士は己を知る者の為に死す(読み)しはおのれをしるもののためにしす

故事成語を知る辞典 の解説

士は己を知る者の為に死す

立派な人間は、自分真価を知って待遇してくれる人のためなら、命をなげうって尽くすものだ、ということ。

[使用例] 堅い言葉でいえば、「己を知る者のために死す」こころもちが、彼と山沢さんとの間に、あいぜんとして立ちめていたのである[宮本百合子*三郎爺|1918]

[使用例] 士は己を知る者のために、死すとやら。その儀なれば、お家御安泰のため、およばずながら、犬馬の労をいたすでござりましょう[中山義秀*戦国史記・斎藤道三|1957]

[由来] 「史記―刺客伝」に見えることば。中国の春秋時代、しんという国で、はくという貴族が、ライバルちょうじょうに滅ぼされてしまうという事件が起こりました。このとき、智伯に仕えていたじょうは、山の中を逃げながら、「士は己を知る者の為に死す」と思いを致し、自分のことを優遇してくれた智伯のために、命を賭けて復讐することを誓います。そして、何度も趙襄子を付け狙いますが、とうとう捕まってしまいました。最後にたっての願いで趙襄子の服をもらいうけた彼は、それをずたずたに切り刻んでから、自殺を遂げたのでした。また、同じ「史記―刺客伝」では、じょうせいという男の行動についても、「士はもとより己を知る者の為に死す」と述べられています。

[解説] ❶「己を知る者」とは、自分の本当の価値をわかってくれて、全幅信頼を置いてある仕事を任せてくれる人物、といったイメージ。「士」たるもの、そうそう簡単に命を投げ出すものではないのです。❷逆に言えば、命を投げ出してまで自分のために働いてもらおうと思えば、それ相応の覚悟を持って、相手に接しなければいけない、ということでしょう。

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日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

士は己を知る者の為に死す
しはおのれをしるもののためにしす

男子たる者は、自分の真価をよくわかってくれる人のためには命をなげうっても尽くすものだとの意。中国、晋(しん)の智伯(ちはく)が趙(ちょう)の襄子(じょうし)に滅ぼされたとき、その臣であった予譲は、いったんは山中に逃れたものの、このことばによって復讐(ふくしゅう)を誓い、姓名を変え、顔面を傷つけるなどして別人を装い、襄子をつけねらったが捕らえられ目的を果たせず、襄子の計らいで与えられたその衣を刺し通し、自らも返す剣の刃に伏して命を絶った、と伝える『史記』「刺客伝」などの故事による。

[田所義行]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例