学生納付金(読み)がくせいのうふきん

大学事典 「学生納付金」の解説

学生納付金
がくせいのうふきん

教育やそれに付随する教育機関が提供するサービス(図書館など施設の利用など)を利用するための対価を指す。略して学納金ともいう。その多くの部分は授業料であるが,入学金や入試検定料なども含まれる。さらに,私立大学では施設整備費や実験実習費なども含まれる。しかし,授業料は学生納付金の大部分を占めるために,学生納付金と厳密に区別されない場合も多い。とくに施設使用料や実験実習費などは,国立大学では徴収されていないので,入学金を除けば,授業料と学生納付金はほぼ等しくなる。このため,授業料と学生納付金の区別は実際には厳密にはなされておらず,相互に用いられることが多い。
著者: 小林雅之

[日本の大学財政における学生納付金]

大学財政における収入は,おもに学生からの納付金,大学運営のための国や地方自治体からの交付金,民間企業等からの出資金や寄付金,共同研究の研究費で構成されている。病院を運営している場合には病院収入も含まれる。日本の大学財政の特徴は,大学の設置主体によって中心となる財源が異なることにある。

 国公立大学では,国や設置自治体からの交付金が収入の中心を占める。国立大学全体の財政状況をみると,収入の34%が運営費交付金,付属病院収益が33%を占め,学生納付金が占める割合は11.5%となっている(2013年度)。公立大学では収入の42%が設置自治体の負担金であり,学生納付金は24%である(2014年度)。国公立大学では,学生納付金が大学財源全体に占める割合は相対的に小さい。他方,私立大学の財源は,学生からの納付金が収入の中心を占める。私立大学では,収入のおよそ75%が学生納付金である(2015年度)。私立大学に対する国からの経常的補助金(私学助成)は,財源の1割程度でしかない。私立大学がその収入を学生納付金に依存していることは,学生募集の状況が大学経営に直接影響することを意味し,また学費値上げにつながりやすい構造となっている。なお,大学経営を考えると財源の多様化が重視され,アメリカの大学の財源では寄付金や資産運用が大学財政で重要な役割を果たしていることが指摘されるが,日本の大学では国公私立大学ともにそれらが占める比率は小さい。

 学生納付金は入学金(入学料),授業料が中心となる。また大学や学部等の専門領域の特徴により,施設整備費,実験実習費,同窓会費などの費目が設定されている。とくに学生納付金が大学財政で重要な位置を占める私立大学では,さまざまな種類の納付金が設定されている。このような学生納付金は,1年もしくは半年など大学が指定する期間を対象に前納を要求し,事情を問わず返還しないとする扱いが一般的である。このことが大学財政を安定させることにつながるためである。ただし,2000年に消費者契約法が制定され,入学辞退者による前納金返還訴訟が争われた結果,入学前納付金について,3月31日までの入学辞退者には入学金以外の授業料などの費目の納付金は返還するようになった(2006年11月27日最高裁判決)。また,休学中の学生の授業料について,徴収するかどうか,徴収する場合でも全額とするか半額とするかなどは大学による違いがみられる。学納金は,大学財政への影響と社会制度や教育的配慮とのはざまにあるといえる。

 現在,日本においても大学の機能分化が進められており,今後,大学財政のあり方も変化していくことが想定される。研究を中心とする大学は各種研究資金が重点的に配分され,研究費が重要な財源となり,教育を中心とする大学は学生納付金への依存が高まることが想定される。授業料を中心とする学生納付金がもつ財政上の意味が,大学によって異なるものになるだろう。
著者: 白川優治

参考文献: 日本私立学校振興・共済事業団『今日の私学財政―大学・短期大学編』各年度版.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報