船型(読み)せんけい(英語表記)hull form

精選版 日本国語大辞典 「船型」の意味・読み・例文・類語

せん‐けい【船型】

〘名〙 船の形。また、船の外形をあらわす型。船の模型。

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デジタル大辞泉 「船型」の意味・読み・例文・類語

せん‐けい【船型】

船の形。また、船の外形を示す型。船の模型。

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改訂新版 世界大百科事典 「船型」の意味・わかりやすい解説

船型 (せんけい)
hull form

広義には船の概形のことをいうが,ふつう単に船型といえば船の流体力学的性能を決定する水面下の船体形状を指す。

船の概形は船体の保持形式によって変わってくるが,大きくは排水量型,半潜水型,潜水型,滑走型,水中翼型,ACV型に分類される。排水量型は船体の一部は水面下,他が水面上にあるもので,ごく通常の船の型式であり,ほとんどの船はこの部類に属する。双胴船もこの変形といえ,自動車などの容積に比べて軽い貨物を積載する場合や,消防艇など大きな横復原力を要求される船に採用される船型であるが,耐航性に問題があり,外洋ではあまり使われない。排水量型の船は,30ノット以下で航走するのがふつうである。半潜水型(半没水型ともいう)は,排水量型と同様船体は水面下と水面上にあるが,水面を貫通する部分の面積が小さく,容積の大部分が水面下と水面上に分離しているものをいう。水面下を双胴船の形とした半潜水型船型は,SWATH(スワツス)船型(small waterplane-area twin hullの略),またはSSC船型(semi-submerged catamaranの略)と呼ばれ,水面下の形状は回転体に近い。近海高速旅客船や軍用艇に見られる。潜水型はいわゆる潜水艦の船型で,高い水圧を受けるので回転体に近い形状をしている。深い水中を航走するときは,造波抵抗を受けないので,30ノット以上の速力を出すことも可能である。滑走型は水面上を滑走することによって揚力を受ける型式で,小型かつ高速で航走するレーサー,プレジャーボート,軍用艇などに採用される。水中翼型は,水中の翼によって揚力を生じさせ,船体の主要部分を空中に浮上させて航走するもので,このような船を水中翼船という。滑走型と同様に,小型で高速航走する場合に有利な船型である。ACV型はエアクッション船(いわゆるホバークラフト)と呼ばれる船の船型である。船体下部の空気室に圧力を加え,水面上に船体を浮上させて航走する。原理的には100ノット程度の速力にも対応でき,小型旅客船や小型艦艇に採用される船型である。

 船の形は推進方式によっても変わってくる。船尾の水中に取りつけられたプロペラによるものがもっとも一般的で,ほとんどの船はこの方式によっているが,船体内ポンプによって加速した水を船尾より放出して,その反力で推力を得るウォータージェット方式が滑走型の船などに採用されることがあり,またACV型では空中プロペラによって推進する方式が多い。小型の特殊な船では,フォイトシュナイダープロペラなどの特殊なプロペラを装備する場合があり,プレジャーボートや小型漁船では,エンジンとプロペラが一体となった船外機を装備するものもある。

 船の主要な部分を占める商船は,ほとんど排水量型の船型であるが,側面形状と船橋および機関室の配置によって,上部の概略の形が規定される。側面形状は船楼(甲板が一段高くなっている部分)の有無と位置によって,船楼をもたない平甲板船,基本的には平甲板船であるが凌波(りようは)性を高めるために船首楼を有する船首楼付き平甲板船,上甲板上の船首と船尾に船楼をもつ凹甲板船ウェル甲板船),上甲板上の船首,中央および船尾に船楼をもつ三島船three islanderなどに分類される。船橋と機関室の位置によっては,船尾船橋船尾機関室型,中央船橋中央機関室型,準船尾船橋機関室型などに分類される。船橋と機関室が同位置にある場合が多いが,そうでない場合もある。貨物船のほとんどは船尾船橋船尾機関室型である。

経済手段としての船の効率を追求するためには,船体と推進器の形状を流体力学的に最適にし,ある出力の推進機関で最大の速力を出すようにするか,または,ある速力を出すための推進機関の出力を最小にしなければならない。船のほとんどは排水量型であるので,船体の一部は水中に,一部は空中にある。したがって,船体は水の運動による抵抗と空気の運動による抵抗を受ける。ただし,空気の密度は水の密度の約1/800程度で,船体が空気から受ける抵抗は相対的にかなり小さいので,水面上の形状に対する流体力学的な考慮が払われることは少なく,せいぜい船橋の形状に丸みをもたせることなどが現実に行われる空気抵抗減少法である。水から受ける抵抗を最小にする水面下の船体形状を求め,効率が最大になる推進器の要目と形状を求め,さらに船体と推進器との相互干渉を最適にするための船舶工学の一学問分野を船型学といい,抵抗論と推進論とから成り立っている。

