家庭医学館 「感染性腸炎」の解説
かんせんせいちょうえん【感染性腸炎 Infectious Enteritis】
小腸(しょうちょう)や大腸(だいちょう)が細菌、ウイルスなどに感染し、下痢(げり)、腹痛、嘔吐(おうと)、発熱、ときには血便(けつべん)などをおこすものです。
[原因]
もっとも多いのは細菌による細菌性腸炎です。食品による急性腸炎の集団発生は、サルモネラ、腸炎ビブリオ、黄色(おうしょく)ブドウ球菌(きゅうきん)、腸管出血性大腸菌などが原因となります。
そのうちもっとも頻度の高いのは、ニワトリ、ウシ、ブタなどの食肉につくサルモネラ菌による腸炎で、8~48時間の潜伏期の後、悪心(おしん)(むかむかと気持ちが悪いこと)、腹痛、下痢が出現します。腸炎ビブリオは魚介類が原因となることが多く、10~18時間の潜伏期の後、発症します。
カンピロバクター腸炎はおもに鶏肉が感染源で、かぜのような症状が先行します。ブドウ球菌の感染経路となる食物はさまざまで、1~5時間の潜伏期の後、発症します。
病原性大腸菌のうち、O(オー)‐157はベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌の一種です。潜伏期間は平均3~7日で、初発症状は水様性(すいようせい)の下痢と腹痛です。かぜのような症状をともなうこともあります。下痢の回数が徐々に増加して便に鮮血がまじるようになり、やがて血便となります。
重症化すると、急性腎障害(きゅうせいじんしょうがい)、血小板(けっしょうばん)減少、溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)をおもな症状とする溶血性尿毒症症候群をおこします。
ウイルス性腸炎の原因ウイルスは数多く、種々のエンテロウイルス、ロタウイルス、腸管アデノウイルスなどが知られています。
[検査と診断]
細菌性の場合、汚染食品の摂取から発症までの潜伏時間が、毒素型(ブドウ球菌、ボツリヌス菌)は4~12時間、感染型(サルモネラ)は12~24時間と分かれます。ただし、症状と経過だけから原因を鑑別するのは必ずしも簡単ではありません。
確定診断は便の細菌培養により行ないます。白血球(はっけっきゅう)が多く、単一の細菌がたくさん認められるときは細菌性腸炎が考えられます。
カンピロバクターは、新鮮便を顕微鏡検査すれば存在が確認できることがあります。下痢が数日間続いたり出血をともなう場合は下部消化管内視鏡で検査します。
ウイルス性の場合は、流行やその疫学的な情報、症状、便の性状が重要となります。ロタウイルスは乳幼児の重症化する下痢の最大の原因で、6か月~2歳までの乳幼児によくみられます。発熱、腹痛、嘔吐などをともなう激しい下痢が約1週間持続します。下痢便は水様で、ときに白色となります。
[治療]
下痢が何度もおこると脱水症をおこすため、輸液を行ないます。軽症ならば、スポーツ飲料を飲むだけでよいのですが、重症ならば点滴が必要です。
腹痛が激しいときは鎮痙薬(ちんけいやく)が、嘔吐に対しては制吐薬(せいとやく)が用いられます。止痢薬(しりやく)は、体内の毒素を排出する機構にも影響するおそれがあるため、使用は最小限度にとどめられます。
細菌性の食中毒は自然に治ることも多く、必ずしも抗生物質を服用しなければならないわけではありません。ただし、重症例や抵抗力の弱い子ども、お年寄りの場合は、細菌を早く駆逐するために使われます。
また抗生物質は、その菌に有効なものを選ばなければなりませんが、カンピロバクター腸炎ではマクロライド系の抗生物質が、それ以外ではニューキノロン系の抗生物質がまず選ばれます。ボツリヌス中毒では早急な抗毒素療法が必要になります。
日常での注意として、腹痛が強かったり、血便をともなう場合は、腸の安静のために絶食が必要です。軽症の場合、食事は消化のよいものとし、刺激性のある食物、香辛料(こうしんりょう)、高脂肪食、塩辛いもの、アルコールは控えましょう。
予防として食品の管理に気をつけます。賞味期限を守り、古くなったものは始末しましょう。また、食中毒が発生しやすい季節には生(なま)ものはなるべく控え、調理用具を清潔に保ちましょう。