農業集約化(読み)のうぎょうしゅうやくか

日本大百科全書(ニッポニカ) 「農業集約化」の意味・わかりやすい解説

農業集約化
のうぎょうしゅうやくか

農業経営の集約度を高めること。その逆が農業粗放化である。集約度とは、農業経営にとって基本的に重要な生産要素である土地の利用状況を、資本と労働の投入量でとらえる指標である。単位土地面積当りの資本費用額(種苗肥料農薬、機械、建物などの物財を調達維持するための費用)と労働費用額との和で示されるが、10アール当り労働時間や肥料投入量というように特定の生産要素について物量で示されることもある。

 農業集約化には、物財の増加による資本集約度の向上と労働の増加による労働集約度の向上とがあり、それぞれ資本集約化、労働集約化とよばれる。一般に、生産物価格が高いほど、あるいは、土地価格ないし地代に対して資本(物財)や労働の価格が低いほど、集約化されやすい。

 農業集約化の様相は国や地域によりさまざまである。土地、資本、労働という生産要素の希少性や市場との距離などが異なるからである。たとえば、相対的に労働が希少で労賃が高いアメリカ農業は労働粗放的、資本集約的であり、労働が豊富で労賃が低い日本農業は労働集約的である。あるいは、市場に近いヨーロッパ農業に比べて、市場から遠い南アメリカ諸国やオーストラリアの農業は粗放的である。

 また、農業集約化の様相は時代的にも異なる。経済発展に伴う生産要素の希少性の変化、生産・加工・輸送技術の進歩、生産物需要の拡大などの影響を受けるからである。たとえば、国際比較において労働集約的とされる日本農業も、1960年(昭和35)ごろから労働粗放化、資本集約化の傾向を強めた。これは、高度経済成長下での労働の希少化、技術進歩と資本の増大、食生活の多様化と農畜産物需要の拡大によるところが大きい。

 このように、農業集約化の基本的な動向は、自然的ないし地理的な制約と経済発展段階による制約とを受ける。そして、その範囲内において多様な集約化が展開する。近年の日本農業では、野菜・花卉(かき)の施設園芸、果樹作、畜産などの経営は資本集約化を目ざし、多数の作目・畜種を組み合わせた複合経営(多角経営)は労働集約化を目ざしている。一方、水稲作や麦作などの経営は粗放化しつつある。こうした多様化は、農家の兼業化、農業協同組合などによる指導と統率、農業に進出した一部の資本制企業の行動など、農業経営にかかわる主体の多様化とも関係している。

[乗本秀樹]

『ブリンクマン著、大槻正男訳『農業経営経済学』(『大槻正男著作集2』所収・1977・楽游書房)』『金沢夏樹著『現代の農業経営』(1967・東京大学出版会)』『吉田寛一・菊元冨雄編『農業経営学』(1980・文永堂)』

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