縦隔気腫

内科学 第10版 「縦隔気腫」の解説

縦隔気腫(縦隔疾患)

概念・病因
 縦隔気腫は縦隔内に異常な空気が存在することである.空気の由来は肺,気管を含む縦隔内の気道,食道頸部,腹腔が考えられ,病因としてこれらの臓器の疾患を鑑別しなければならない.近年,人工呼吸器を使用する機会が多くなり,気道内圧の上昇に伴う合併症としてみられる.しかし,病因が不明なことも多い.
分類・病態
 発症要因からみると,特発性(原因不明),症候性,外傷性,医源性(手術,人工呼吸器,内視鏡検査に伴う)に分類される.特発性は新生児で0.04~1%の頻度でみられ,成人ではまれで20代から30代の男性に発症する.
1)肺疾患:
肺実質から縦隔内への空気の移動は急激な気道内圧の上昇に伴い,最初に肺胞から間質,気管支と血管周囲を含む間質から肺門と縦隔への経路が一般に考えられている.気管支喘息,胸部打撲と外傷,肺線維症・間質性肺炎,まれに肺胞破壊を伴う感染症,気管腫瘍が原因疾患として考えられる.
2)人工呼吸器関連:
患者と器械との非同調,大きい1回換気量,高い呼気終末陽圧換気(PEEP)圧による気道内圧の上昇に伴う肺胞損傷から起こる.
3)縦隔内気道:
外傷による気管や中枢気管支の断裂がおもな原因となる.
4)食道:
激しい嘔吐による食道破裂が最も多く,その他の破裂の原因として外傷,激しい運動,食道腫瘍などがある.
5)頸部:
頸部外傷,外科や歯科処置により,深部筋膜を経由して縦隔へ空気が流入する.
6)腹部:
まれに腹腔内臓器の穿孔によって後腹膜腔を経由して,横隔膜下から縦隔へ空気が到達する.
臨床症状
 一般に,漏出した縦隔内空気は大血管の筋膜面に添って心臓周囲,頸部,前胸壁,まれに腹部の皮下や陰囊にも達する.
1)自覚症状:
原因疾患,縦隔内へ漏出した空気の量,感染の合併の有無に依存する.原因疾患の症状に続いて,縦隔気腫を疑う症状は突然の胸骨後痛で,その疼痛は頸部,肩,上腕へ放散し,呼吸や嚥下運動によって増悪する.ときに呼吸困難や微熱を訴えるが,原因疾患の症状との鑑別は困難である.
2)他覚症候:
頸部から胸壁の皮下気腫を示す徴候として,声音が高調な鼻声になり,触診で握雪感,聴診で捻髪音を聴取する.空気が心臓周囲に達すると心濁音界が縮小ないし消失する.Hamman徴候は,心拍動に同調して収縮中期にクリック音が心尖部で聴取される.これは縦隔内の空気が心拍動によって移動するときの音と考えられる.
検査成績
 画像所見が最も特徴的で,胸部X線やCTで縦隔内に異常な空気像がみられる.また頸部,腋窩,胸壁にしばしば皮下気腫をみる(図7-15-2).ときに白血球増加,心臓周囲へ空気が漏出したときには心電図異常(低電位,軸変位,ST-Tの変化)がみられる.
診断
 自覚症状と特徴的な胸部画像所見から診断は比較的容易で,特に胸部CTは有用で少量の縦隔内空気を検出できる.しかし縦隔内空気の由来や原因疾患が特定できないことも多く,原因疾患は予後にも密接に関連するので内視鏡検査などは慎重に行う.
鑑別診断
 胸痛や呼吸困難をきたす疾患(心臓・大血管,呼吸器,骨筋肉,消化器疾患など).
治療
 少量の空気漏出では,原因疾患の治療とともに安静のみで経過を観察する.空気漏出が持続し気腫が進行すれば,大静脈を圧迫し静脈血還流不全を起こす.その場合,減圧のため針穿刺吸引や胸骨上縁に切開を加え開放する.食道や気管・気管支損傷が原因の場合,ドレナージを含む外科的処置が必要なこともある.
予後
 軽症で非進行性であれば数日で軽快し,空気像は消失する.原因疾患にもよるが,食道や気管・気管支の損傷による縦隔気腫は,感染を合併し致死的で早期の診断と治療が重要となる.[岡 三喜男]
■文献
Cameron RB, Loehrer PJ, et al: Neoplasms of the mediastinum. In: Cancer-Principles and Practice of Oncology, 9th ed (DeVita VT, Lawrence TS, ed), pp871-881, Lippincott WW, Philadelphia, 2011.
Roberts JR, Kaiser LR: Acquired lesions of the mediastinum: benign and malignant. In: Pulmonary Diseases and Disorders, 4th ed (Fishman AP, Elias JA, et al ed), pp1583-1614, McGraw-Hill, New York, 2008.
Wright CD: Nonneoplastic disorders of the mediastinum. In: Pulmonary Diseases and Disorders, 4th ed (Fishman AP, Elias JA, et al ed), pp1555-1581, McGraw-Hill, New York, 2008.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「縦隔気腫」の意味・わかりやすい解説

