奴物(読み)やっこもの

改訂新版 世界大百科事典 「奴物」の意味・わかりやすい解説

奴物 (やっこもの)

歌舞伎狂言の一系統。武家従僕としての奴あるいは旗本奴,町奴を主人公にする。寛文期(1661-73)の江戸の記録には,役柄として〈奴方〉〈子奴〉があり,奴方を主人公とする一幕演目に〈地獄奴〉〈風呂入奴〉〈山谷奴〉〈谷中奴〉〈奴踊〉〈奴つれ六方(ろつぽう)〉など,〈奴〉のつくものが多数挙げられる。〈丹前(たんぜん)〉や〈六方〉の演技術を創始したといわれる多門庄左衛門(生没年不詳,1660年代江戸で活躍)が奴方としても初めに記録されている。伊達(だて)な奴が丹前や六方の演技術を見せ,六方詞を聞かせる内容であったと思われる。時代が下ると,役柄の〈奴方〉は消滅し,従僕として愛敬と特殊な色気を見せる立役の奴に変わった。現在,奴の役として有名なものには《鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりやくのまき)》の智恵内,《蘭平物狂》の蘭平,《新薄雪物語》の妻平など,〈色奴〉の名称をもつものがある。一方,舞踊として,奴生活の諸相滑稽味を加えて見せる《国入奴》(《小原女》),《関三(せきさん)奴》,《鳶(とんび)奴》(《うかれ奴》),《供奴》(《芝翫(しかん)奴》),《奴凧(やつこだこ)》などその数は多い。
丹前 →奴踊 →六方
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