

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精選版 日本国語大辞典 「阮咸」の意味・読み・例文・類語

げん‐かん【阮咸】

[1] 中国、魏晉時代の竹林七賢の一人。字(あざな)は仲容。阮籍の兄の子。官は散騎侍郎。音楽に通じ、琵琶(びわ)をよくした。楽器「阮咸」を作ったという。
[2] 〘名〙 (竹林の七賢の一人阮咸がよくひいたところから) 弦楽器の一つ。琵琶(びわ)一種で、円胴に棹(さお)を付けたもの。秦代の楽器の弦鼗(げんとう)から出た。正倉院に現存するものは四弦十四柱(じ)。明・清代には胴を八角形にしたものが用いられ、日本の明清楽でも使われた。月琴(げっきん)
正倉院文書‐天平勝宝八年(756)六月二一日・東大寺献物帳「螺鈿紫壇阮咸一面」 〔新唐書‐元行沖伝〕

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改訂新版 世界大百科事典 「阮咸」の意味・わかりやすい解説

阮咸 (げんかん)
ruǎn xián

東アジアのリュート属の撥弦楽器。現在中国では阮と呼ばれる。唐代に,晋の琵琶の名手で〈竹林の七賢〉(七賢人)の一人阮咸の名にちなんで呼称された。正倉院には4弦14フレットのものが保存されている。円形の胴に長い棹をもつ。伝統的な調弦は2弦ずつを同音に5度に調弦する複弦制を用いるが,現在では4弦の各弦の音程関係を5度または4度に調弦して用いる(たとえばソ・レ・ラ・ミ,ド・ソ・レ・ラ)。形の大きさや音域の広さにより,大阮,中阮,小阮,低阮の各種があり,演奏の際には桴(ばち)か指甲で弾奏する。この阮咸に淵源をもつ月琴や秦琴が今日ひろく民間合奏独奏で用いられている。日本には奈良時代に伝来したが,すぐすたれた。後に清楽(しんがく)用の阮咸が伝わったが,これは八角形の胴に長い棹をつけ,4弦13フレットをもっており,その調弦は,4弦を複弦制としている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「阮咸」の意味・わかりやすい解説

阮咸
げんかん

中国、唐代の撥弦(はつげん)楽器。それ以前は秦琵琶(しんびわ)と称され、構造からはリュート属琵琶系。阮咸の名は、これを愛奏したといわれる晋(しん)代の文人で「竹林(ちくりん)の七賢」の一人の名をとったもの。わが国の正倉院に二面保存されているが、それらの全長は約1メートル、棹(さお)は長く約60センチメートル、円形胴の直径約40センチメートルで4弦、棹から胴面上部にかけて14の柱(じゅう)(フレット)がつけられている。

 この唐代の阮咸は、宋(そう)代から明(みん)代にかけて、短棹円形胴の月琴(げっきん)を生み、明代に胴がやや小形の八角形になり、長棹八角胴の阮咸となった。日本の清楽(しんがく)でもこの長棹八角胴の阮咸(4弦12柱)が用いられている。なお、日本の明楽では、長棹八角胴の楽器を月琴とよんでいる。

[シルヴァン・ギニアール]

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普及版 字通 「阮咸」の読み・字形・画数・意味

【阮咸】げんかん

楽器。月琴の類。〔資暇録、下〕(阮咸)其の形はに象(かたど)り、其の聲は琴に合ふ。目(なづ)けて琴と爲す。~、今阮氏の琵琶、正に手指を以てするに、反(かへ)つて古琵琶の名を得ず。(すべ)て本義を失ふなり。

字通「阮」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「阮咸」の意味・わかりやすい解説

阮咸【げんかん】

中国のリュート属撥弦楽器。中国語ではルアン・シエン。〈竹林の七賢〉の一人,阮咸にちなんだ呼称。古くは秦琵琶(チンピーパー)と呼ばれた。4弦で2弦ずつ同音に調律。長い棹をもち,共鳴胴は円形。明・清代には棹の短いものが出現して月琴と呼ばれたが,唐代の伝統を受け継いだものも残り,共鳴胴がやや小さい八角形のものも出現。合奏や独奏に用いられる。日本には,唐代のものが奈良時代に伝来したが,すぐすたれた。後に清楽用の阮咸が伝わったが,これは八角形の共鳴胴と長い棹をもつ。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「阮咸」の意味・わかりやすい解説

阮咸
げんかん
ruan-xian

中国,日本の弦楽器。リュート属の一種。秦の弦とう (げんとう) に起源があり,秦琵琶あるいは秦漢子と呼ばれ,名称は西晋 (3世紀) の「竹林の七賢」の一人阮咸がこれをよく弾いたことに由来。正倉院宝物中の阮咸によると,円形胴の直径約 40cm,厚さ 3.6cm,棹の長さ約 60cmで,胴の腹板は沢栗,槽と棹は紫檀または桑木を材料とする。唐代以後宮廷の俗楽器として用いられた。明,清代にいたり,棹を短くし,胴を桐でつくった楽器を月琴と称して盛んに使用,従来の阮咸は胴がやや小さい八角形に変ったが,これをも月琴と称するなど,阮咸と月琴との混同がみられる。日本の明楽でも八角胴の阮咸を用いた。胴の直径 26cm,厚さ 3cm,棹の長さ 58cm,4弦 12柱で2弦ずつ同音にして5度の音程に調弦,義甲 (爪) を用いて弾奏する。

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