引抜(読み)ひきぬき

精選版 日本国語大辞典 「引抜」の意味・読み・例文・類語

ひき‐ぬき【引抜】

〘名〙
① 引っぱって抜くこと。
歌舞伎隅田春妓女容性(1796)序幕「ト此うち一間の障子引抜きにて開く」
② 他に属している者を自分の方に属させること。
※雑俳・柳多留‐六(1771)「ひきぬきにしなのの伯母も捨られず」
③ 歌舞伎、踊りなどで、衣装に仕掛けた糸を引き抜いて、素早くこれをぬぎ、下の衣装をあらわすこと。また、その衣装。引脱ぎ。引抜衣装。
※黄表紙・面向不背御年玉(1787)「頭巾を脱ぐとなでのいとだれ引抜きにて、龍王のなりとなると」
④ 特に、生え際をきれいにそろえるため、髪の毛を引き抜くこと。
咄本・都鄙談語(1773)飼猫「十八九の娘、当世ひきぬきに髪を結たて」
⑤ まざりもののない白い上等なそば粉。
※黄表紙・文武二道万石通(1788)序「五穀の外に挽(ヒキ)ぬきの、おそば去らずの重忠が」
⑥ 鋼棒・鋼管などを、ダイスに通して必要な形および太さにすること。
※海の挑戦(1965)〈邦光史郎〉二「この手の引抜きパイプの耐用年数は、大体、二十年だといいますね」

ひき‐ぬ・く【引抜】

〘他カ五(四)〙
① ひっぱって抜く。転じて、不都合なこと、気がかりなことなどをとり除く。
※宇津保(970‐999頃)嵯峨院「御まへのはなすすき〈略〉秋もほにいでぬをひきぬきて、そのはにかく」
草枕(1906)〈夏目漱石〉一「住みにくい世から、住みにくき煩ひを引き抜いて」
② 持ち去る。また、盗みとる。
更級日記(1059頃)「心も知らぬ人を宿し奉りて、釜はしもひきぬかれなば」
③ 他に属している者を、待遇などをよくして自分の方に属させる。身請け、またはスカウトなどをする。
浮世草子・好色盛衰記(1688)四「女良をひきぬき、妻のごとく宿に置て」
多くの中から選びとる。
⑤ 歌舞伎・踊りなどで、衣装に仕掛けた糸を抜き取り、瞬時に別の装束に変わる。
※歌舞伎・曾我綉侠御所染(御所五郎蔵)(1864)三幕「屋体のスッポンより犬出で時鳥の傍へ来り、引抜くと以前の鈍玄にて」

ひっこ‐ぬき【引抜】

〘名〙
① 強く引きぬくこと。勢いよくぬくこと。
※怪談牡丹燈籠(1884)〈三遊亭円朝〉一回「弱さうな男だからまだ抜刀(ヒッコヌキ)は仕ひと思ったに」
② 特にすぐれていること。また、そのもの。つぶより。
※咄本・鹿の子餠(1772)新五左殿「町人は本田屋銀次郎、当世しゃれのひっこぬき」
③ そっくり似ていること。生写し。
※洒落本・伊賀越増補合羽之龍(1779)向ふ島之段「豊前引っこぬきといふ所を洲崎の升屋でかたったといふこった」
※投手殺人事件(1950)〈坂口安吾〉二「桜映画じゃ、一流投手二三人ひッこぬきに成功したらしいのよ」

ひっこ‐ぬ・く【引抜】

〘他カ五(四)〙
① 強くひっぱってぬく。勢いよくひきぬく。
※雑兵物語(1683頃)上「こじ破てひっこ抜た」
② 他に所属する者を自分の方へ強引に移籍させる。ひきぬく。
※あらくれ(1915)〈徳田秋声〉六五「工場から引っこぬいて、これを自分の手で男にしてみよう」

ひん‐ぬき【引抜】

〘名〙 (「ひきぬき(引抜)」の変化した語) ひんぬくこと。多くの物のなかから、えり抜くこと。また、そのもの。
※咄本・醒睡笑(1628)一「ひんぬきは新藤吾には似たれどもよくよくみれば島田鍛冶なり」

ひん‐ぬ・く【引抜】

〘他カ五(四)〙 (「ひきぬく(引抜)」の変化した語) 勢いよく抜く。また、抜く意を強めていう。
※漢書列伝笠桃抄(1458‐60)賈誼第一八「搴はひんぬいて取ぞ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報