先天性アミノ酸・尿素回路および有機酸代謝異常症

内科学 第10版 の解説

先天性アミノ酸・尿素回路および有機酸代謝異常症(蛋白質・アミノ酸代謝異常)

(1)フェニルケトン尿症(phenylketonuria),高フェニルアラニン血症(hyperphenylalaninemia)(図13-3-10)
定義・概念 フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(phenylalanine hydroxylase:PAH)の先天性異常により,高フェニルアラニン血症およびフェニルケトン尿症を示し,知能障害,痙攣,メラニン欠乏など引き起こす.常染色体劣性遺伝で,マススクリーニングで発見される頻度は1/80000で,アメリカ白人(1/8000)に比べると頻度は少ない.病態生理 PAH遺伝子座位は12q22-14で,現在までに200種以上の変異が同定されている.PAHはおもに肝臓で発現し,フェニルアラニンをチロシンに変換する酵素で,この反応には,補酵素としてテトラヒドロビオプテリンが必要である.このため,テトラヒドロビオプテリンの合成,または再還元にかかわる酵素の欠損でもフェニルアラニン血症が起こる. PAHの障害により,フェニルアラニンがチロシンとなって消費されないと,フェニルアラニンが蓄積し,代謝されてフェニル乳酸やフェニル酢酸,フェニルグルタミン酸となる.これらが血液脳関門の発達の悪い乳幼児期に蓄積すると,アミノ酸の細胞内へ輸送が阻害されるために,精神遅滞や痙攣をきたす.
鑑別診断 PAHの欠損による古典的なフェニルケトン尿症,PAH部分欠損による良性フェニルケトン尿症のほかに,補酵素のテトラビオプテリンの異常による悪性フェニルケトン尿症がある.フェニルアラニン誘導体を大量に含む尿となるので,ネズミの尿のような臭いを放つ.新生児マススクリーニングで血中フェニルアラニンが高値(2~20 mg/dL以上)となる.精密検査では尿中の有機酸分析で代謝産物であるフェニル酢酸などが高値となる.ビオプテリン代謝異常による悪性フェニルケトン尿症との鑑別にはBH4負荷テストを行う.ビオプテリン代謝異常症では,BH4を大量に与えたときに血中のフェニルアラニンが減少する.治療 フェニルアラニンの摂取制限を生涯続けることが基本となる.新生児期から食事中のフェニルアラニン含量を下げる(低フェニルアラニンミルク).乳児期以降では,治療用ミルクを基本にして,蛋白質の少ない野菜,果物,穀類を主とする献立とする.食事による制限により知能低下などの症状を完全に防ぐことができる.その後も終生,肉,卵などを避け穀類,野菜などと治療用食品などを組み合わせた食事による制限が必要である.最近では,低フェニルアラニンペプチドも開発されている.早期に治療を打ち切った場合には神経症状が出現する.テトラヒドロビオプテリン代謝障害による高フェニルアラニン血症では,低フェニルアラニンミルクは無効のため,テトラヒドロビオプテリンを治療に用いる. フェニルケトン尿症の母親が妊娠した場合,胎児が高濃度のフェニルアラニンにさらされることによって,遺伝的には正常であっても,胎児の自然流産,知能障害,奇形などを生じる(母性フェニルケトン尿症).このため,厳密な食事管理が重要である.
