脱毛症(読み)ダツモウショウ

デジタル大辞泉 「脱毛症」の意味・読み・例文・類語

だつもう‐しょう〔‐シヤウ〕【脱毛症】

主に頭髪が脱落して地肌がむき出しになった状態。円形脱毛症や若年性・老人性・結髪性のものなどがある。禿頭とくとう病。

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精選版 日本国語大辞典 「脱毛症」の意味・読み・例文・類語

だつもう‐しょう ‥シャウ【脱毛症】

〘名〙 主として頭髪の一部または全部が抜け落ちる病気。円形脱毛症のほか、若年性・壮年性・老人性・結髪性・症候性のものなどがある。禿頭病
※新美装法(1916)〈藤波芙蓉〉三「この脱毛症(ダツマウシャウ)には、幼児以外、誰れでも罹り易い」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「脱毛症」の意味・わかりやすい解説

脱毛症
だつもうしょう

毛髪には寿命があって、生理的には1日70~80本の抜け毛があるが、異常に多く抜けて毛がまばらになったり、部分的に多数の毛が脱落して「はげ」た場合を脱毛症といい、禿髪(とくはつ)症、禿頭病あるいは俗に「はげ」ともよばれる。

[齋藤公子]

先天性脱毛症

生まれたときには軟毛が普通に生えていて生後2~3か月の間に抜けたまま生えてこない場合が多い。毛嚢(もうのう)(毛包)の発生異常で、障害が毛髪のみのものと、汗腺(かんせん)がないために汗をかかなかったり、爪(つめ)や歯の欠損を伴う場合もある。治療法はなく早期に義髪(かつら)を装用する。

[齋藤公子]

円形脱毛症

おもに頭部に突然円形の境界明瞭(めいりょう)な脱毛部を生ずる病気である。自覚症状がないため、多くは美容院や理髪店で発見される。通常直径2~3センチメートルの脱毛部が1か所にみられるが、ときには多発して不規則な形に融合したり、頭髪が全部脱落してしまうこともある。台湾坊主ともよばれる。はげた部分の皮膚は普通ほとんど異常を認めないが、周囲より多少へこんでいたり、ぶよぶよした感じがしたり、赤みを帯びたりすることもある。病巣部を顕微鏡で調べると毛嚢の周囲に炎症がみられる。通常、頭髪が侵されるが、まゆげ、まつげ、ひげなどが抜けたり全身の毛が全部脱落する場合もあり、爪にも点状のへこみを生じたり表面がざらざらになったりする。拡大しつつある病巣周囲の毛髪は、軽く引っ張ると痛みを伴わずに容易に抜け、毛根をみると先のほうが細くなっている。経過はいろいろで、2~3か月で常態に復することが多いが、年余にわたり発毛しなかったり、再発を繰り返す場合があり、悪性脱毛症ともよばれる。毛が再生してくる場合、細く柔らかい毛が生えてしだいに正常化するが、ときには一過性しらがを生ずる場合もある。原因については、アレルギー説、病巣感染説、毛成長周期障害説、精神身体医学的原因説、内分泌障害説、自己免疫説、あるいはこれらの諸原因が絡み合って生ずるとする多原因説など諸説があるが、決定的なものはない。治療法は、これらの原因説に従い、あるいは経験的にグリチルリチンパントテン酸、精神安定薬などの全身療法と、副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤、局所血流改善剤の外用、太陽灯照射、局所凍結療法などが行われる。

[齋藤公子]

壮年性脱毛症

俗にいう若はげのことで、若年性脱毛症、男性型脱毛症ともいう。20~30歳ころから額の生え際が後退したり頭頂部が薄くなるなど、特徴的なはげ方をする。遺伝的な素因と男性ホルモンのアンドロゲンが関与する。女性では内分泌障害がない限り、高齢にならないとこの形の脱毛はおこらない。よい治療法はない。

[齋藤公子]

老人性脱毛症

男性型脱毛症に属し、はげ方はまったく同じ形をとるが、発症年齢が40~50歳以後である。よい治療法はない。

[齋藤公子]

