循環器系疾患における新しい展開

内科学 第10版 の解説

【コラム】循環器系疾患における新しい展開

 情報技術の進歩により,近年,循環器診療も大きく変化した.画像診断はその代表である.特にCTによる冠動脈造影(CT-CAG)の普及はめざましい.数年前ではCT-CAGによる放射線被曝量は通常のCAGと同程度だったが,最新鋭機では1/10にまで低下している.CT-CAGの欠点は,石灰化病変が存在すると判定できないことである.そのため,MRIによる画像診断が注目されている.MRIは冠動脈病変だけでなく,造影剤により,心筋傷害部を検出することができる.3次元心エコーの発達もめざましい.
 不整脈診療も進歩している.ペースメーカや植え込み型除細動器(ICD),除細動装置付き心臓再同期療法器(CRT)は進歩が著しく,最近は送信器を介して遠隔モニタリングも可能となった.また,長期間にわたり皮下に植え込むことのできる心電図モニターは不整脈疾患の診断に有用である. 侵襲的な不整脈治療法では電気的焼灼術が飛躍的に進歩した.心内膜側の電位マッピングが迅速に3次元表示できるようになったため,心筋焼灼術心室頻拍心房細動の治療に広く用いられている. 冠動脈狭窄に対するインターベンション(PCI)も発展が続いている.薬剤溶出ステント(DES)の導入により適応が拡大し,合併症をもつ高齢患者にも行われている.超音波や光技術を用いた冠動脈内腔の画像診断法(IVUSやOCT)の進歩も,PCIの発展に貢献した.しかしながら,PCIの過剰な適応には批判があり,冠動脈バイパス術も選択肢として考慮した適応決定を,内科医と外科医が相談して決めるように勧告されている.
 慢性心不全については,レニン-アンジオテンシン系阻害薬に加えて,β遮断薬の使用が一般化した.β遮断薬は予後を改善することから,心臓に構造的な異常があれば,早期から使用が勧められている.また,ペースメーカを用いた心臓再同期療法や補助人工心臓も改良が続いている.心臓移植施設として認定される病院も増え,わが国でも移植患者が増加している.
 ゲノム医学の進歩も,近年の大きな特色である.とくにMarfan症候群や不整脈疾患については,ゲノム変異の情報が診療に利用されるようになった.
 エビデンスに基づく医療(EBM)は,この10年間に一段と普及した.虚血性心疾患,不整脈疾患,慢性心不全では,EBMにより診療ガイドラインが作成され,標準治療が普及した.虚血性心疾患に対する脂質低下療法,慢性心不全に対するβ遮断薬やレニン-アンジオテンシン系阻害薬,心房細動に対する抗凝固薬などは,大規模臨床試験により意義が明確になった.そのほかにも肺高血圧に対する薬物療法が進歩しており,予後も大きく改善してきた. なお,大規模臨床試験は集団と集団の比較であり,個々の患者がその治療の恩恵を受けるかは別の問題である.また,真のEBMは臨床試験を参考にしつつ,医療者の経験や,患者のおかれた状況,さらに価値観などを考慮して,個々の患者に最適の医療を行うことである.したがって,今後は,これをいかにして実践するかが重要な課題である.同時に,費用対効果も考慮しなければならない.[永井良三]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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