藻場(読み)モバ(英語表記)seaweed bed
seagrass bed

デジタル大辞泉 「藻場」の意味・読み・例文・類語

も‐ば【藻場】

沿岸で海中に海草の繁茂している所。アマモ群落アマモ場ホンダワラ類の多いガラモ場コンブ類などの生えている海中林とよびわけることもあり、魚類がよく集まる。

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精選版 日本国語大辞典 「藻場」の意味・読み・例文・類語

も‐ば【藻場】

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改訂新版 世界大百科事典 「藻場」の意味・わかりやすい解説

藻場 (もば)
seaweed bed
seagrass bed

沿岸に広がる沈水性海草あるいは海藻の群落。顕花植物のアマモの群落をアマモ場Zostera bed,褐藻のホンダワラ類の群落をガラモ場Sargassum bedという。アラメカジメ,コンブなども大群落を形成するが,これらは海中林submarine forestと呼ばれる。なおアラメ場,アオサ場,テングサ場などの語を用いることもある。アマモは分布が広く北半球の太平洋,大西洋,地中海の熱帯から温帯の主として内湾にみられ,一部,北緯70°付近のノルウェー沿岸まで進出しており,アマモ場を形成している。日本ではみられないが,アマモに近縁のリュウキュウスガモThalassia,ウミジグサHalodula,ウミヒルモHalophila,ボウバアマモSpringodium,ウミショウブEnhalus,シオニラ(リュウキュウアマモ)Cymodocea,スガモPhyllospadixなどが,世界各地域で同じような海草群落をつくっている。岩礁域のホンダワラ類の群落,大型褐藻類の海中林も広く世界中に認められているが,南・北アメリカ太平洋岸のジャイアントケルプMacrocystisの海中林は有名である。

 藻場は生産性が高く,また生息している生物の種類が豊富で多様性に富む特徴的な生態系を有する。藻場とくにアマモ場での生産性は高く,1日当り5~15gC/m2,ときに20gC/m2近い値を示す(gCは炭素の重さ)。ちなみに生産性が高いことで知られるペルー沖の湧昇流域では11gC/m2サンゴ礁では10gC/m2である。ただ海草・藻の場合,直接これらを摂食する生物は意外に少ない。褐藻類の場合,ウニ類,アワビ,サザエなどの巻貝類などが藻食性だが,アマモなどの海草の場合,無脊椎動物でこれを餌とするのはウニ類の一部などごくわずかで,むしろ水鳥,ウミガメ,海牛類(ジュゴン,マナティー)などの脊椎動物が食べる。したがって高生産がそのまま上の栄養段階へ移行する割合より,死んだり,いろいろな原因で切れたりしたものが海底で,あるいは浜に打ち上げられて分解され,デトリタスdetritus(生物体の破片などと,そこに繁殖している微生物を含めた有機物の総称)となってから,ここを出発点とした食物連鎖に組みこまれるもののほうが多い。したがって堆積物食性の底生生物が多い。このほか海草・藻が繁茂することにより,付着ケイ藻や小型甲殻類,軟体動物など多くの生物が生活できる面積が格段に広くなるので,群集が複雑かつ豊かになる。また藻場の発達によって流れが抑えられるので,静穏な水域ができ,水中の懸濁物が堆積しやすくなる。植物体上に生活する生物種だけでなく,こういうものを餌としたり,隠れ家を求める生物種も集まる。藻場は水産的にも重要とされる。しかしその重要性は,漁獲の対象生物が藻場に生息するという場合がないわけではないが,これよりむしろ有用生物の稚仔(ちし)の成育場としての意味が重要であろう。

 藻場の生物には周年定住する種類,季節的にあるいは生活史の一時期に定住する種類,時に来遊する種類がある。魚の場合,定住する種類としてはアミメハギアサヒアナハゼハオコゼ,チャガラなどのハゼ類,ヨウジウオ類などが藻場におもに生息する種類だが,ほかにベラ類なども周年みられる。産卵期に藻場にくるものはメバル,カサゴなどであり,これらの幼・稚魚やタカノハダイ,カワハギ,マダイ,ハタなどの幼・稚魚も藻場につく。時に来遊するものとしては,ウミタナゴ,シマイサキ,クロダイ,ヒガンフグなどがある。藻場の生物群集というのは,地域が異なっても類似性が高く,世界的にみてもアドリア海のポシドニアPosidonia(ヒルムシロ科)群落にすむ魚類はヨウジウオ類,カサゴ類,ハゼ類,ベラ類などの小型種で,瀬戸内海のアマモ場の調査で知られている魚種と一致する。沿岸の開発が進むにつれ,埋立て,水・底質汚染などの影響で各地で藻場が減り問題となっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「藻場」の意味・わかりやすい解説

藻場
もば

海洋の沿岸の浅所に生育する沈水性の海草(海産顕花植物)や大形海藻の群落を藻場とよぶ。藻場には大別して、波の静かな沿岸や内湾の砂泥地に生育するヒルムシロ科のアマモの群落のアマモ場(またはアジモ場)と、外海沿岸の岩礁地帯に生育するホンダワラ類で形成されるガラモ場がある。そのほか、アラメ・カジメ類、コンブ類などの大形褐藻類の群落があるが、それらはその形状から海中林とよばれている。これらの藻場は、景観的に目だつばかりでなく、活発に光合成を行い、沿岸における有力な一次生産者であることや、微小動物から魚類に至る複雑豊富な生物相を有することで、沿岸生態系のなかで重要な位置を占めている。藻場には多くの魚類が集まるが、その理由は十分に解明されていない。藻場の存在している海域では、水中の溶存酸素量、有機物が増加し、珪藻(けいそう)類、小型藻類、小型エビ類、端脚(たんきゃく)類、等脚類などの小型甲殻類、小型巻き貝、コケムシ類、ヒドロ虫類など、おびただしい種類と量の生物が藻の表面に付着し、魚類にとっては食物が豊富で、摂食場所としての意義がある。また藻場の存在が稚魚を外敵から守る役割をも果たしている。ギンポやハゼ類の仲間のように藻場で終生を過ごす魚類もあるが、クロダイ、スズキ、メバル、アイナメなどのように、その生活史の初期段階を藻場で過ごす重要魚族も多く、これらの場所を保護する必要がある。しかし、藻場の存在する沿岸浅所は工場立地としても適しているため、多くの場所で埋立てが行われ、あるいは水質汚濁などによってアマモ場が消失している。さらに、アイゴなどの魚類やウニ類など藻食性生物によって海中林を形成しているアラメ・カジメが被害を受け、磯焼け状態になっている海域も多い。このため人工的に藻場を造成する試みがなされている。

[吉原喜好]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「藻場」の意味・わかりやすい解説

藻場
もば
seaweed bed; seagrass bed

水深十数mほどの浅い海に生息する大型の海藻および海草の群集を指す。藻場は,含まれる主な植物種によってアマモ場,ガラモ場,コンブ場等に区別される。藻場は1次生産を行なうほかに,その内部では波が比較的穏やかで外敵からの隠れ場が多く餌が豊富なため,種々の生物にとって生息場所となっている。日本沿岸の藻場は,埋め立てや海洋汚染のため減少している。

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世界大百科事典(旧版)内の藻場の言及

【アマモ】より

…花期は日本の本州では4~5月。世界の北半球の温帯~寒帯の海岸に広く分布し,貝や稚魚の育つ藻場を形成するが,これはアマモ場またはアジモ場と呼ばれる。また根茎や若芽に甘味があるため食べられ,甘藻の名がある。…

※「藻場」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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