農耕起源神話(読み)のうこうきげんしんわ

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「農耕起源神話」の意味・わかりやすい解説

農耕起源神話
のうこうきげんしんわ

農作物となる植物がどのようにして生じ,栽培されるようになったかを説明した神話。民族学者 A.E.イェンゼンによれば,農耕起源神話には2つの主要なタイプが区別される。第1は,原初に神的存在が殺され,その死体から種々の食用植物が発生して,それによって農耕が始ったという内容をもつ話で,イェンゼンはこれを「ハイヌウェレ型」と呼ぶ。第2のタイプは,太古に天界から穀物の種が盗み出されて人類のもとにもたらされたという話で,「プロメテウス型」と呼ばれる。イェンゼンによれば,後者は穀物を栽培する農耕文化とともに発生した神話で,前者はそれより一層古い,芋やバナナなどの果樹を焼畑で栽培する原始的な農耕を基盤にして形成されたものであろうという。しかし「ハイヌウェレ型」の神話は,たとえば日本神話のオオゲツヒメやウケモチノカミを主人公とする話がそうであるように,穀物栽培の起源を説明する神話に変容した形で見出されることも多い。また世界の農耕起源神話のなかには,このタイプのどちらにも属さない話も多く,たとえばギリシア神話デメーテルトリプトレモスに麦の種を与え,天から地上農業を広めて回らせたという話や,日本神話のアマテラスオオミカミがアメノオシホミミノカミに稲穂を持たせて地上に降ろしたという話などはその例である。

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世界大百科事典(旧版)内の農耕起源神話の言及

【月】より

…また月の起源,月の満ち欠け,月と太陽との関係なども多くの神話でとり扱われている。
[月と豊穣]
 月が豊穣の源泉であるという考えは,夜露が月から下るのだという観念ばかりでなく,地域によっては農耕起源神話にも表れている。セレベス(スラウェシ)の西トラジャ族の神話によると,月のなかに不思議な木が生えている。…

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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」