船体が平水中を直進するときに受ける抵抗は,水の粘性による粘性抵抗と水面に波を造ることによる造波抵抗とに分けられる。このうち粘性抵抗はさらに,船体表面との摩擦による摩擦抵抗と渦を造ることによる造渦抵抗とからなる。造波現象と造渦現象は船体表面に垂直な方向の圧力を加え,この圧力の進行方向の逆向きの成分が船の抵抗となる。

 造波現象と粘性による現象は異質であって,支配されるパラメーターも異なり,前者はフルード数に,後者はレーノルズ数に支配される。船の速度をU,重力加速度をg,船の長さをL,動粘性係数をνとして,フルード数は,レーノルズ数はReUL/νと定義される。この式から明らかなように,フルード数は船の速度が速くなるほど大きくなり,造波抵抗はフルード数の増加によって急激に上昇する。ちなみにフルード数0.10以下で進行する船では造波抵抗はほとんどないといっていいが,フルード数0.30で進行する場合の造波抵抗は全抵抗の半分程度に達する。このような造波抵抗の強い速度依存性によって,水面下の船体形状は,その船の航海速力によって大きく変化する。速度が遅く長さの長い大型タンカーではフルード数が低いので,粘性抵抗を小さくすることがもっとも重要となり,表面積を小さく,かつ渦の発生を小さくするため,船首の形状は非常に鈍角的であり,むしろ,船尾のほうが滑らかな流線型である。一方,高速を要求される(フルード数0.25以上)コンテナー船や旅客船では,造波抵抗を小さくすることがもっとも重要になり,非常に鋭い船首形状をもっている。

 造波現象と粘性によって生ずる現象の二つは船体のまわりに共存し,同じ流体の現象であるから,互いの相互干渉もある。流体現象の中でももっとも複雑な部類に属するもので,理論流体力学は,両者を同時に解析することはもちろん,それぞれ片方の現象だけでも完全に解析できる段階にまで進歩していない。そこで,模型実験によって実際に抵抗を計測することが,最適船型の開発にとって必要である。前述のように,フルード数とレーノルズ数との二つのパラメーターがあるが,レーノルズ数の相似則を満足させることは非常に困難で,また,造波抵抗は粘性抵抗に比べて,船型とフルード数によって非常に敏感に変化することから,フルード数の相似則を満足させて模型試験を行う。

 船型学のための模型実験を船型試験といい,そのための水槽を船型試験水槽という。模型船を曳引して計測した抵抗から,実船の抵抗を算定することは,イギリスのW.フルードによって始められた(19世紀後半)。船の抵抗は造波抵抗と粘性抵抗の和であると仮定しており,現在でも同じ考え方で船の抵抗試験解析が行われる。造波抵抗の無次元量は,模型船の抵抗試験より求める。このとき非常に低速では造波抵抗はないと考え,摩擦抵抗は平板に対する実験式を用い,平板と船型との形状の差と渦抵抗は抵抗試験より求めた形状係数によって評価する。実船の抵抗は,実船のレーノルズ数における平板の摩擦抵抗と,抵抗試験により得られた造波抵抗と形状係数を使って算定する。

 理論計算により造波抵抗を算定する試みは,古くよりなされており,各種の仮定下での各種の理論があり,実験結果にこれらの理論を援用することによって,造波抵抗の値を低く抑えることに成功してきている。造波抵抗に関しては,水線下の容積の船の長さ方向の分布曲線(横載面積曲線)がもっとも重要で,1960年代以降大きな改良が見られる。また,付加物によって造波抵抗を減らす方法もほぼ並行して研究されてきた。もっとも有効なものは,船首バルブバルバス・バウ)と呼ばれる水線下の船首部の前方に突出した膨らみである。船体の造る波を船首バルブの造る波との干渉で減少させる効果と,船首よどみ点近くでの流速の急激な減少による造波に対する抑制効果があると考えられている。同じ効果をもった船尾の水線位置に装着されるバルブを船尾端バルブという。プロペラの前方のプロペラ推進軸まわりを回転体類似の形状としたものを船尾バルブというが,この効果は,造波抵抗に対してより,プロペラに入る流れ(伴流)の平滑化と,船体とプロペラとの相互干渉の改善に対して大きい。

 理論だけから造波抵抗を直接算定することは,現在でもなお困難である。船の造波現象の中には,非線形な波の発生や波エネルギーの散逸など解析的に取り扱うことの困難な現象を含んでいるためであり,流体の基礎方程式(ナビエ=ストークスの方程式)を直接大型計算機で解く方向の研究が進められている。粘性抵抗の理論計算についても同様である。基礎方程式の近似による境界層の計算などが,船型の改良に定性的に利用されてきたが,理論計算より定量的な情報を得ることはむずかしく,詳細な数値計算による新しい研究が進められている。また一方,造波と粘性の両者の干渉を取り扱う研究も始められている。

