人工言語(読み)ジンコウゲンゴ(英語表記)artificial language

デジタル大辞泉 「人工言語」の意味・読み・例文・類語

じんこう‐げんご【人工言語】

自然言語に対し、国際語を目ざして意図的、人工的に作られた言語。エスペラントの類。⇔自然言語
形式言語

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精選版 日本国語大辞典 「人工言語」の意味・読み・例文・類語

じんこう‐げんご【人工言語】

〘名〙 人間がある目的のために作り上げた言語。
(イ) 自然に発生した言語に対して、国際共通語を目ざして意図的に作られた言語。エスペラントの類。国際語。国際補助語
(ロ) コンピュータ用のプログラムを作成するための言語。

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改訂新版 世界大百科事典 「人工言語」の意味・わかりやすい解説

人工言語 (じんこうげんご)
artificial language

各民族が伝統的に使用する既成言語(自然言語)に対し,新たな構想の下で人工的に創出される言語の総称。暗号術のような特殊な通信手段というよりも,思想や真理探究の方法にまで深くかかわった一種の文化改革であり,17世紀ヨーロッパにおいて本格的にその創造が開始された。この時期に人工言語が注目を浴びた背景には,(1)政治・宗教を巡る各国の抗争により,共通語として存続しえなくなったラテン語に代わる〈国際語universal language〉の必要性と,(2)あいまい性や非論理性を一掃しえない自然言語に代わり,哲学や科学の発展に寄与しうる論理的で精密な〈哲学的言語philosophical language〉の確立が叫ばれるに至った,ヨーロッパ文化全般の自閉的状況がある。

1629年,学問国際交流により知の革新と活性化をめざしたデカルト,メルセンヌらは,記号・音韻・意味の結び付きがきわめて恣意的である既成言語を批判し,数字のように精密に概念を表現できる哲学的言語の創出を提案した。これに呼応してコメニウスは,中世以来の言語教育が〈単に言葉を暗記させるだけで事物や概念の本質を学ばせていない〉点を改善する抜本策を人工言語に求め,この運動に参加した。一方イギリスでは,F.ベーコンが記号と意味の緊密な結合を示す漢字に着目し,次いでJ.ウィルキンズは〈漢字のように文字自体がその概念を表現しうる記号体系=真の文字real character〉を考案,詳細を極めた人工言語案《真の文字と哲学的言語についてのエッセー》(1668)を公にした。当時発足したローヤル・ソサエティも,この提案を支援した。またA.キルヒャーは暗号術とルルスの〈要約術〉を基礎として,異言語の交流を可能にする〈新複式記述法〉を提案した(1663)。ライプニッツも数学における数字をモデルに,〈組合せに応じて新たな真理が自動的に表現されうる〉記号論理学的な人工言語の創造を夢見た。彼はその過程で,0と1だけで全数字を表現できる二進法の卓越性を確信したが,今日のコンピューター言語は二進法による人工言語システムの成功例ともいえよう。さらに哲学的言語の提案としてはシュライヤーJohann Martin Schleyer(1831-1912)による〈ボラピュクVolapük〉(1878)があり,〈真の文字〉にアルファベットを流用するなど斬新なアイデアが盛られた。

 以上述べた例はいずれも既成言語から出発しない新しい提案だったため,一般に〈先験語a priori language〉と呼ばれ,自然言語を改良したエスペラントなどの〈後験語a posteriori language〉とは区別される。人工言語案のうち後験語の比重が重くなるのは19世紀以後で,とっぴな着想よりも修得の容易さを優先させた〈ラテン語改良案〉の類が多数現れだした。かつての国際語を学びやすい形に改良し復活させようとする動きは,フェーゲ・ド・ビルヌーブJoachim Faiguet de Villeneuve(1703-80)による冠詞を持たない新ラテン語〈新言語Langue nouvelle〉など,フランス革命と連動して目だちはじめた。しかし最大の成果は数学者ペアノの創造になる〈インテルリングアInterlingua〉(1903)で,20世紀初頭にはエスペラントと並ぶ人工言語へと発展した。