粃糠性脱毛症

ふけ症が続くうちに毛が薄くなるもので、壮年性脱毛症の初期にしばしばみられる。ふけ症の手当てをする。

[齋藤公子]

抜毛症

自分で毛を抜き取るために生ずる脱毛で、抜毛狂、トリコチロマニアともいう。脱毛巣内に途中で切れた毛が残っていたり、点状の血痂(けっか)が付着していることがある。手の届きやすい頭髪に多いが、そのほかの毛にもみられる。神経症やうつ病ヒステリーなどの精神的要素が根底にあることが多く、小児では欲求不満や情動不安を伴う。抜去が繰り返されると毛根が萎縮(いしゅく)して元に戻らなくなる。

[齋藤公子]

症候性脱毛症

腸チフスや肺炎などの熱性伝染病、結核、らい、梅毒などの慢性感染症、エリテマトーデス、皮膚筋炎、強皮症、糖尿病、内分泌疾患などの全身病、放射線照射、局所の外傷、熱傷、真菌や細菌感染症、腫瘍(しゅよう)などのほか、抗腫瘍薬などの薬物による脱毛も含まれる。日本髪やポニーテールなど一定部位の毛髪が絶えず引っ張られたり、枕(まくら)や帽子などで長時間圧迫されると、その部分に脱毛がおこる(機械的脱毛)。原因となる病気の治療など、原因を除去することが必要である。

[齋藤公子]

『大矢全節著『無毛症と禿頭』(創元医学新書)』『I・I・ルーボー著、藤原五郎訳『毛髪ドクター』(1962・白揚社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「脱毛症」の意味・わかりやすい解説

脱毛症 (だつもうしょう)
alopecia

いわゆる〈はげ(禿)〉のことで,正常に存在すべき有毛部,ことに髪のある頭部や顔面に,毛髪が欠如し,あるいはその太さや数が減少して,まばらとなった状態をいう。禿髪(とくはつ)症,禿頭病ともいわれる。原因はいろいろで,いまだ解明されないものもある。したがって現在のところ統一された分類法はない。おもな脱毛症は次のとおりである。

(1)円形脱毛症 毛髪疾患の約70%を占める。円形ないし楕円形の脱毛巣が,ほとんど自覚症状なしに髪のある頭部に出現,しばしば進行,拡大して数を増す。また融合して不規則形の病巣を形成する。病巣が拡大した場合,頭部全体に及ぶこともあり(悪性脱毛症),さらに重症例では全身の毛が脱落する。原因は不明。病巣感染説,神経障害説,遺伝,自己免疫疾患等の説があるが確実なものはない。軽症例の多くは自然に治癒するが,再発もある。内服療法として,グリチルリチン,セファランチン,精神安定剤,抗ヒスタミン剤等が用いられる。外用療法として,アセチルコリンコルチコステロイド含有ローションの塗布,およびその密封療法が行われている。多発例や病巣の大きいものにはコルチコステロイドの局所注射が有効である。特殊療法として,DNCB反応,PUVA療法,神経ブロック,雪状炭酸圧抵法等が用いられている。

(2)壮年性脱毛症 いわゆる〈若はげ〉のことで,男性型脱毛症,アンドロゲン性脱毛症等とも呼ばれている。前頭部の生え際から頭頂部に向かって毛髪がしだいに疎となるものをいう。男性ホルモンの作用により毛周期が短縮し,終毛が軟毛に転換するためとされている。遺伝性がある。有効な治療法はなく,進行した場合かつらの着用を考慮すべきである。

(3)休止期脱毛状態 精神的ストレス,高熱,難産,手術的ショック等の後に起こる瀰漫(びまん)性の脱毛症で,毛囊成長期から急速に休止期に移ることにより起こる。分娩後脱毛症はこれに入る。

(4)内分泌異常・代謝障害・栄養障害による脱毛症 脳下垂体,甲状腺の機能異常や,タンパク質欠乏,タンパク質吸収障害,およびその漏出,あるいは亜鉛欠乏症等のほか,代謝障害や肝臓病などに伴って現れる。