(2)ホモシスチン尿症(homo­cystinuria)(図13-­3-11)定義・概念 メチオニンの代謝経路において,中間代謝産物のホモシスチンシスタチオニンに変換されず,体内に多量に蓄積され尿中へ排出される常染色体劣性遺伝病である.発見率は1/176000である.出生時には無症状であるが,乳児期以降に発育障害,知的障害,水晶体偏位による視力低下・緑内障などを引き起こす.病態生理 シスタチオニンβ-シンターゼ(CBS)の欠損によるものが大部分を占める.CBSの遺伝子座は21q22.3で全長30kb,23エクソンからなり,現在では100種以上の変異が同定されている.増加したホモシステインはホモシスチンに変換され尿中に排泄され,また一部はメチオニン合成酵素(MS)によりメチオニンに変換されて,蛋白合成に用いられる.CBSの欠損による典型的なタイプ以外に,MSの欠損あるいは補酵素としてのビタミンB12代謝異常,葉酸代謝異常によっても生じる.典型的なCBS欠損症は,水晶体脱臼,中枢神経系障害(知能障害,痙攣)全身の動静脈血栓症,骨格異常(Marfan症候群様体型,骨粗鬆症)を起こす. 血中ホモシステイン高値は,血管内皮障害,血管平滑筋増殖促進,血小板凝集亢進を起こし,動脈硬化などの生活習慣病の原因として注目されている.また,一般健常者の血栓性疾患においても,血清ホモシステイン濃度が高値であることが知られている.鑑別診断 新生児マススクリーニングでは血中メチオニンの上昇(1~2 mg/dL以上)として把握される.肝疾患や蛋白質を多くとったときに高メチオニン血症がみられる.ほかのメチオニンの上昇する疾患との鑑別には,血漿および尿中アミノ酸分析を行う.ホモシステインは血漿蛋白と容易に結合するため,血漿アミノ酸分析ではホモスチン尿症患者でもホモシステインの上昇を認めないこともある.確定診断のためには,蛋白に結合したホモシステインを含んだ血中総ホモシステインの測定を行う.治療 メチオニンを制限し,不足するシスチンを添加した食事療法を一生継続して行う.乳児ではメチオニンの制限のために治療用メチオニン除去ミルクを使用するが,メチオニンは成長に欠かせない必須アミノ酸であるため低メチオニンミルクに切り替えたり,通常の乳児用ミルクと併用したりして摂取量をコントロールする.また,ホモシステインをメチオニンへ還元する際の補助となるビタミンB6やビタミンB12,葉酸を併用して血中ホモシステイン濃度を下げるビタミン療法を行うこともある.
(3)尿素回路酵素異常症(図13-3-12)定義・概念 アミノ酸の分解により生じたアンモニアは尿素回路によって水に溶ける尿素に変換され,腎臓から排泄される.また,一部のアンモニアはグルタミンやグルタミン酸の再合成に再利用される.このため,尿素回路酵素欠損症や,グルタミン酸脱水素酵素異常症によってアンモニアの体内蓄積が起こる.そのほか,ミトコンドリア膜のオルニチン輸送体欠損症やシトリン欠損症,細胞膜の塩基性アミノ酸輸送体欠損症などにおいても起こる.これらの異常による高アンモニア血症は,重篤な中枢神経系障害をもたらす.
 血中アンモニアの上昇は中枢神経系の異常(悪心,嘔吐,痙攣,昏睡などの意識障害)を起こし,死亡に至ることもある.また,慢性に経過すると脳萎縮,知能低下を起こす.鑑別診断 新生児患者の血中アンモニア濃度は200 μmol/Lをこえ,乳児患者では100 μmol/Lをこえる.鑑別の主要基準は高アンモニア血症である.図13-3-13に,新生児における高アンモニア血症を示す疾患の鑑別を示す(Behrman,2006).
治療
 原則的には十分なエネルギーを投与し,必須アミノ酸の形で最低限の蛋白質を投与する.しかし後に述べるシトリン欠損症では低蛋白・高糖質食は逆に高アンモニア血症を引き起こすので,注意を要する.アルギニンの投与は尿素サイクル異常に起因する高アンモニア血症(アルギナーゼ欠損症は除く)に有効である.アンモニア濃度の低下には,安息香酸ナトリウム,アルギニンなどが有効である.
1)カルバモイルリン酸合成酵素(CPS)
欠損症,オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(OCT)
欠損症,N-アセチルグルタミン酸合成酵素欠損症:
これらの疾患は,同じような臨床症状,生化学異常をきたす.重症度は多様であるが,一般的には生後数日後より,高アンモニア血症の症状(神経症状,拒食や意識障害など)がみられる.CPS欠損症は常染色体劣性遺伝形式をとる.OCT欠損症はX連鎖性優性遺伝であるが,ヘテロ接合体の女性患者よりも,ヘミ接合体の男性患者が重症である.男児の患者では生後数日で重症の高アンモニア血症を生じる.女性および一部の男性患者では,無症状のこともあり,蛋白質を多くとったときや感染症を発症したときに,発作的に高アンモニア血症が現れる.本疾患ではオロチン酸の尿中排泄が増加し,CPS欠損症と鑑別できる.診断は肝臓だけに存在する酵素活性を測定することにより確定できる.OCT欠損患者ではアルギニンの代わりにシトルリンの補充も有効である.
