日本大百科全書(ニッポニカ) 「女の平和」の意味・わかりやすい解説
女の平和
おんなのへいわ
Lysistrate
古代ギリシアの喜劇詩人アリストファネスの喜劇。紀元前411年上演。ペロポネソス戦争が勃発(ぼっぱつ)して20年、何度か訪れた和平への期待はすべて裏切られ、アテネが国運を賭(と)して敢行したシチリア島大遠征(前415~前413)も惨敗の結果に終わった。しかし終戦への気運が動くどころか、アテネがなおも破滅への道をたどろうとしている時期に、この劇は書かれている。打ち続く戦争、夫や息子の出征、空閨(くうけい)を守らねばならぬ長き日々に耐えかねた女たちが、敵も味方もリュシストラテ(軍を解く女の意)の指揮のもとに集まり、男たちが戦争をやめるまで性生活を拒否することを決議する。しかし男たちはピケ破りを試み、女のなかにもスト破りを図る者が現れるが、結局この戦術が功を奏し、男たちも背に腹はかえられず、戦争を中止するという筋(すじ)である。旧作『平和』においてアリストファネスは、平和の実現こそが性的充足につながるという思想をうたったが、ここでは逆に、性的な飢渇状況を人為的につくりだすことにより、戦争から平和への転換を実現することを夢想しているのである。
[中務哲郎]
『高津春繁訳『女の平和』(岩波文庫)』