生物発音(読み)せいぶつはつおん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「生物発音」の意味・わかりやすい解説

生物発音
せいぶつはつおん

生物が音を出すことをいう。発音は、哺乳(ほにゅう)類の声帯鳥類の鳴管、昆虫ではコオロギなどの摩擦器やセミなどの振動器のような特別の発音器によって行われることが多いが、キツツキが木の幹をたたいて所在を知らせるなど、発音器によらない場合もある。心臓の収縮に伴う心音、鳥の羽ばたきの音など、他の機能に伴って音が出る場合は、生物発音に含めないのが普通である。発音は、同種間のコミュニケーションのほか、異種の個体に対する威嚇など、生物間の広義の情報伝達手段として利用される。それ以外にも、コウモリイルカが、自分の発した超音波の反響によって、餌(えさ)や障害物の位置を知る反響定位も、生物発音の顕著な利用法の一つである。コウモリの餌となるガのなかには、コウモリの発する超音波を聞いて逃避行動をおこすものがあり、そのガにとってはコウモリの鳴き声が警戒音として作用していることになる。ガやチョウのなかには、逃避や威嚇の行動に伴って外骨格またははねの一部が反転して短い超音波を発し、コウモリを驚かすといわれるものがある。反響定位には高周波の短い音が有利であり、コウモリは3万~6万ヘルツの振動数で、0.5~5ミリ秒続く音を、毎秒20~200回発する。

 コミュニケーションの手段としての音は、哺乳類、鳥類、昆虫類など動物界に広くみられる。哺乳類、なかでも霊長類では同種間の交信に数十以上の言語が用いられる例がある。ヒゲクジラ類が発音するという記録はほとんどないが、マッコウクジラやイルカを含むハクジラ類は発音によってよく交信をする。クジラ類には声帯がなく、ハクジラでは、噴気孔の下にある憩室ひだが発音器とされる。ウグイスのさえずりなど求愛のための発音は、性ホルモンの影響を受けていることが多い。カエルやセミなど、多くの例で性的誘引の発音は、雄に限られる。しかし、雌のカの羽音は雄のカを誘引するという。

村上 彰]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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