発生主義(読み)ハッセイシュギ(英語表記)accrual basis

デジタル大辞泉 「発生主義」の意味・読み・例文・類語

はっせい‐しゅぎ【発生主義】

会計処理の原則一つ。現金の受け渡しや預金増減とは関係なく、取引が発生した時点で、収益や費用を計上すること。現代企業会計はこの考え方に基づいて行われる。→現金主義

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精選版 日本国語大辞典 「発生主義」の意味・読み・例文・類語

はっせい‐しゅぎ【発生主義】

〘名〙 (accrual basis の訳語) 費用・収益の計上を、現金収支に関係なく、その発生の事実に基づいて行なおうとする考え方。

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改訂新版 世界大百科事典 「発生主義」の意味・わかりやすい解説

発生主義 (はっせいしゅぎ)
accrual basis

企業会計において,収益や費用の認識・計上を,財の経済価値の増加および減少という事実を基準にして行うことをいう。これは,現金の収入および支出という事実を基準とし,現金収入をもって収益とし,現金支出をもって費用とする現金主義cash basisと対立するものである。現金主義による会計を現金主義会計と呼び,発生主義による会計を発生主義会計と呼ぶ。古くは,企業会計は現金主義会計として行われていたが,企業の継続化,固定資産(建物など)の増大,信用取引の一般化などにより,現金主義会計による期間損益は,たとえば長期間使用される建物を購入(支払)時の期間の費用に一括計上したり,信用販売の収益を現金収入時の期間まで計上しないことなどの不合理にみられるように,その期間の企業の活動業績(努力成果)を適切に反映しえなくなった。そこで,現金の収入・支出に代えて,財の経済価値の増加・減少という事実に基づき,収益・費用を認識・計上して期間損益を計算する発生主義会計が採用されるに至り,今日の一般的会計となっている。発生主義によれば,前述の建物は使用による価値減少を減価償却という手続で使用される数期間に費用計上され,また信用販売の収益は現金収入を待つことなく販売期間の収益に計上され,当該期間の活動業績を適切な形で示すことになる。

 発生主義会計において,費用の認識・計上の基礎をなす財の経済価値の減少は,財の費消滅失により容易に判定できるが,収益の認識・計上の基礎をなす財の経済価値の増加の判定は単純とはいえない。考え方により,財の経済価値は,生産過程を通じて徐々に増加するとみられたり,また市場価格の上昇により増加するとみられたりする。しかし,企業の活動業績を適切な形で把握しようとする企業会計においては,収益が確実に企業の帰属となる事実こそ,財の経済価値の増加と考えるのが妥当であることから,収益についてはその事実を重視し,とくにそれを実現主義realization basisと呼ぶ。実現主義とは,原則的には,販売という事実(販売基準)に基づき財の経済価値の増加を認め,収益を認識・計上することをいう。ただし,販売であっても,割賦販売のように財の経済価値の増加を直ちに認識することに危険を伴う場合や,販売がなされなくても財の経済価値の増加が確実に保証される長期請負工事のような場合には,割賦債権の回収(もしくは回収期限到来)の時点(回収基準・割賦基準)や工事進行度合(工事進行基準)に基づき,収益が認識・計上される。つまり,割賦基準や工事進行基準も実現主義の内容を構成する。
企業会計
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「発生主義」の意味・わかりやすい解説

発生主義
はっせいしゅぎ
accrual basis

企業の利益計算に当たって,現金の受け取りや支払いの時点とは無関係に,収益と費用をその発生を意味する経済的事実に基づいて計上する考え方。現金の受け払い時点で収益と費用を計上する現金主義に対比される。発生主義の下では,収益は現金の受け取りとは無関係に生産と販売活動を通じての価値の形成に基づいて計上され,費用は現金の支払いとは無関係に,財貨やサービスが消費された時点で計上され,両者の差額として利益が決定される。企業の利益計算は,古くは現金主義によって行なわれていたが,掛け取引や固定資産が多額になるにつれて,発生主義へと脱皮して今日に至っている。

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「発生主義」の解説

発生主義

実際には現金の収支がなくても、将来的な収益に結びつく経済価値があるかどうかに着目して費用や収益を計上する会計基準のこと。例えば、受注生産を行なっている場合、商品の引渡しや代金を回収していなくても、商品が完成すれば、売買の成立が見込める。この場合、発生主義に基づけば、一定の基準を設けて代金の一部を売上に計上できる。一方、実際の現金の収支が発生した時点で費用や収益を計上する会計基準のことを「現金主義」と言う。

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会計用語キーワード辞典 「発生主義」の解説

発生主義

発生主義とは、現金の収入・支出に関係なく経済価値が費消した事実が発生したときに費用・収益を計上する基準のことです。現金主義では抑えきれない、掛取引などを抑えるために補正的な制度として生まれました。ただし、収益について発生主義を全面的に適用すると未実現の利益が計上されるという弊害が起きるため、実現主義が適用されます。発生主義の適用範囲には、減価償却費の計上や未払費用の計上、未収収益の計上等があります。

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