低身長症(読み)ていしんちょうしょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「低身長症」の意味・わかりやすい解説

低身長症
ていしんちょうしょう

病的原因によって身長の伸びが悪く、同性同年齢平均身長の標準偏差の2倍より低い場合をいう。現在治療可能な低身長症としては、成長ホルモン分泌不全性低身長症、甲状腺(こうじょうせん)性低身長症、ターナー症候群、軟骨異栄養症、思春期早発症、精神社会的低身長症、栄養や代謝障害による低身長症などがあげられる。

 成長ホルモン分泌不全性低身長症は、視床下部ないし下垂体の器質的障害によって成長ホルモンの分泌が低下あるいは欠如した場合におこる。外観上は頭、胴、手足など、均整がとれている低身長症である。成長ホルモンの分泌低下の程度は、諸種の分泌刺激試験を行って判定する。さらに手根骨の放射線写真によって骨年齢が遅延しているかどうかを調べる。治療としては、視床下部ないし下垂体付近の腫瘍(しゅよう)による場合は、手術あるいは放射線療法を行う。腫瘍以外の原因による特発性のものは成長ホルモン分泌不全性低身長症の85%を占めているが、この場合の治療は、ヒト成長ホルモンの投与と、これに引き続いて性ホルモンの投与を行う。早期から治療を行えば、成人になって正常身長になりうる。

 甲状腺性低身長症は、甲状腺ホルモンの分泌低下によっておこる。症状は皮膚が乾燥し、活動力が鈍く、顔がむくんだようにみえる。治療は甲状腺ホルモンを投与すればよいが、遅れると知能低下を残す。現在、新生児マススクリーニングで血液中の甲状腺ホルモンを測定して早期発見することが実施されているので、先天性の甲状腺機能低下症は将来少なくなると思われる。

 ターナー症候群性染色体異常によるものであるが、低身長症のほかに種々の身体的異常を示す。低身長症に対してヒト成長ホルモン治療が認められ、平均身長は未治療時137センチメートルから143センチメートルへと約6センチメートルの増加が確認されている。

 軟骨異栄養症は遺伝子異常による骨形成不全を呈する。この疾患にもヒト成長ホルモン療法が認められているが、この治療だけでは社会生活を順調に行う身長に達することはむずかしい。最近「脚延長術」の成果が報告され、この手術により約10センチメートルの身長増加が期待されるといわれている。

 思春期早発症による低身長は、早期発見・早期治療により良好な成人身長が得られる。

 精神社会的低身長症は、別名愛情遮断性低身長症ともよばれる。保護者、とくに母親との精神的関係が著しく悪く、この状態がある期間続くと、成長が障害されて低身長症となる。治療は、精神的改善を図るような方法をとることによって成長が促進される。

 栄養障害、あるいは糖尿病、糖原病尿崩症バーター症候群などによる代謝障害が原因の低身長症の場合は、それぞれの病態を改善することによって成長が促進される。また、アレルギー疾患などで副腎(ふくじん)皮質ホルモンを子供に過剰に投与すると、成長が障害されて低身長症となるので、投与量は少なめにすることがたいせつである。そのほか原因不明の家族性低身長症、症候群でよばれる低身長症もあるが、現在では治療法がない。

[高野加寿恵]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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