(5)薬剤性脱毛症 タリウム,抗癌剤,抗凝固剤,抗甲状腺剤,抗コレステロール剤,ビタミンA等の薬剤投与により生ずる脱毛症。

(6)機械的脱毛症 外からの牽引,摩擦,圧迫,打撲等物理的要因による脱毛症をいう。乳幼児の後頭部にみられる新生児後頭脱毛はその一つで,まくらとの摩擦による休止期毛の脱落により生ずる。そのほか結髪のための牽引による牽引性脱毛症や,日本髪などのかつらの毛止めによる圧迫性脱毛症,手術時の頭部固定による術後脱毛症,あるいは抜毛癖によるトリコチロマニア(毛髪抜去症)等は一種の機械的脱毛症である。

(7)他皮膚疾患に伴う脱毛症 膠原(こうげん)病,毛囊性ムチン沈着症,梅毒,ハンセン病,頭部白癬(はくせん),頭部粃糠(ひこう)疹(ふけ症)等により,またはそれらに随伴して脱毛症が起こる。

(8)瘢痕(はんこん)性脱毛症 毛母部の瘢痕性破壊による脱毛症で,脱毛性毛囊炎,萎縮性脱毛症などがこれに入る。

(9)先天性脱毛症 先天的に毛の欠如した無毛症や,毛の少ない乏毛症もある。これらの症状は,ある種の症候群の部分現象として起こることもある。
禿 →無毛症
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百科事典マイペディア 「脱毛症」の意味・わかりやすい解説

脱毛症【だつもうしょう】

身体の有毛部から毛髪が脱落している状態。俗にはげとも。先天性脱毛症は普通,皮膚の発育障害で,出生時にすでに毛髪があり,数ヵ月後に抜ける。爪(つめ)や歯の異常や無汗症を伴うことがある。治療法はない。後天性脱毛症には次のようなものがある。1.円形脱毛症。2.老人性脱毛症。50歳ごろから前頭部や頭頂部より始まるもので,なりやすい素質がある。男性に多い。治療困難。3.壮年性脱毛症(若はげ)。20〜30歳代の男性の前頭〜頭頂に脱毛が始まる。遺伝性で治療困難。予防には地肌(じはだ)のマッサージなど。4.粃糠(ひこう)性脱毛症。頭にふけが多いため起こる。ふけの治療やマッサージが有効。5.症候性脱毛症。全身性の疾患による衰弱や消耗で一時的に脱毛するもの。6.瘢痕(はんこん)性脱毛症。外傷や熱傷により,その部分の毛乳頭が破壊されたもの。治療には,形成外科的に切除縫合,植毛など。7.その他。梅毒性,神経性など。
→関連項目植毛術禿頭病

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栄養・生化学辞典 「脱毛症」の解説

脱毛症

 禿髪症ともいう.頭髪が少なくなる症状.髪が短く細くなるものも含める.

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世界大百科事典(旧版)内の脱毛症の言及

【禿】より

…もともと毛のある部位,ことに頭部の毛髪が欠如しているか,まばらとなった状態をいう。医学用語の脱毛症alopeciaは,日本語の意味からすれば,いったん生えた毛髪の脱落ということになるが,先天的な毛髪の欠落にも用いられることがあるので,ほぼそれと同義語と解釈してよい。元来,毛には成長期,退縮期,休止期と周期(毛周期)があり,毛は最終的には自然に脱落するものである。…

【禿】より

…もともと毛のある部位,ことに頭部の毛髪が欠如しているか,まばらとなった状態をいう。医学用語の脱毛症alopeciaは,日本語の意味からすれば,いったん生えた毛髪の脱落ということになるが,先天的な毛髪の欠落にも用いられることがあるので,ほぼそれと同義語と解釈してよい。元来,毛には成長期,退縮期,休止期と周期(毛周期)があり,毛は最終的には自然に脱落するものである。…

【無毛症】より

…毛髪が完全に欠如したものをいう。しかし毛の先天的欠落の意味あいが強く,同じような毛髪の欠如を意味する脱毛症とは,後者が発毛後の後天的脱落を含む場合が多いという点でやや異なっている。おもな無毛症には次のものがある。…

※「脱毛症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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