急性散在性脳脊髄炎(読み)キュウセイサンザイセイノウセキズイエン

デジタル大辞泉 「急性散在性脳脊髄炎」の意味・読み・例文・類語

きゅうせいさんざいせい‐のうせきずいえん〔キフセイサンザイセイナウセキズイエン〕【急性散在性脳脊髄炎】

アデム(ADEM)

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内科学 第10版 「急性散在性脳脊髄炎」の解説

急性散在性脳脊髄炎(脱髄疾患)

概念
 急性散在性脳脊髄炎は急性に発症する炎症性脱髄疾患で,脳や脊髄を散在性に侵す.その経過は単相性で,再発・寛解を示すものは,きわめてまれである.通常,原因別に,①ワクチン接種後(postvaccinal ADEM),②感染後(postinfectious ADEM),③特発性(spontaneous ADEM)の3型に分類される.
疫学
 有病率は明らかではないが,人種,年齢,性差にかかわりなく起こる.感染後のものは小児に多く,特発性のものは若年成人に多い傾向がある.
病因
 感染後急性散在性脳脊髄炎は麻疹風疹水痘,流行性耳下腺炎,インフルエンザなどのウイルス感染,または百日咳やデング熱の感染後2~15日ほどして発症する.発症機序としてはウイルスが直接神経組織へ感染するのではなく,アレルギー反応により起こるものと考えられている.ワクチン接種後急性散在性脳脊髄炎は狂犬病,痘瘡,腸チフスなどのワクチン接種2~15日後に発症する.ワクチンに含まれていた脳抗原や交叉抗原に対するアレルギー反応が原因と考えられている.実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)の病理像に類似していることより,遅延型過敏症によるアレルギー機序の関与が考えられる.
病理
 リンパ球を主体とする単核細胞が小静脈周囲性に浸潤する静脈周囲性脳脊髄炎(perivenous encephalomyelitis)であり,病変大脳脳幹小脳,脊髄の白質に散在して観察される.脱髄は小静脈周囲性に認められ,その程度は多発性硬化症に比べると軽度である.
臨床症状
 ウイルス感染やワクチン接種後数日から数週間後(おもに1~2週)に急性に発症する.神経症状に先行して発熱,全身倦怠感,頭痛,悪心・嘔吐などの症状が出現する.項部硬直などの髄膜刺激症候や,痙攣をきたすことがある.一般に大脳(片麻痺半盲,失語),脳幹(眼振,眼球運動障害),小脳(運動失調,構音障害),脊髄(四肢麻痺,膀胱直腸障害)の病変を示唆する神経症状が急速に進展してくる.臨床的に脳炎型,脊髄炎型,脳脊髄炎型の3型に分けられる.嗜眠状態や昏睡状態に陥る場合は予後不良である.
検査成績
 本症に特異的な検査異常はないが,ときに末梢血白血球数の軽度増加がある.髄液圧は軽度亢進し,蛋白量も上昇するが,100 mg/dLをこえることは少ない.髄液細胞はリンパ球を主体として数十~数百/μLの増加を示す.MRIでは中枢神経白質に多くは左右対称に広範な病変がみられ,ガドリニウムDTPAにより増強される.脳波は広範に非特異的な異常を示すことが多い.
治療
 副腎皮質ステロイドのパルス療法メチルプレドニゾロンで1日量500~1000 mg点滴静注を3日間)が有効とされている.対症療法は多発性硬化症に準じる.[糸山泰人]
■文献
Compston A, et al eds: McAlpine’s Multiple Sclerosis, 4th ed, Churchill Livingstone Elsevier, Philadelphia, 2006.
糸山泰人:変わりつつある疾患の概念-視神経脊髄型多発性硬化症(OSMS)と視神経炎(NMO)-.Annual Review神経,2008: 238-245, 2008.
Misu T, Fujihara K, et al: Loss of aquaporin 4 in lesions of neuromyelitis optica: distinction from multiple sclerosis. Brain, 130: 1224-1234, 2007.
Vinken PJ, Bruyn GW, et al eds: Handbook of Clinical Neurology: Demyelinating Disease 47, Elsevier Science Publishers, Amsterdam, 1985.

急性散在性脳脊髄炎(非感染性炎症性疾患)

(1)
急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)
 【⇨15-9-4)】[犬塚 貴]
■文献
松井 真:横断性脊髄炎.Clinical Neuroscience, 28: 108-109, 2010.

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六訂版 家庭医学大全科 「急性散在性脳脊髄炎」の解説

急性散在性脳脊髄炎
きゅうせいさんざいせいのうせきずいえん
Acute disseminated encephalomyelitis
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 感染後やワクチン接種後に、まれに脳や脊髄(せきずい)などの中枢神経の全体を急性に侵すまれな炎症性脱髄(だつずい)疾患です。

原因は何か

 麻疹(ましん)風疹(ふうしん)水痘(すいとう)インフルエンザなどのウイルス感染後や、まれではありますがワクチン接種後2~15日頃に発症します。脳脊髄などの中枢神経にアレルギー反応による脱髄性の炎症が起こると考えられています。

症状の現れ方

 ウイルス感染やワクチン接種後数日から数週間後に、急性に発熱、全身倦怠感(けんたいかん)、頭痛、悪心(おしん)、嘔吐などが現れます。その後、麻痺やけいれん、失調や知覚障害などの中枢神経症状が進展してきます。意識障害を伴う場合は予後不良です。

検査と治療の方法

 髄液検査では蛋白やリンパ球が軽度増加します。脳や脊髄のMRIで病変がみられ、多くはガドリニウム増強効果が明らかです。

 治療には早期に副腎皮質ステロイド薬を大量投与するパルス療法を行います。

糸山 泰人

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「急性散在性脳脊髄炎」の意味・わかりやすい解説

急性散在性脳脊髄炎
きゅうせいさんざいせいのうせきずいえん
acute disseminated encephalomyelitis:ADEM

脳および脊髄において,主として白質が侵され,急性の脳炎型,脊髄炎型を示す疾患。多発性の脱髄 (髄鞘がなんらかの原因によって変性脱落すること) を主徴とする。麻疹,痘瘡,風疹,水痘などの急性感染症に続いて発病したり,狂犬病や痘瘡 (天然痘) の予防接種後に起ることがある。前者を感染後性脳脊髄炎,後者を接種後性脳脊髄炎という。経過や重篤度に種々あり,死亡率が比較的高いこと,治癒後も神経症状が高頻度に残ることが特徴である。治療には ACTHや強力な副腎皮質ホルモンの投与が有効である。 (→脱髄疾患 ) 。

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世界大百科事典(旧版)内の急性散在性脳脊髄炎の言及

【脳炎】より

…またセントルイス脳炎,カリフォルニア脳炎,ロシア春夏脳炎など地域により独特なものも知られている。(2)感染症後,予防接種後に発病する脳炎 はしか,水痘,流行性耳下腺炎などの感染症後や種痘,狂犬病ワクチン接種後などに発症するもの,ならびに特別な誘因のないものがあり,急性散在性脳脊髄炎といわれる。発症機序としてはアレルギー性のものが考えられている。…

※「急性散在性脳脊髄炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」