日本大百科全書(ニッポニカ) 「固有名詞」の意味・わかりやすい解説
固有名詞
こゆうめいし
同一の部類に属する個々の事物を他と区別するために、それぞれに与えられる特有の名称。たとえば人名、地名、国名、団体名、商品名の類で、文法的には名詞の一類として扱われる。英語などのヨーロッパ語では頭文字を大文字で書くが、日本語でもローマ字書きするときに頭文字を大文字にするのは、これに倣ってのことである。
固有名は、本来、個々の事物によってすべて異なるはずであるが、たとえば同じ「ひかり」という名称が、列車名にも、たばこの名にも用いられて差し支えないのは、両者が類を異にするものだからである。同姓、同名は区別のためには望ましくないのだが、命名にいくつかのパターンがあるためにおこる偶然の一致で、やむをえない。「太陽」などは一個の事物特有の名であるけれども、もともと太陽はただ一つしか存在せず、他の同類と区別する必要のないものだから、これは固有名詞ではない。
一般に、普通名詞は、いくつかの事物の属性の共通性に着目して、これを同一の範疇(はんちゅう)にくくって命名したものだから、その意味は概念的、普遍的なものであり、要約して記述することも可能である。これに対して固有名詞は、単なる認知のための標識にすぎず、自身ではなんの意味をも表さないようにみえるけれども、本来これは、ある限定された場面において、特定の個を指示するためのものであって、そういう場面においては、きわめて具体的、個別的な豊富な情報を聞き手に提供するものである。「太閤(たいこう)」(秀吉)、「お大師さん」(空海)のように、普通名詞が固有名詞化した場合などに、その事情はよくうかがえる。
[阪倉篤義]