鉢叩(読み)はちたたき

改訂新版 世界大百科事典 「鉢叩」の意味・わかりやすい解説

鉢叩 (はちたたき)

(1)民俗芸能。〈鉢敲〉とも書く。念仏踊踊念仏)の一種。瓢簞(ひようたん)をたたき念仏を唱えて踊る。平安時代の空也上人が始めたと伝えられ,中世,近世には門付(かどづけ)芸として半僧半俗の芸能者によって演じられた。現在は,空也念仏踊と称され,福島県会津若松市の旧河東町の八葉寺,名古屋市の養老寺などで行われている。

(2)狂言の曲名。能《輪蔵(りんぞう)》の替間(かえあい)狂言だが,独立した本狂言としても演じられる。都の鉢叩き僧が北野神社へ参詣しようと仲間を待つところへ,ほかの鉢叩き僧,鉦(かね)打ち,茶筅(ちやせん)売りが〈治まれる,都の春の鉢叩き,叩き連れたるひと節を,茶筅召せと囃さん,この茶筅召せと囃さん〉と謡いながら登場。北野について,末社の瓢の神(ふくべのしん)の前で勤めをしようといって,〈釈迦は去り,弥勒(みろく)は未だ世に出でず,弥陀悲願を頼まずば,などか仏果に至らざるらん〉と,瓢簞を撥(ばち)でたたきながら謡(うた)い踊る。勤めが終わると,瓢の神が出現し,謡い舞いながら,一同を祝福する。この曲は大勢物(おおぜいもの)で,登場はシテ・アドが鉢叩き僧,小アド瓢の神の3人のほかに,立衆(たちしゆう)として,鉢叩き僧,鉦打ちが2人,茶筅売りが4人ないし6人登場する。以上は,和泉流台本と演出によるが,本曲には類曲として大蔵流福部の神・勤入(ふくべのしんつとめいり)》,和泉流《瓢の神》,大蔵流《福部の神》がある。以上の4曲はそれぞれ別曲だが,和泉流《鉢叩》と大蔵流《福部の神・勤入》は筋立てが大同小異で,ともに能《輪蔵》の替間狂言兼本狂言であるので,ほぼ異名同曲といえる。ただし,勤めの部分の歌詞が大幅に違い,大蔵流《福部の神・勤入》の歌詞は和泉流《瓢の神》の歌詞と同系である。和泉流《瓢の神》と大蔵流《福部の神》は,ともに替間狂言とは別に作られた本狂言だが,《福部の神》は勤めの部分をまったく欠いている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鉢叩」の意味・わかりやすい解説

鉢叩
はちたたき

中世において、家々の門に立って喜捨(きしゃ)を乞うた門付芸(かどつけげい)の一種。鉢扣、鉢敲とも書く。声聞道(しょうもんどう)の一つで、鹿の角をつけた鹿杖(かせづえ)をつき、瓢箪(ひょうたん)を撥(ばち)で叩きながら念仏や無常和讚(わさん)を唱えて踊った。なぜ鉢叩と呼ばれたかは不詳。空也(くうや)上人の念仏踊りに発するといわれ、とくに11月13日の空也忌より除夜の晩まで、洛中勧進(かんじん)し葬所を巡った。上杉本「洛中洛外(らくちゅうらくがい)図屏風」には、京都六条長講堂の門の側に筵(むしろ)を敷き、瓢箪を叩く二人連れの鉢叩の姿が描かれており、筵の上には喜捨された銭がみえる。

 彼らはまた茶筅(ちゃせん)をつくり笹(ささ)に差して売り歩いたが、狂言『鉢叩』は、「都の春の鉢叩き、叩き連れたるひと節を、茶筅召せ」とはやしながら北野社の末社紅梅殿(こうばいでん)(瓢(ひさご)の神)に参籠して歌い舞う様子を伝える。近世には「鉢屋」「茶筅」として賤視された。

[丹生谷哲一]

『『七十一番職人歌合・新撰狂歌集・古今夷曲集』(佐竹昭広ほか編『新日本古典文学大系61』所収・1993・岩波書店)』

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世界大百科事典(旧版)内の鉢叩の言及

【ヒョウタン(瓢簞)】より

…ウリ科の一年草(イラスト)。ユウガオの変種でその果実は観賞用や日よけ用として親しまれ,また古くから酒や水の容器として用いられてきた。おそらくアフリカの原産と考えられるが,現在は熱帯から温帯地方にかけて広く栽培される。ヒョウタンの栽培や利用はきわめて古くから知られており,新大陸と旧大陸にわたって,古くから栽培されていた植物はほかに例がない。つる草で茎葉や花はユウガオによく似ていて,花は夕方咲き,翌朝しぼむ。…

※「鉢叩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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