軽度認知障害(読み)ケイドニンチショウガイ(英語表記)mild cognitive impairment

デジタル大辞泉 「軽度認知障害」の意味・読み・例文・類語

けいど‐にんちしょうがい〔‐ニンチシヤウガイ〕【軽度認知障害】

記憶力が年齢相応以上に低下し、物忘れがひどくなったという自覚があるが、それ以外に認知機能障害はみられず、日常生活に大きな支障のない状態。認知症になる可能性が高いとされるが、早期に治療を始めることで進行を遅らせる効果が期待される。MCI(mild cognitive impairment)。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「軽度認知障害」の意味・わかりやすい解説

軽度認知障害
けいどにんちしょうがい
mild cognitive impairment

認知症(アルツハイマー病など)とはいえないが、知的に正常ともいえない状態。最近ではアルツハイマー病の前駆状態を意味する用語としてとらえられている。アメリカ人医師ピーターセンRonald Carl Petersen(1946― )によって1995年に提唱された。MCIと略称される。

 加齢とともに、だれしも物忘れをしやすくなるが、どこまでが老化現象で、どこからが認知症なのかという問いは、ずっと以前からあった。そのため、現在広く普及しているMCIの考え方が主流になるまでに、いくつかの認知症前駆状態の概念が提唱されていた。1960年代に示された「良性健忘」と「悪性健忘」という概念は、このような疑問への初期回答として知られている。

 ピーターセンによるMCIの概要は以下のとおりである。すなわち、(1)主観的な物忘れの訴え、(2)年齢に比して記憶力が低下、(3)日常生活動作は正常、(4)全般的な認知機能は正常、(5)認知症は認めない。これらMCIの概念については、これまでたびたび検討が繰り返され改定がなされてきたが、いずれであれ、MCIは状態を示し、疾患をさすものではないから、その基盤にはさまざまな疾患が存在し、そこにはうつ病などの精神疾患も含まれうる。

 MCIが注目される背景としては、新治療薬の開発によりアルツハイマー病の早期診断が有効な治療につながりつつあることが大きい。また、最近ではMCI期でも根本治療開始には遅いとして、「前臨床期preclinical」というMCIの前駆期も注目されている。

[朝田 隆 2023年9月20日]

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知恵蔵 「軽度認知障害」の解説

軽度認知障害

認知症ではないが、物忘れなどの認知症と似た症状があること。正常と認知症の中間的な状態を指す。
衣服着脱や食事の支度、交通機関を使っての移動などは自立しており、自覚的にも周囲から見ても、物忘れ以外に日常生活上の大きな支障はないが、このうち何割かは数年後に認知症に移行していくと考えられている。認知症に移行する割合についてはまだはっきりと分かっていないが、軽度認知障害の診断を受けた人の約半数が4年以内に認知症に移行するという研究結果がある。厚生労働省研究班の推計では、65歳以上の高齢者で認知症の人が15%(462万人)、これに対して軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)の人は約13%(約400万人)とされている。
人の名前や読んだ本の題名など、知っているはずの固有名詞が思い出せないといった現象は、加齢と共に増えるのが一般的で、こうしたことは正常とされる。軽度認知障害が疑われるのは、大事な予定を忘れることがあったり、忘れたこと自体に本人が気づいていなかったりするような場合である。後に認知症に移行し、前駆症状であったとされるケースにおいては、こうした物忘れの他に、言葉を発したり聞き取ったりすることがうまくできなくなったり、注意力のバランスを欠いたり(注意力が途切れる、ある部分を全く無視してしまうなど)、視空間認知がこれまでと異なる(いつも通っている場所が知らない所に見える、道順が分からなくなるなど)といった症状が合併していることが多いとされている。
認知症に移行する機序について明らかにはなっていないながら、一定数が認知症に移行することは確かなため、軽度認知障害のうちに早期に発見し、その段階から適度な知的刺激や運動を促すことによって、認知症の発症を遅らせる効果があるのではないかと期待されている。厚生労働省では、認知症施策推進5カ年計画に基づき、2013年4月から早期診断、早期対応を始めとする対策に取り組んでいる。

(石川れい子  ライター / 2014年)

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