構造地形(読み)こうぞうちけい

改訂新版 世界大百科事典 「構造地形」の意味・わかりやすい解説

構造地形 (こうぞうちけい)

地球表面の起伏,形態である地形は,地殻表層部を構成する岩石の〈構造〉と,そこに働く地球内部および外部からの〈作用〉と,地形形成の〈時間〉の三つの因子によって支配されている。地形が岩石の性質や地質構造と深い関係にあることに注目して,断層や褶曲などの地質構造やそうした地質構造を造る運動(造構造運動)に関係した地形を,20世紀中ごろまで一般に〈構造地形〉と呼んでいた。しかし,欧米の地形学研究者によって調べられていたそれらの構造地形の大部分は,浸食に対する岩石の抵抗性の差異,とくに古い地質時代に形成された地質構造を反映した浸食地形であった。一方,ニュージーランドや日本のような新しい地質時代(新第三紀の後半以来現在まで)の地殻運動火山活動が活発な変動帯では,断層や褶曲運動が現在も活発で,地殻内部やマントル上部に原因をもつ地殻運動(地殻変動)に起因する地形が多く認められる。そこで,従来〈構造地形〉として一括されていた地形を,岩石の性質や地質構造を反映した浸食地形と,地殻変動(地殻運動)に起因する地形とに二分することが1950-60年代にニュージーランドや日本の地形学者によって提唱され,前者を〈組織地形〉,後者を〈変動地形〉と呼ぶようになった。しかし,一部では従来のように〈構造地形〉の語を厳密に定義せず,組織地形と変動地形との両方に用いている場合があるので注意を要する。

 組織地形は,岩石の差異(堆積岩火成岩変成岩の差やそれぞれの化学的組成や組織の差を含む)や広い意味での地質構造(水平層か,断層や褶曲による変位・変形した地層か,断層・節理・層理などの構造の有無や密度のちがい)などにより形成され,ある意味ではすべての浸食地形が組織地形であるともいえる。谷や斜面の形のちがい,水系模様の差,線状構造の有無や密度,方向性など,空中写真上にみられる組織地形の特徴から地質の差異を判定しようとする写真地質学photogeologyは,組織地形に注目した分野である。以下に組織地形の若干の例を挙げよう。パリ盆地は,中生代三畳紀から古第三紀までの地層が緩やかに盆状にたわみ,構造盆地の例とされている。パリ盆地とその周縁では,盆地中心に向かって緩やかに傾く硬い地層と軟らかい地層が交互にあらわれ,ケスタが形成される。硬岩層はおもに石灰岩からなり急崖をなし,軟岩層は主としてケツ岩からなって急崖下の比較的緩やかな斜面になっている。ケスタを形成する地層の傾斜は15度以下とされているが,傾斜がさらに緩やかになり地層が水平に近い所では,硬岩層が平たんな山頂やテーブル状の地形をつくり,メーサと呼ばれる。逆に地層の傾斜が45度以上となり,硬岩層の部分が突出した細長い丘陵,山稜となったものをホグバックという。さらにロシア平原やアメリカ内陸低地のように,古生層・中生層のほぼ水平な地層が広い平地や高地をつくる所では構造平野が発達する。またアメリカ合衆国東部のアパラチア山脈は,褶曲構造をもった古生層が浸食されて,褶曲構造を反映した山稜や谷などの浸食地形が発達して組織地形の代表例とされている。いわば古い山脈をつくる地質構造の骨格が浸食によって洗いだされた地形である。

 一方,変動地形は,地殻運動(地殻変動)による変位,変形が累積されて形成された地形で,例としては断層運動による急崖(断層崖)や急斜面(撓曲崖),谷,尾根の横ずれと屈曲,断層運動による山地(地塊山地,地塁)や谷(断層谷,地溝,断層角盆地),褶曲運動による山稜(変動背斜山稜)や谷(変動向斜谷),曲動による山地(曲隆山地)や盆地(曲降盆地)などがあげられる。実際には,地震断層による比高数mの急崖(低断層崖)のように,地殻変動だけを反映した地形もあるが,多くの変動地形は地殻変動によって地表の起伏が形成されるとともに,長い間には大気のもとで浸食・堆積作用をうけてその形態が少しずつ変化する。したがって比高数百~数千mの断層崖が形成されるには長期間の地殻変動の累積とその間の浸食・堆積作用が加わっている。そこで変動地形として認められるには,地殻変動による変位・変形の速さが,浸食・堆積作用による地形変化の速さよりあきらかに速い場合,または地殻変動が新しく,それによる変位・変形が地形としてよく保存されている場合などに限られる。したがって,浸食・堆積作用を多少うけて地形変化していても,地形の概形をつくった地殻変動の様式や量がわかる場合には,変動地形という。変動地形から地殻変動の様式や量を認定するには,もともとひと続きであった線状の地形(たとえば尾根や谷の地形)あるいは面状の地形(たとえば扇状地面や段丘面,小起伏の浸食面など)が,どのように,どのくらい変位・変形しているかを知ることが必要である。さらにまたそれらのもともとの地形がいつごろ形成されたものか,地形の形成年代が明らかになれば,変位量と形成年代から変位の速さを推定することもできる。第四紀(最近約200万年間)あるいはもっと限定すれば第四紀後期(最近約15万年間)に地形を変位・変形させている断層や褶曲は,活断層活褶曲と呼ばれ,現在,および近い将来においても,再び活動することが推定されている。

 日本の東北地方や近畿地方などでは山地と盆地の境界部に断層があって相対的な沈降部が盆地となっている。また関東平野は曲降盆地を,新しい地質時代(おもに第四紀)の川や海の堆積物が埋めたててつくった堆積盆地変動盆地)である。日本での変動地形の研究によれば第四紀後期における主要な活断層の平均変位速度は年に数mmといわれている。世界的にみると,現在の地震活動と火山活動が活発な地域(変動帯)では新第三紀・第四紀の地殻変動も活発で,地形の概形(大地形)や主要な山地,盆地はその多くが地殻変動によって形成された変動地形である。また海底,とくに深海底は堆積・浸食作用が陸地にくらべておだやかで,地殻変動のようすが地形によく表現,保存されている。
組織地形
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「構造地形」の意味・わかりやすい解説

構造地形
こうぞうちけい

広義には、地盤運動(地形をつくる地殻(ちかく)運動)と火山作用によってできた地形を総称し、狭義には地盤運動でできた地形をいう。テクトニック地形ともいう。わが国では、慣用的に広義の意味の構造地形の分類が使用されてきた。しかし火山地形は、火山作用によって噴出された物質の化学的性質による違いや、風の方向による火山砂礫(されき)や火山灰などの堆積(たいせき)状態、火山の侵食地形を含める場合もあるので、これを構造地形から除き変動地形とよぶ学者もある。

 狭義の構造地形は、大地形(大陸の全体的な形や弧状列島、海嶺(かいれい)や海底大山脈、大陸棚、海溝、海盆など)、台地や高原地形、褶曲(しゅうきょく)地形、断層地形、曲隆地形、撓曲(とうきょく)地形などの対象に分けて研究されている。構造地形は、地質時代と地域的に異なる気候因子に制約された外的侵食営力を受けるので、各気候帯ごとに異なる営力で修飾的に変形された地形であるから、気候地形学と関連的に研究されている。

[有井琢磨]

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