人工言語案はニュートンやボイルなど科学者にも支持され,やがて学術用語や記号の統一という成果を見たが,他方では自国語の純化をめざす各国の文学者や言語学者の指弾を浴び,たとえばJ.スウィフトは《ガリバー旅行記》で人工言語案の愚かさをしんらつに風刺した。また後験語案においても,ラテン語の修正に否定的な教会や古典学者の抵抗が激しく,19世紀にはソシュールはじめ言語学者がそろってこの問題を固有の研究対象から除外したため,20世紀以後は急速に衰えざるをえなかった。事実,大多数の人工言語は一種の学術専門用語の色彩が強く,修得が困難なうえ,喜怒哀楽など日常の微妙な表現法については無関心であった。しかし,先験語案が提示した言語改革の方向は現在の記号論理学,学名ほかの学術用語の統一に多大の貢献をなし,言語学的にはチョムスキーらにも影響を与えた。後験語案も国際補助語やベーシック・イングリッシュの成立を促し,国際交流における言語的障害の克服に力を貸している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「人工言語」の意味・わかりやすい解説

人工言語
じんこうげんご
artificial language

日本語や英語のように、自然に発生し、昔から話され使われてきたことばを「自然言語」といい、これに対し、特定の個人ないしグループが意識的につくったことばを「人工言語」という。エスペラントのように国際語であることを目ざしてつくられたことばは人工言語の例になるが、このようなことばはほかにも何種類もある。また、論理記号の体系も、かなり昔から構想され、19世紀末から20世紀にかけて実現した人工言語の例である。さらに最近では、コンピュータを操作するためのさまざまな機械語、プログラミング用高級言語が開発されているが、これも人工言語の例になる。

 哲学的には、「自然言語に即して問題の記述、分析を行うと議論が不正確になるので、哲学用に人工言語をつくらなくてはならない」と主張する哲学者がいて、彼らは人工言語学派に属するといわれる。ライプニッツにすでにこの主張に類する考え方があるが、ラッセルが、論理記号の体系をこの哲学用の人工言語だとして、この主張を熱心に唱えたので有名である。なかには、現実にはまだできあがっていない、理想のなかの人工言語を想定して議論を行う哲学者もいる。1930年代の論理実証主義者によるやや性急な人工言語の取り込みを批判して、50年代以降、自然言語による記述だけを用いようとする日常言語学派が、イギリスやアメリカにおこった。しかし数学や科学などで新しくつくった記号を多く用いるのは、人工言語を用いないと話が通じにくい局面があるという事実を、少なくとも部分的に裏書きしているといえよう。

[吉田夏彦]

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「人工言語」の解説

人工言語

コンピューターでの使用を目的に、人工的に開発された言語。プログラミング言語やマークアップ言語などがそれにあたる。

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世界大百科事典(旧版)内の人工言語の言及

【イェスペルセン】より

…彼は記述主導型の伝統的言語学から,理論主導型の新言語学へと移る過渡期の橋渡しをした学者で,その理論は特に《統語論――理論と分析Analytic Syntax》(1937)で展開されている。なお,1928年にはノビアルNovialと呼ぶ人工言語を考案し,新しい国際語(国際共通語)として提唱している。【三宅 鴻】。…

【プログラミング言語】より

…プログラミング言語とは,プログラムを記述するための言語である。より厳密には,人間がコンピューターに情報を伝えること,および伝える内容を記録したり人間が検討することを目的として設計した人工言語をコンピューター言語と呼び,その中でもプログラムを記述することを目的とする言語をプログラミング言語と呼ぶ。プログラミング言語の構文は形式言語に基づいて定義されることが多い。…

【論理学】より

…それゆえ,論理学を構築する手がかりとして日本語を選ぼうと,ギリシア語を選ぼうと,あるいは数学の言語を選ぼうと,結果はすべて同じことになる。そこで論理学者は,論理構造の最も読みとりやすい一種の人工言語を考案し,この人工言語の特性を調べる,という方法を採用する。もちろんそこでは,人間の知識がこの人工言語で完全に表現されるにちがいない,ということが前提されているのである。…

※「人工言語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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