辞(中国古典文学)(読み)じ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「辞(中国古典文学)」の意味・わかりやすい解説

辞(中国古典文学)

中国古典文学の文体の一つ。代表的なものは「楚国(そこく)の辞(うた)」すなわち「楚辞(そじ)」である。戦国時代の末、楚の国に宰相詩人屈原(くつげん)とその一派が出て、新形式の詩をつくり始めたが、それは楚(揚子江(ようすこう)の南方)地方の民謡を起源にするという。同じ古代歌謡である『詩経(しきょう)』が北方民族的であり、音楽にあわせて歌われたのに対し、『楚辞』は南方民族的であり、空想憂愁のかげ深い韻文を主とする。たとえば「離騒(りそう)」は「騒(うれえ)に離(あ)う」の意で、屈原が流謫(るたく)されて山野を漂泊し、憂悶(ゆうもん)のすえ投身自殺のやむなきに至った経過を歌う優れた叙情詩である。このほか、漢代の武帝の「秋風辞(しゅうふうのじ)」、六朝(りくちょう)時代の陶淵明(とうえんめい)「帰去来辞(ききょらいのじ)」などが知られる。

[杉森正弥]

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