第三部(読み)だいさんぶ(英語表記)Tret'e otdelenie

改訂新版 世界大百科事典 「第三部」の意味・わかりやすい解説

第三部 (だいさんぶ)
Tret'e otdelenie

帝政ロシアの秘密政治警察。正式名称は〈皇帝直属官房第三部〉。デカブリストの反乱以後の不穏な社会情勢のなかで,〈有害な〉思想を取り締まる検閲法の発布とともに,1826年7月反政府運動を直接防止する機関として,ニコライ1世により創設された。初代長官は憲兵隊長も兼任するベンケンドルフ伯。反政府組織や団体の監視を担当する第一課,宗教的異端の監視と偽造貨幣の取締りを担当する第二課,在留外国人の監視と国外情報の収集を担当する第三課,農村農民の動向の監視を担当する第四課,文書の検閲を担当する第五課の五つの課から構成されていた。国民各階層を監視し迫害をくわえたため,ニコライ1世の警察国家体制の象徴とされていた。皇帝は第三部の作成する詳細な報告書に目を通し,ささいな点までみずから指図した。

 当時,ようやく開花しようとしていたロシア文学も迫害の対象となった。プーシキンレールモントフゴーゴリ,ツルゲーネフらの活動は,第三部によって厳しく監視され,作品は事前検閲をうけ,最悪の場合には著者は流刑処分をうけた。たとえば《哲学書簡》を書いたチャアダーエフ精神病院に拘禁され,若きドストエフスキーペトラシェフスキー事件に連座して死刑判決(のち流刑に減刑)をうけた。第三部は80年に内務省警務局にその権限を委譲して廃止された。
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