避難指示区域(読み)ひなんしじくいき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「避難指示区域」の意味・わかりやすい解説

避難指示区域
ひなんしじくいき

大規模な自然災害や原子力発電所の事故などの際、住民の立入りを原則制限・禁止する地域。大災害・事故の発生、あるいはその前兆がある場合、住民の生命・身体への危険を防ぐことを目的に設定される。災害対策基本法のほか、原子力災害対策特別措置法や水防法などに基づき、それぞれ政府が指示し、都道府県知事市町村長が設定する。

 2011年(平成23)3月11日の東北地方太平洋沖地震により発生した東京電力福島第一原子力発電所事故で、政府は事故後、福島県の被災12市町村を対象に、住民に避難を求める、(1)警戒、(2)計画的避難、(3)緊急時避難準備、の三つの避難指示区域を設けた。原則立入禁止の「警戒区域」は福島第一原発から半径20キロメートル圏内であり、指定から約1か月以内に立ち退きを求めた「計画的避難区域」は同原発から半径20キロメートル圏外でかつ、年間積算放射線量が20ミリシーベルトに達するおそれのある区域であった。子供や妊婦などに避難を要請する「緊急時避難準備区域」は同原発から半径20キロメートルから30キロメートル圏内のうち、「計画的避難区域」に該当しない区域であった。このうち緊急時避難準備区域は2011年9月末に解除された。また放射線量の低下や自宅への早期帰還を希望する住民の意向をくんで、2012年4月から2013年8月にかけて、警戒区域と計画的避難区域を新たに、(1)帰還困難、(2)居住制限、(3)避難指示解除準備、の3区域に再編した。長期にわたって帰宅できない「帰還困難区域」は指定直前の2012年3月時点で年間積算放射線量が50ミリシーベルトを超えており、事故後6年を経過しても年間積算放射線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのあった地域である。原則寝泊まりはできないが一時帰宅を認める「居住制限区域」は年間積算放射線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあると確認された地域、原則寝泊まりはできないが一時帰宅のほか事業再開や営農再開を認める「避難指示解除準備区域」は年間積算放射線量が20ミリシーベルト以下となることが確認された地域であった。除染や電気・ガス・水道・道路などのインフラ整備が進み、年間積算放射線量が20ミリシーベルト以下になるのが確実であるとして、政府は2019年4月に「居住制限区域」を、2020年(令和2)3月には「避難指示解除準備区域」を解除した。ただ事故後10年がたつ2021年3月時点でも「帰還困難区域」が南相馬(みなみそうま)市、大熊(おおくま)町、富岡(とみおか)町、浪江(なみえ)町、双葉(ふたば)町、飯館(いいたて)村、葛尾(かつらお)村の7市町村の一部に広がっている。

[矢野 武 2021年6月21日]

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