大学開放/大学拡張(読み)だいがくかいほう/だいがくかくちょう(英語表記)university

翻訳|university

大学事典 「大学開放/大学拡張」の解説

大学開放/大学拡張
だいがくかいほう/だいがくかくちょう
university

大学開放定義領域

大学開放とは,大学の物的・人的・知的資源を社会に開放する活動である。明治期に「大学教育普及」として紹介され,大正期に大学拡張という語が普及した。第2次世界大戦後は学校開放の一環とみる観点から「大学開放」が定着してきたが,大学の閉鎖性を問う歴史的概念としては「大学拡張」が用いられることが多い。総称的に「エクステンション」と呼ばれることもある。

 大学開放には「大学教育の開放」と,施設や人材あるいは研究成果を含めた「資源の開放」という二つの意味がある。前者として,①正課教育の開放(社会人特別選抜,科目等履修生,昼夜開講制,長期履修制度など),②正課教育以外の教育活動(公開講座や高校への出前授業など)がある。後者として,③大学の人材の提供(審議会や委員会など,学外での講演会・研修会等での講師活動など),④施設の開放(図書館や体育館等の開放),⑤共同研究/受託研究や技術移転事業等の産学連携活動がある。このほかに,サービス・ラーニングやボランティアのように,学生への教育を社会に開放することを含む場合もある。このように大学開放の領域は広いが,現実社会と遊離した大学のあり方を問い直し,大学の教育研究機能の再考を促す概念という点では共通理解がある。

[大学開放の起源―英米の大学拡張運動]

大学開放の起源は19世紀中葉のイギリスに遡る。当初は階級や宗教にかかわらず学生を受け入れるという意味で,「古典的大学拡張」といわれる。これに対して「近代的大学拡張」とは,大学教育を受ける機会が閉ざされてきた女性や労働者などの学外の人々に,正規課程と同等の教育を提供することである。1873年にケンブリッジ大学のジェームズ・スチュアート,J.は,大学の講師が各都市に訪問して行う巡回講義を開始した。この試みはイギリス全土に広がり,1890年代以降,イギリス型大学拡張運動として欧米諸国や日本にも伝えられた。その後,イギリスの大学は労働者教育協会(Workers' Educational Association)の協力を得て,労働者の学習関心に密着したチュートリアル・クラスという教育方法を開発し,イギリス成人教育の伝統を形成してきた。

 アメリカ合衆国でも19世紀末にイギリスを模した巡回講義が開始されたが,20世紀初頭になると,大学が地域社会にサービスする責任を負うという理念(ウィスコンシン・アイデア)のもとにアメリカ型大学拡張運動が展開された。ウィスコンシン大学(アメリカ)は1906年に大学拡張部を設置して,大学教育だけではなく,巡回図書や公衆衛生事業などの多様で実用的なサービスを提供した。他州でも,これに倣った大学が多数あらわれ,1915年に全米大学拡張協会(National University Extension Association)という全国組織が結成された。1960年代には現職者の専門職教育ニーズの高まりとともに,継続教育(Continuing Education)という概念が一般的となり,大学拡張部から継続教育部へと改称する大学が増えた。このように英米の大学拡張運動は大学の民主化運動を土台として成長し,大学が主体となって組織的に取り組まれてきた。

[日本の大学開放]

日本では,明治期から私立専門学校が校外生制度,講義録,巡回講義を行った。大正期には文部省委嘱によって官立学校で公開講義が行われた。第2次世界大戦後は学校教育法と社会教育法に基づいて,学校開放の観点から大学公開講座が提供された。1960年代には生涯教育概念の登場とともに大学開放への関心が高まり,64年に社会教育審議会答申「大学開放の促進について」が出された。1973年には東北大学に大学教育開放センターが設置され,金沢大学,香川大学,徳島大学にも生涯学習系センターが設置されていったが,公開講座が主たる活動であった。

 大きな転換を遂げたのは,「生涯学習体系への移行」を打ち出した臨時教育審議会以降である。大学設置基準の大綱化(1991年)を受けて,正規課程における履修形態の弾力化と多様化が進んだからである。単位互換を促進する大学コンソーシアムの形成も成果の一つである。正規課程以外では,教養的な公開講座のみならず,行政や市民団体との協働による個性的な地域連携講座が開発された。1996年の科学技術基本計画策定以降は,知的財産の開放という観点から技術経営講座や起業支援が提供された。ただし,上記の進展は18歳人口の減少と国際競争力の強化という外的条件が主たる誘因であるため,英米でみられた大学の民主化を求めるというイデオロギー的側面は希薄である。

 中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像(中教審答申)」(2005年)では,「教育・研究機能の拡張(extension)としての大学開放の一層の推進等」が提言され,大学開放が高等教育政策の課題であることが明示された。2011年度「開かれた大学づくりに関する調査」によれば,専門機関・組織を設置している大学は,「公開講座」は約7割,「地域連携」は約6割,「産学連携」は約5割となったように組織化が進んできた。しかし,人手・人材の不足,地域との連携の意義が学内に浸透していない,予算が確保できないなど,学内での理解と協力に関して課題が指摘された。そのため「大学改革実行プラン」(2012年)では,大学改革の方向性として「地域再生の核となる大学づくり構想の推進」が掲げられ,全学的に地域を志向する「地(知)の拠点」事業が進められた。
著者: 五島敦子

参考文献: 五島敦子『アメリカの大学開放―ウィスコンシン大学拡張部の生成と展開』学術出版会,2008.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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