縦隔気腫
じゅうかくきしゅ

縦隔洞内に空気またはガスの貯留した状態をいう。新生児では自発性の縦隔気腫がおこりやすいが、成人では多くの場合、外傷、手術、食道穿孔(せんこう)などにより生じる。通常、胸部や頸部(けいぶ)の皮下気腫を伴うことが多い。症状は、原因と気腫の程度によって異なるが、一般に突然、胸骨後部の不快感、呼吸につれて増強する疼痛(とうつう)、呼吸困難がある。体位変換に際してピチピチと音を感ずることもある。聴診で心拍動と一致してパリパリという雑音を心臓部で聞くことがある。これをハンマン徴候Hamman's signという。空気量が多くて縦隔洞内圧が高まるときは、周囲の軟部組織、とくに静脈系を圧迫して血行障害をおこすことがある。

[山口智道]

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六訂版 家庭医学大全科 「縦隔気腫」の解説

縦隔気腫
(呼吸器の病気)

 縦隔内に空気がたまる病気をいいます。重い物を持ち上げる、出産、排便時のいきみ、発声(せき)などで肺胞(はいほう)内圧が急激に上がり、肺胞が破裂して発症します。気管支喘息(ぜんそく)の発作時や内視鏡検査後に起こることもあります。

 やせ型の若年男性に多いのですが、自然気胸と異なり喫煙との関係はありません。自覚症状としては胸痛が多く、頸部(けいぶ)、前胸部などに皮下気腫を伴うと、特有の握雪感(あくせつかん)(雪を握ったような感じ)を認めます。

 胸部X線像では、心臓辺縁に沿う空気層(多くの例で左側に)がみられます(図47)。

 多くの例では、安静のみで空気は吸収され、治癒します。再発は15%程度にみられます。


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「縦隔気腫」の意味・わかりやすい解説

縦隔気腫
じゅうかくきしゅ
mediastinal emphysema

縦隔に空気が貯留した状態をいう。気管や食道の損傷とか,激しい咳による肺胞の破裂などが原因となる。大量の空気で縦隔の内圧が高まると,胸骨下の強い痛みを訴えるほか,しばしば呼吸困難,チアノーゼ,頸動脈怒張などをみる。空気が貯留していること自体は問題ないが,対症的には鎮痛剤投与酸素吸入を行い,まれには外科的に内圧の軽減をはかる。

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デジタル大辞泉 「縦隔気腫」の意味・読み・例文・類語

じゅうかく‐きしゅ【縦隔気腫】

縦隔に空気がたまった状態。食道・肺・気管支の損傷などによって、本来は空気が存在しない縦隔の内部に空気が入り込むことによって起こる。

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世界大百科事典内の縦隔気腫の言及

【縦隔】より

…縦隔は一つの閉鎖された空間とも考えられるため,縦隔腔あるいは縦隔洞とも呼ばれる。心臓,大血管,気管支,食道などを除く縦隔内の病変を縦隔疾患と総称し,おもなものに縦隔炎,縦隔気腫,縦隔腫瘍がある。
[縦隔炎mediastinitis]
 縦隔に発生した炎症。…

※「縦隔気腫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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