或は(読み)アルハ

デジタル大辞泉 「或は」の意味・読み・例文・類語

ある‐は【×或は】

[接]《動詞「あり」の連体形係助詞「は」から》
(「あるは…、あるは…」の形で)ある者は。ある場合は。
「―年ごとに鏡のかげに見ゆる雪と浪とをなげき…、―昨日は栄えおごりて時を失ひ」〈古今仮名序
あるいは。または。
逢坂山に至りて手向けを祈り、―春夏秋冬にも入らぬくさぐさの歌をなむ撰ばせ給ひける」〈古今・仮名序〉

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精選版 日本国語大辞典 「或は」の意味・読み・例文・類語

ある‐い‐は【或は】

(動詞「あり(有)」の連体形に副助詞「い」および係助詞「は」の付いたもの)
[1] 〘連語〙 (「あるいは…、あるいは…」の形で多く用いられる) 同類事柄の中から一方を選び、または、さまざまな場合を列挙して、主格となる。ある人は。ある事(時)は。
※東大寺本成実論天長五年点(828)一五「有(アル)いは不善心と不善信と倶なること有り。或(アル)いは不善心は有りて信は無し」
※新井本竹取(9C末‐10C初)「あるいは笛を吹き、あるいは歌を歌ひ」
[2] 〘接続〙
① (「あるいは…、あるいは…」の形で) 同類の事柄を列挙し、それぞれの場合があることを示す。一方では。時には。
※法華義疏長保四年点(1002)一「菩薩は心は道に会(かな)ふと雖も、形は定方無し。或いは道、或は俗なり」
※高野本平家(13C前)一「或(アルイ)は文を遣はす人もあり、或は使をたつる者もあり」
② (「…あるいは…」の形で) 同類の事柄のうち、いずれか一方が選ばれることを示す。または。もしくは。
※大乗掌珍論天暦九年点(955)「世に一の無智の画師有りて、畏る可き薬叉鬼の像と、或イハ女人の像とを画き作して」
浮世草子傾城禁短気(1711)五「はやらぬ時は位を下ろされ、或(アルイ)は所を替へられ」
[3] 〘副〙 もしかすると。ひょっとすると。
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「それは課長の方が或は不条理かも知れぬが」
[補注]現代語副詞として用いられる場合は、かなり事柄の生起する可能性が高い場合に使われる。

ある‐は【或は】

〘接続〙 (ラ変動詞「あり(有)」の連体形に係助詞「は」の付いたものから) →あるいは
① (「あるは…、あるは…」の形で) 同類の事柄を列挙し、それぞれの場合があることを示す。あるものは。ある場合は。一方では。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)二「或は躁動の心に為(よ)り、或は瞋と恚と恨とに因(よ)り」
② (「…あるは…」の形で) 同類の事柄のうちどちらか一方が選択される関係にあることを示す。または。もしくは。
※古今(905‐914)仮名序「あふさか山にいたりてたむけを祈り、あるは春夏秋冬にも入らぬくさぐさの歌をなん選ばせたまひける」
[語誌]漢文の「或」などの訓読から発生し、平安初期には、おおむね「ある人が」の意には「あるいは」、「ある場合は」の意の接続のときは「あるは」と読み分けていた。平安中期以降は接続の場合も「あるいは」にとって代わられた。

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