リュート(読み)りゅーと(英語表記)lute 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リュート」の意味・わかりやすい解説

リュート
りゅーと
lute 英語
luth フランス語
Laute ドイツ語
lauto イタリア語
láud スペイン語

中世からルネサンス、バロック時代にかけてヨーロッパで非常に愛好された撥弦(はつげん)楽器。卵を縦に割ったような形で、50センチメートルくらいの長さの胴、幅が広く短い棹(さお)、後方にほとんど直角に曲がった糸蔵(いとぐら)(糸巻のつけられた部分)が特徴的である。胴の裏板は、細長い板を横に何枚もつなぐことで曲面をつくっている。表板の上寄りに透(すかし)彫りの響孔が、表板上の下方に糸留めがあり、駒(こま)は用いない。棹には7~10か所に弦を巻き、フレットにする。弦はガット製で、16世紀の楽器で複弦6コースだが、最高音弦だけは旋律の演奏のために単弦である。調弦は演奏する音楽にあわせて考えられ、時代による違いもあるが、標準的な調弦としては、いちおうG2―C3―F3―A3―D4―G4があげられ、低いほうの2、3コースは1オクターブ間隔とすることが普通であった。音域や大きさの異なるリュートもあり、調弦も異なる。演奏には、中世ではプレクトラム(爪(つめ))が用いられたが、16世紀には直接指ではじく奏法が確立していた。

 リュート音楽の現存する最古の楽譜は、1507年にイタリアで出版された曲集で、続いて他の諸国でも、声楽の編曲や舞曲を中心に、独奏や重奏、歌とリュートのための曲集が数多く出版された。その楽譜には、五線譜ではなく、リュートの各コースに対応した線を引き、はじく弦と押さえるフレットを指示したタブラチュアとよばれる記譜法が使われた。タブラチュアは、18世紀初めまで、リュート以外の撥弦楽器用にも用いられた。11~12世紀以降、ヨーロッパ諸国に普及し、宮廷楽器として「楽器の王(女王)」とまで称されるようになったリュートも、17世紀ごろからしだいに人気を失っていく。イタリアでは、17世紀初めからリュートよりも低いほうに音域が広いテオルボキタローネに中心が移っていき、他の地域でも17世紀なかばには衰退に向かう。一方、ドイツでは比較的長く存続し、J・S・バッハはリュートのための作品を残している。

[前川陽郁]

リュート属

C・ザックスの楽器分類法では、撥弦、擦弦を問わず、棹と胴からなる弦鳴楽器を「リュート」とし、弦鳴楽器をチター、リュート、リラ、ハープの4種に大きく分けている。一方、ホルンボステル‐ザックスの分類では、共鳴胴が単なる付加物ではなく、弦と共鳴胴が有機的に結び付けられているものを複合弦鳴楽器とし、単純弦鳴楽器(チター)と区別している。ここでは「リュート」は前者の下位分類になる。

 C・ザックスの分類法におけるリュート属には、バイオリン、ギター、三味線、胡弓(こきゅう)などが含まれるが、古くは紀元前2000年ごろのメソポタミア、前1500年ごろのエジプトに現れるほか、ギリシアでも用いられた。ヨーロッパのリュートのように棹が胴より短いタイプの祖型は、前8世紀のペルシアに誕生したと考えられ、紀元後1世紀にはインドにも認められた。これが中国や日本に伝えられ、琵琶(びわ)となる。一方、この祖型はアラブにも伝わり、ウードとよばれ、13世紀にはアラビア系の移民によってヨーロッパへもたらされた。「リュート」の名も、アラビア語で木を意味するウード'Ūdに由来する。

[前川陽郁]


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百科事典マイペディア 「リュート」の意味・わかりやすい解説

