既得権
きとくけん
法的根拠に基づいて、すでに獲得した権利。近代自然法学者の一部は、私的所有権を自然法上の既得権であるとして、国家権力もそれを侵すことができないと説いたが、法実証主義、国家主義、社会主義などの立場から批判され、現在ではほとんど過去のものとなっている。実定法上、既得権をどのように扱うべきかは、法の改正や解釈運用に際して問題とされる。既得権保護の要請は遡及(そきゅう)効をもつ立法を避けるなどの形で現れるが、絶対的なものではなく、旧法と新法、旧解釈と新解釈との間に価値観の変化がある場合には、既得権が廃止されることも多い。
国際私法上、既得権をどのように解するかについて争いがある。一国で適法に取得された権利は他国もこれを尊重すべしとする原則が唱えられているが、A国法からみて違法に取得されたB国法上の権利を、A国の裁判所が当然に保護すべきであるとするのは行きすぎであるとして批判される。既得権保護の問題は、現在とくに第三世界の諸国における多国籍企業の国有化問題に関して争われている。
[長尾龍一]
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既得権
きとくけん
vested rights
すでに取得した権利。国家権力といえどもこれを侵すことはできないと主張されてきたが,今日では立法政策的考慮からある程度尊重されるにすぎない。法の不遡及の原則 (→事後法の禁止 ) は,この命題の一つの表われである。なお国際私法のうえで,既得権の尊重が大きな問題になっている。
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既得権【きとくけん】
人が既に取得した権利。国家の法によって享有する権利に対し,法律行為・時効・特権等によって取得した権利のことをいい,国家もこれを害し得ないものとされた。今日このような意味での既得権は認められないが,立法や行政上,できるだけ既得権を尊重すべきものとされる。
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きとく‐けん【既得権】
〘名〙 個人、または国家が一たび獲得した権利。
※国民新聞‐明治三一年(1898)三月九日「独り露国はカシニー条約に拠りて獲たる膠州湾の既得権を抛ち」
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デジタル大辞泉
「既得権」の意味・読み・例文・類語
きとく‐けん【既得権】
一たび獲得した権利。法的根拠に基づき、すでに獲得している権利。
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きとくけん【既得権 wohlerworbenes Recht[ドイツ]】
なんらかの法的根拠によって,すでに獲得した権利。これをどの程度保護すべきかが,立法論上および解釈論上議論される。近代自然法論者の一部は,私的所有権を自然法上の既得権であるとして,その不可侵性を主張したが,これは法実証主義者,社会連帯主義者,国家主義者,社会主義者などから批判され,ほとんど過去のものとなっている。実定法上問題となるのは,法の改正や解釈運用の変更に際して,既得権をどのように扱うかである。
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世界大百科事典内の既得権の言及
【ダートマス大学事件】より
…アメリカ合衆国において,合衆国最高裁判所が既得権vested rightsの保護を重視していたことを示す例として,よく引かれる1819年の判決。ダートマス大学は,1769年にイギリス国王から特許状を受けて設立されたものであるが,1816年にニューハンプシャー州の議会は,法律でこの特許状の定めを変更した。…
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