2)シトルリン血症,アルギニノコハク酸尿症,アルギニン血症:
アルギニノコハク酸合成酵素(ASS)の欠損は基質であるシトルリンの蓄積を起こしシトルリン血症(citrullinemia)となる.常染色体劣性遺伝形式で,いくつかの変異が報告されている.アルギニノコハク酸リアーゼ(ASL)の欠損によって生じるアルギニノコハク酸は容易に尿に移行するので尿中への排泄が多くASL欠損はアルギニノコハク酸尿症(argininosuccinic aciduria)という.これらの疾患は新生児期から発症するものが多く,臨床症状は血中のシトルリンが上昇する以外はCPSやOCT欠損症とよく似ている.軽症型では発育不全,頻発する嘔吐を示す.
 アルギナーゼ欠損によるアルギニン血症(argi­ninemia)は常染色体劣性遺伝形式をとる.症状はほかの尿素サイクル酵素異常症とかなり異なる.生後数カ月から数年の間は正常で,それまで正常であった小児が脳性麻痺のような歩行異常で発症することが多い.筋緊張亢進,反射亢進,痙攣などの神経症状がみられる.血中のアルギニンの著しい上昇を認める.尿中へは,アルギニン,リシン,オルニチン,シスチンなどの塩基性アミノ酸の排泄増加をみる.アルギニンの投与は禁忌である.治療にはアルギニンを含まない低蛋白食を投与する.
3)高オルニチン血症・高アンモニア血症・ホモシトルリン尿症(hyperornithinemia,hyperammonemia and homo­citrullinemia:HHH)症候群:
オルニチンとシトルリンを交換に輸送するオルニチン輸送体の欠損は,高オルニチン血症,高アンモニア血症,およびホモシトルリン尿症を呈する(HHH症候群).オルニチンがミトコンドリア内へ輸送されないことより,高オルニチン血症と尿素サイクルの破綻をきたす.また,ホモシトルリンはミトコンドリア内でカルバミルリン酸塩とリシンが反応して生成される.高アンモニア血症の症状は生後すぐに現れるか,成人期まで発現が遅れることもある.
4)シトリン欠損症(citrin defi­ciency)(図13-3-14):
シトリン欠損症はアジアに多くみられ,わが国では2万人に1人とされている.新生児期には,シトルリンを含む多アミノ酸血症(血清スレオニン,チロシン,メチオニン,フェニルアラニンなどの上昇),ガラクトース血症,遷延性黄疸,低蛋白血症,低血糖などの多彩な症状を呈する一種の新生児肝炎(neonatal intrahepatic cholestasis caused by citrin deficiency:NICCD)を起こす.新生児スクリーニングで検出されない患者も多く,黄疸,成長障害などを示す.肝不全を発症することもあるが,大部分の患者では,これらの症状は6カ月から1年以内にほぼ消失する.十数年ないし数十年の無症状期を経て,約1/5の患者が成人期(10歳~70歳代)に,失見当識,譫妄状態,痙攣,意識障害などを主症状とする成人発症Ⅱ型シトルリン血症(CTLN2)を引き起こす.
 シトリンは,ミトコンドリア内膜のアスパラギン酸・グルタミン酸輸送体(AGC)であり,アスパラギン酸はミトコンドリアで合成され,シトリンを介して細胞質に輸送される.そのため,シトリン欠損症では細胞質のアスパラギン酸が欠乏することによって尿素回路の破綻をきたす.そのほかにも図13-3-14に示すように,オキサロ酢酸の低下より糖新生の障害,またNADHの蓄積により解糖系にも機能不全を起こす. 食習慣に特徴があり,幼小児期より成人期に至るまで,糖質とアルコールを嫌い,脂質や蛋白質を好む(Sahekiら,2006).食事治療としては,低炭水化物食,アルギニン製剤,ピルビン酸ナトリウム製剤の投与が行われている.過剰の糖質摂取・投与によって細胞質のNADHが上昇し,尿素回路の破綻をきたし,高アンモニア血症となる.入院治療の際に,グリセロールの投与,高糖濃度の輸液などは,細胞質のNADH蓄積をさらに助長し,死亡に至ることもあるので,本疾患では禁忌である.高度な肝障害に対しては肝移植が有効である.移植後は食趣向も変化する.