リュート

撥弦(はつげん)楽器(弦楽器)。共鳴胴とこれについた棹(さお)にまたがって平行に弦が張られ,指ではじいて演奏する。広く知られるヨーロッパの楽器をはじめ世界各地に多くのリュート属楽器があり,起源については諸説あるが,11―12世紀以降ヨーロッパ各地に普及したリュートの祖先はアラビアのウードである。16世紀ヨーロッパの標準的なものは,縦割りの西洋ナシ形の胴とフレット付きの棹,後方に折れ曲がった糸蔵をもち,弦は,2本で1対が5コース(列)と最高音弦1弦の6コース11弦。17世紀には10〜12コースの楽器も生まれている。18世紀に入るとギターマンドリンにとって代わられ急速にすたれたが,古楽への関心の高まりとともに復権。英国のダウランド,ドイツのS.L.ワイス〔1686-1750〕らの名曲が数多く残されている。→楽器ビオル
→関連項目ウクレレカマーンチェガンブスグスレ月琴阮咸胡琴コムズサズサーランギーサロード三弦シタールジプシー・バンドセタールタールダン・ニー(弾二)タンブールドゥタールドンブラハーディ・ガーディ馬頭琴バラライカバンドゥリアビーナーブズキラウードラバーブリチェルカーレリラルバブルバーブ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リュート」の意味・わかりやすい解説

リュート
lute

(1) 中世からバロック期にかけてヨーロッパで流行した棹 (ネック) のついた弾奏楽器。中近東から輸入されたもので,アラブ諸国では現在でもよく使われる。胴はマンドリンのように丸く,弦数は 12~13世紀には4本であったが,16世紀には古典的な複弦6コースのリュートが完成し,その後付加弦をもつ 10~14コースの楽器ができた。長い期間使われ続け改良を施された結果,多くの変種も生じ,キタローネテオルボなどが生み出された。 (2) ホルンボステル=ザックス楽器分類法による弦鳴楽器のリュート属。胴と棹からできている弦楽器を総称する。これには,リュート,ギター,ハーディ・ガーディ,バイオリン,マンドリンをはじめ,日本の琵琶,三味線,アラビアのウード,インドのシタール,ロシアのバラライカなどが含まれる。

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精選版 日本国語大辞典 「リュート」の意味・読み・例文・類語

リュート

〘名〙 (lute) 古典的な撥弦楽器の一種。大きな共鳴胴と、それにつながる棹(さお)に平行に張られた弦を指先ではじいて演奏する。古代エジプト時代に発生し、中世ヨーロッパで特に発達・普及した。〔日本楽器の名称(1928)〕

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デジタル大辞泉 「リュート」の意味・読み・例文・類語

リュート(lute)

撥弦楽器の一。卵を縦に割ったような形の胴に幅広さおが付き、糸巻はほぼ直角に後方に折れ曲がる。弦の数や調弦法は一定しない。ペルシアのウードが起源とみられ、中世から16、7世紀のヨーロッパで広く用いられた。

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世界大百科事典 第2版 「リュート」の意味・わかりやすい解説

リュート【lute】

弦楽器の一種。リュート属楽器といえば広義には棹(さお)と共鳴胴をもち,弦を指ではじくことによって音を出すすべての楽器が包括される。それらの中で,棹が長い三味線型の楽器を〈長いリュート属〉,棹が短めの琵琶型の楽器を〈短いリュート属〉として大別することができる。狭義のリュート属楽器は,この後者の一部である。狭義のリュート属楽器は,側面板をもたず,裏面(背面)は丸く隆起した形をとるものである。〈セイヨウナシを縦二つ割りにした形〉とも表現されるこの共鳴胴の形が,狭義のリュート属を決定する特色である。

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世界大百科事典内のリュートの言及

【ウード】より

…音楽学者ファーラービーはじめ音楽家,理論家たちは著書の中で,音組織の実験の土台としてウードをもちいている。なお,ウードは十字軍とともに,またスペインを経て中世ヨーロッパに入り,リュートの祖となった。リュートという名は,アラビア語の冠詞alをつけたウード,al‐‘ūdに由来するものである。…

【楽器】より

…さらに金属を用いるようになると,鐘やチター系弦楽器が現れる。さらにハープ系弦楽器は前3000年代に,両面太鼓は前2000年代に,シンバルやリュート系弦楽器,金属製のらっぱなどは前1000年以後に現れたといわれる。紀元後に初めて現れたものには,笙,銅鑼(ゴング),弓奏弦楽器などがあるとされる。…

※「リュート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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