内分泌疾患

内科学 第10版 「内分泌疾患」の解説

内分泌疾患(内分泌系の疾患の総論)

 内分泌疾患は,①ホルモンの分泌低下,②ホルモンの分泌過剰,③異常ホルモンの分泌低下,④ホルモン受容体異常を含むホルモン応答の異常,⑤多種類のホルモン分泌異常,⑥非機能性内分泌疾患などに大きく分類される.
(1)ホルモンの分泌低下
 ホルモンの分泌低下は,種々の原因で起こる.先天的なものとしては内分泌臓器の無形成,ホルモン遺伝子異常,ホルモン合成酵素の遺伝子異常,ホルモンのプロセシングや活性化の障害などが知られる.後天的には,ホルモン合成の原料不足(ヨウ素欠乏)や自己免疫,腫瘍,感染,出血や梗塞などの循環不全,外傷などによる内分泌組織の破壊や機能障害がホルモンの分泌低下の原因となる.
(2)ホルモンの分泌過剰
 内分泌腺に発生するホルモン産生腫瘍は自律的にホルモンを過剰分泌する.多くは良性腫瘍だが,悪性腫瘍の場合もある.異所性ACTH症候群では,肺小細胞癌,気管支カルチノイドなどでACTHを異所性に過剰産生し,コルチゾール過剰分泌をきたす.Basedow病は,甲状腺組織には異常はないが,循環血液中の抗TSH受容体抗体により甲状腺ホルモンの分泌過剰を呈する.また,甲状腺では,貯蔵された多量の甲状腺ホルモンが,炎症による組織破壊のため,一過性にホルモンの過剰放出をきたすことがある(亜急性甲状腺炎慢性甲状腺炎など).
(3)異常ホルモンの分泌
 ホルモン遺伝子の異常(点突然変異)により正常ホルモンとは一次構造が異なる異常ホルモンが分泌されることがある.代表的なのは異常インスリンである.また,POMC遺伝子のプロセシングの過程で,分子量が大きい「big ACTH」とよばれる高分子量のACTHが下垂体腺腫中で産生されることがある.これらの異常ホルモンは一般に生物活性が低く,血漿ACTH濃度が高値の割に,コルチゾール濃度は正常の例も多い.
(4)ホルモン受容体異常を含むホルモン応答の異常
 ホルモン受容体と受容体後の情報伝達機構の異常はホルモン応答の障害(loss of function)と持続的活性化(gain of function)の双方をきたす.
 ホルモン応答の障害はホルモン不応症をきたす.ホルモン不応症は障害の部位により,受容体前異常,受容体異常,受容体後異常に分類できる.受容体前異常は,ホルモンが標的細胞で活性型に変化して受容体に作用する場合に,この活性化の障害で起こる(5α還元酸素欠損症).ホルモン受容体異常は先天性と後天性の双方よりなる.先天性受容体異常は受容体遺伝子の異常により,膜受容体あるいは核内受容体の機能低下をきたす.膜受容体異常には,インスリン受容体異常によるインスリン抵抗症A型,成長ホルモン受容体異常によるLaron型小人症,バソプレシンのV2受容体異常による腎性尿崩症,カルシウム感知受容体異常による家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症などがある.核内受容体異常には,アンドロゲン不応症,甲状腺ホルモン不応症,グルココルチコイド不応症,ビタミンD受容体異常によるビタミンD依存症Ⅱ型などがある.後天性受容体異常には,膜受容体に対する抗受容体抗体で生じるインスリン抵抗症B型などが知られている.ホルモン受容体後異常は受容体以降の情報伝達機構に関連する機能低下であるが,G蛋白Gsα異常による偽性副甲状腺機能低下症Ia型がある.
 一方,ホルモン受容体と受容体後の情報伝達の活性化をきたす異常もある.TSH受容体,LH受容体,カルシウム感知受容体の遺伝子異常による受容体機能亢進により,各々,甲状腺機能亢進症,家族性性早熟症,常染色体優性低カルシウム血症を呈する.また,ミネラルコルチコイド受容体(MR)遺伝子のS810L変異により妊娠高血圧症候群をきたす.後天性の受容体機能亢進の例では,抗TSH受容体抗体によるBasedow病がある.ホルモン受容体以降の異常による情報伝達の活性化は,G蛋白のGsαやGiα遺伝子変異による活性化がMcCune-Albright症候群,下垂体,甲状腺,副腎の腺腫で認められる.
(5)多種類のホルモン分泌異常
 多種類のホルモン異常が起こる多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)や多腺性自己免疫症候群(autoimmune polyglandular sy­ndrome:APS)は内分泌疾患のなかでも特殊なものである.いずれも多種類の内分泌異常をきたす病因遺伝子の研究が進展している.最近,複数の下垂体ホルモン分泌が低下する抗PIT-1抗体症候群が報告され,PIT-1抗体が循環血液中にあり,GH,PRL,TSHの分泌低下をきたす.
(6)非機能性内分泌疾患
 下垂体腺腫,甲状腺腫瘍副腎腫瘍などでは内分泌組織に病変が認められても,必ずしもホルモン作用の過剰や不足を呈さない.内分泌腫瘍の多くは非機能性であり,画像診断の発達により偶然に発見されることがあり,偶発腫瘍(incidentaloma)とよばれる.[柴田洋孝・伊藤 裕]
■文献
Melmed S, Polonsky KS, et al: Hormones and hormone action. In: Williams Textbook of Endocrinology, 12th ed, pp3-99, Elsevier Saunders, Philadelphia, 2011.
Jameson JL, DeGroot LJ: Principles of endocrinology and hormone signaling. In: Endocrinology, 6th ed, pp3-14, Elsevier, Amsterdam, 2010.

内分泌疾患(ほかの疾患に伴う肝障害)

(4)内分泌疾患
 肝はグルカゴン,インスリン,成長ホルモン,甲状腺ホルモン,エストロゲン,グルココルチコイドなどの多くのホルモンによる調節を受けている.臨床的に,内分泌疾患で肝障害の頻度が高いのは甲状腺機能亢進症である.本症では,AST,ALT値の上昇を1/3,ALP値の上昇を2/3に認め,ビリルビンの上昇も5%程度に認められる.うっ血性心不全を合併した場合には80%程度にビリルビンの上昇を認めると報告されているが,一般的には軽度の異常であることが多い.また,抗甲状腺薬による肝障害も高頻度に認められる.甲状腺機能低下症では,軽度の肝腫大と肝障害を認めることがある.粘液水腫でうっ血性心不全や肝腫大を呈するとAST,ALT値も高値を示し,黄疸の出現や肝予備能の低下をきたすことがある.[西口修平]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

百科事典マイペディア 「内分泌疾患」の意味・わかりやすい解説

内分泌疾患【ないぶんぴつしっかん】

内分泌腺の機能異常による疾患。各内分泌器官について機能亢進症および機能低下症がある。たとえば脳下垂体の機能亢進では巨人症,末端肥大症など,低下では下垂体性侏儒(しゅじゅ),シモンズ病,尿崩症など。甲状腺機能亢進ではバセドー病,低下では粘液水腫クレチン病。内分泌腺の分泌機能には,自律神経系が関与し,また,内分泌腺は相互に影響し合い,下垂体は他の内分泌腺の調節を支配しているので,これらのバランスの乱れも疾患の原因となる。
→関連項目糖尿病

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栄養・生化学辞典 「内分泌疾患」の解説

内分泌疾患

 内分泌系の疾患の総称.

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