回転軸が船の進行方向と一致するように装備されたプロペラの回転運動によって推力を得る場合がほとんどである。プロペラは船体の後方に位置し,船体内の推進機関によって推進軸を通して駆動され,プロペラの後方には舵が装備されるのがふつうである。1軸1舵(プロペラ1基,舵1基)が大多数の組合せであるが,2軸2舵,2軸1舵などの組合せもある。

 プロペラの原理は,航空機の場合と同じであって,翼の揚力によって推力を得るが,各翼のアスペクト比がかなり小さいという特徴をもつ。水面上に露出しないで,かつ船底より下に出ないように大きさが決められるが,運動量理論から,プロペラ直径が大きく,プロペラの回転による流体の軸方向の加速がゆるやかであるほど効率がよい。プロペラの性能は,ある回転数における推力とトルクと,それから得られる効率で表される。水槽試験では,実船のものと相似の模型プロペラを使い,トルクと推力を計測するプロペラ単独試験が行われる。この試験は一様な流れの中での性能調査のためのものであるが,実際にはプロペラは船体の存在によってかく乱された流れ(伴流)の中に位置し,また,船体との相互干渉があるので,模型船に模型プロペラを装着して行う自航試験も必要である。

 プロペラ理論は,有限翼幅直進翼のものと基本的に同じで,揚力線理論,揚力面理論などが使われるが,船のプロペラの場合は,つねに不均一な流れの中で作動し,後方に舵があること,キャビテーションや振動などの有害な現象に対する考慮が必要なことなど,特有の問題を含んでいるので,これらのことを考慮した理論解析が行われる。推進効率を改善したり,キャビテーション,振動などの有害な影響を小さくするために,翼数,ピッチ分布,翼断面形状の設計に注意が払われるが,さらに積極的な設計例としては,翼の輪郭を回転方向の逆に大きくゆがませて起振力を小さくするハイスキュープロペラや,断面が翼型の円筒形ダクトをプロペラを包むように装着したダクトプロペラなどがある。
プロペラ
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「船型」の意味・わかりやすい解説

船型
せんけい

(1)船の立体的形状。おもに運航時の水の抵抗との関係についていう。(2)一般的には船の喫水線より上の側面の形状。船の最上層の全通甲板を上甲板という。その上の構造物で左右の船側まで達するものを船楼(船橋楼)、達しないものを甲板室とよぶ。上甲板に船楼があるかないか、またどの位置に設けられるかによって船型の呼称が分かれる。

 上甲板上に船楼がない平(ひら)甲板船は、波の打ち込みが少ない大型船などで採用されている。平甲板船の船首部に船楼がある船首楼付平甲板船は、一般貨物船や専用船に多くみられる。また、船首楼と船尾楼を設けた船首尾楼付平甲板船または凹甲板船は大型タンカーや大型鉱石船などに多い。船首・船尾のほか中央にも船楼のある船型は、三つの島のようにみえるので三島(さんとう)船とよばれる。第二次世界大戦前の貨物船はほとんどこの三島船型だったが、最近の新造船にはみられなくなった。上甲板上には船楼のほかに甲板室、機関室開口、マスト、荷役設備などの構造物があるが、これらによって外見が変わっても船型の名称には関係がない。船の水面下の形状は用途や速力などで変わり、やせ型船とか大型肥大船などと特徴にしたがってよばれることもあるが、船側形状ほど一定した呼び方はない。

[森田知治]


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百科事典マイペディア 「船型」の意味・わかりやすい解説

船型【せんけい】

船の水面下の形状。船が航行するときに受ける抵抗の大半は水との作用によるものであり,そのため船の性能を決定する上で船型は重要な要素となる。船体が水から受ける抵抗は,水の粘性による粘性抵抗と波を生じさせることによる造波抵抗に大別され,高速になるほど全抵抗に占める後者の割合が大きくなる。このため船型は船の航海速力によって変わり,高速を要求されるコンテナー船などでは造波抵抗を減らす鋭い船首形状が採用される。一方速力の遅いタンカーなどでは粘性抵抗を減らすために表面積を小さくするとともに,渦の発生を減らす鈍角的な船首形状の船型が選ばれる。実際には実船と相似の船体模型による水槽試験で,対応する各速度段階での模型の抵抗を精密に測定して船型がきめられる。
→関連項目造船

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「船型」の意味・わかりやすい解説

船型
せんけい
type of ship

船体の形状のこと。船の形は積載能力と速力が十分生かされるよう設計される。どのような船型が最も経済的で,すぐれているかを研究するのが船型学である。

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