排煙脱硫(読み)はいえんだつりゅう(英語表記)flue-gas (stack-gas) desulfurization

日本大百科全書(ニッポニカ) 「排煙脱硫」の意味・わかりやすい解説

排煙脱硫
はいえんだつりゅう
flue-gas (stack-gas) desulfurization

ボイラーなどから排出されるガスに含まれる硫黄(いおう)酸化物を除去することをいう。古くは明治の中ごろより、銅精錬所より排出される亜硫酸ガスが問題となり対策が講じられてきた。第二次世界大戦以後は、大量に輸入される石炭および石油中の硫黄が、火力発電所などにおいて燃焼される際に放出される、大量の排ガス中に含まれる希薄な硫黄酸化物脱硫が課題となっている。燃料として、脱硫がむずかしい重油や石炭を用いる場合、燃料中に含まれる硫黄分は、燃焼後SOx(おもに二酸化硫黄)として排出されるため、これを環境中に放出する前に、除去する方式が1970年代以後採用されている。二酸化硫黄(亜硫酸ガス)は吸収あるいは吸着により回収し、最終的には石膏(せっこう)などにして固定する。大別すると湿式法と乾式法に分けられる。

 湿式法には、(1)石灰懸濁液(けんだくえき)を吸収剤として用い、二酸化硫黄をさらに酸化して硫酸とし、これと石灰から硫酸カルシウム(石膏)にする方法、(2)水酸化マグネシウムの懸濁液を吸収剤とし、生成した亜硫酸マグネシウムを酸化して硫酸マグネシウムとする方法、(3)水酸化ナトリウム水溶液を吸収剤に用いる方法などがある。1980年代から(1)はおもに大型施設で、(2)と(3)は中・小型施設で用いられている。

 乾式法には、(1)石灰石またはドロマイトを燃焼炉内に加え、二酸化硫黄と反応させて、粉末の硫酸カルシウムまたは硫酸マグネシウムを生成させる方法、(2)活性炭吸着剤に用いる方法などがある。(2)の方法には、排煙中のNOx窒素酸化物)も同時に除去できるプロセスが開発されており、日本では2002年(平成14)から大規模石炭火力発電所での実用化が始まっている。

 湿式法は、耐食性の装置を用いる必要や、排水処理を行う必要があるが、装置は比較的小形ですみ、脱硫効率も高い。乾式法は、装置は大形になるが、取扱いは比較的容易であり、脱硫後のガスの温度が高いため、煙突から容易に排出できる利点がある。

富田 彰・八嶋建明]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「排煙脱硫」の意味・わかりやすい解説

排煙脱硫
はいえんだつりゅう

硫黄酸化物の大量発生防止策の一つ。燃焼炉から煙突にいたる中間で煤煙から硫黄分を離脱させるもので,方法としては,(1) カセイソーダ,石灰などを溶液または乳化液として,これに吸収させる湿式法,(2) 活性酸化マンガン,活性炭などに吸着させる乾式法,がある。前者からは石膏,硫黄,硫酸アンモニアなどの副製品が,後者からは硫酸が回収される。実用的には湿式法が多く用いられ,脱硫率は 90%以上と高く,乾式に比べて小型となる。

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世界大百科事典(旧版)内の排煙脱硫の言及

【脱硫】より

…吸収された硫化水素は別の工程で溶剤から分離され,クラウス法などにより元素状硫黄として固定,回収される。
[排煙脱硫]
 重油や石炭など硫黄含有量の多い燃料を燃焼すると硫黄酸化物が煙道ガスに含まれ,大気汚染公害をもたらすのでその除去が必要である。その方法には,固体吸収剤(活性炭,石灰石,酸化マンガンなど)を用いる乾式法と,水溶液系吸収剤(消石灰スラリー,アルカリ水溶液など)を用いる湿式法がある。…

【排ガス処理】より

… ばい煙中に含まれる物質で問題になるのは主として硫黄酸化物SOxと窒素酸化物NOxである。SOxの排ガス処理である排煙脱硫方式は,排ガス中のSOxを液体または固体の化合物に変えて除去するもので,湿式法と乾式法がある。一般に実用化されているのはおもに湿式法で,これは排ガスを水酸化ナトリウムなどの水溶液と接触させて,排ガス中のSOxをセッコウ,亜硫酸ソーダ,ボウ硝,硫酸などの副生品として回収する方式であるが,相当量の淡水を使用すること,重量物であるセッコウなどを副生すること,排水処理が複雑なことなどに難点がある。…

※「排煙脱硫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」