5)リジン尿性蛋白不耐症:
小腸上皮細胞および腎尿細管に存在する塩基性アミノ酸(リジン,オルニチン,アルギニン)輸送体の異常によって起こる.小腸からこれらアミノ酸の吸収が障害され,腎臓からの排泄が増加するため,塩基性アミノ酸の血中濃度は低下する.尿素回路に必要なアミノ酸が低下するため高アンモニア血症を呈する.臨床症状としては,摂食拒否,嘔吐,下痢などがみられ,このため成長障害,骨粗鬆症などを伴う.
(4)有機酸血症(organic acidemia)(図13-3-15)
 分岐鎖アミノ酸(イソロイシン,ロイシン,バリン)は必須アミノ酸で,経口摂取量の75%が蛋白合成に利用される.余剰の分岐鎖アミノ酸は分解され,TCA回路に入ってエネルギーを産生する.有機酸血症とは,アミノ酸,糖質,脂質の代謝過程の異常のため,有機酸やその誘導体が体内に蓄積する疾患の総称である.有機酸の蓄積による代謝性アシドーシスを主症状とする.個々の有機酸血症の症例数は少ないが,種類が多いので,全体としての頻度は1万人に1人以上といわれる.ここでは代表例のメープルシロップ尿症(maple syrup urine disease)について述べる.定義・概念 分枝鎖α-ケト酸脱水素酵素(branched chain α-ketoacid dehydrogenase:BCKD)の異常により,血中ロイシンの上昇と,尿中の有機酸(分岐鎖α-ケト酸,分岐鎖α-ヒドロキシ酸)が増加する.有機酸の蓄積により,高度な代謝性アシドーシスを示し,乳児期より,哺乳力低下,意識障害,痙攣,後弓反張位,無呼吸などを呈する.また,尿や汗などが,特有の臭気(メープルシロップ様)を呈する.病態生理 BCKDは酵素複合体でミトコンドリア内膜に存在し,E1(脱水素酵素;E1α,E1β),E2(リポイルトランスアセチラーゼ),E3(ジヒドロリポイル脱水素酵素)と,キナーゼ,ホスファターゼ(活性化ビタミンB1)の6つの蛋白から成り立っている.複合体の欠損によって,分枝鎖α-ケト酸が分枝鎖アシルCoAに代謝されずに蓄積する.
 古典型のメープルシロップ病はアメリカのメノー派とよばれる宗教団体で高頻度にみられ,E1αサブユニット遺伝子における変異(Try393Asp)のホモ接合体である.しかしながら,本疾患においては,BCKDが複合体を形成するため,各サブユニットを構成する遺伝子上多くの種類の変異が報告されている.発症頻度は全世界的には18.5万人に1人であるが,わが国では約67万人に1人と少ない.
 発症時期と重症度によって,古典型,間欠型,中間型,チアミン反応型,E3欠損症などがある.古典型は,E1α,E1β,E2の変異でみられ,酵素活性が高度に障害(2%未満)されている.間欠型(E2の変異)は,比較的酵素活性が保たれており,初期の発達は正常であるが,感染症などを契機に発症する.チアミン反応型はチアミンの薬用量の投与により改善する.中間型では,酵素複合体の活性が3~30%で,初期の成長には異常がなく,臨床的にも健康であるが,蛋白質を含む食品を食べると発症する.鑑別診断 新生児スクリーニング時,血漿のロイシンの値が4 mg/dL以上はすぐに精査を行う.ただし,間欠型やチアミン反応型ではこの値より低値を示すことがある.診断には血漿アミノ酸分析における分岐鎖アミノ酸の増加と,尿中有機酸分析における分岐鎖α-ケト酸,分岐鎖α-ヒドロキシ酸の増加などの所見により可能である.遺伝子解析を行うには,BCKDを構成するすべての酵素の変異を検討する必要があり,また,日本人に頻度の高い特有の変異は検出されていないため,一般的には行われていない.
治療
 分枝鎖アミノ酸はほとんどの蛋白質に含まれているので,分枝鎖アミノ酸除去ミルク,医療用食品を利用し,低蛋白食とし,エネルギーを十分に投与する.目標は,乳児が正常な成長が行えるようにし,また,神経毒である分岐鎖ケト酸の蓄積を防ぐことである.[中屋 豊]
■文献
Behrman RE eds: Nelson Textbook of Pediatirics, 17th ed, pp. 397-398, 2396-2427, Elsevier, 2006.
Saheki T, Kobayashi K, et al: Reduced carbohydrate intake in citrin-deficient subjects. J Inherit Metab Dis, 31: 386-394, 2006.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報