国際交流(読み)こくさいこうりゅう

大学事典 「国際交流」の解説

国際交流
こくさいこうりゅう

[大学間]

大学間国際交流の国際交流は,典型的には機関(全学)または部局単位で交流協定を締結して,その枠組みの下で交流活動を行うものである。協定の多くは2大学間で締結されるが,「エラスムス・ムンドゥス」で見られるように,3大学以上の間でコンソーシアムをつくって締結する場合もある。これらの協定に基づいて行われる活動には,学生・教職員の相互派遣・受入れ,ベンチマーキング,共同でのカリキュラムプログラムの開発,セミナーや会合の開催,共同研究等が含まれる。

 文部科学省は,大学における教育内容等の改革状況調査において,外国の大学と締結している大学間交流協定について調査を行っている。協定数は近年急速に増加しており,2007年に1万2840件(国立5407,公立519,私立6914)であったものが,11年には1万9102件(国立7847,公立1000,私立1万255)に達した。また,機関間の国際交流推進・支援および留学生獲得等を目的として,海外拠点を設ける大学が増えている。その数は,2007年に227(国立133,公立6,私立88)であったが,11年には431(国立288,公立1,私立142)にほぼ倍増した。協定締結相手国・拠点設置国は特定の国に偏っており,いずれも最上位は中国で,それぞれ3865協定(全体の20%),119拠点(同28%)を占める。中国に続く4国(協定についてはアメリカ,韓国,台湾,イギリス,拠点についてはタイ,アメリカ,ヴェトナム,韓国)と合わせると,それぞれ上位5国の占める比率は55%,58%に達する。

 こうした協定・拠点拡大の背景には,世界的な高等教育国際化の進展,グローバル化への対応の要請,留学生30万人計画の策定,キャンパス・アジアの取組みの開始,文部科学省の大学国際化支援事業の拡大等があるものと考えられる。大学間交流は国の政策において従来から推進が求められており,2000年の大学審議会答申「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」は,アジア太平洋大学交流機構(UMAP)の活動支援,単位相互認定の推進,コンソーシアム方式の連携・交流の促進等を求めていた。文部科学省の国際化支援は2008年に20億円であったが,14年にはスーパーグローバル大学創成支援を含んで127億円に達した。

 文部科学省が近年推進している活動の一つは,外国大学との単位互換やダブル・ディグリー制度の導入である。2012年度現在,国外大学等と交流協定に基づく単位互換制度(日本)を実施している大学は356大学(国立69,公立38,私立249)で全体の46.4%を占める。また,同年度において国外大学等との交流協定に基づくダブル・ディグリー制度(日本)を導入している大学数は140大学(国立41,公立7,私立92)で,全体の18.3%である。ダブル・ディグリー制度の導入は少ないが,2006年度に導入していた大学は37大学(全体の5.0%)であり,それと比較すれば4倍近く拡大している。2014年には新たに国際連携学科・専攻の制度が設けられ,共同で単一のプログラムを開設するジョイント・ディグリー制度(日本)が可能となった。

 前述のように,近年,大学間協定は大幅に増えてきたが,協定を締結しても実際に大学が行い得る活動には限りがあり,多くの協定は活用されていない。このため,より明瞭な目的とそれに対応した成果を伴う戦略的な連携が求められる。近年の傾向としてネットワークの開発があるが,ネットワークは協定よりも目的・戦略が明瞭に定められているものの,その機能の複雑さゆえに維持が難しいと言われる。大学間国際交流を推進するには,協定等に基づいた枠組み設定は有効な方策であるが,派遣学生の学費の相互免除等といった経費の取扱い,修得単位・学位の帰国後の認証,学内での受入れ体制や支援組織の整備等数多くの課題がある。また各機関の取組みを支援するため,地域における単位互換制度の整備等が期待される。
著者: 大場淳

[研究]

[日本の国際研究交流] 日本では2016年現在,世界47ヵ国・機関と科学技術協力協定(日本)等を結んで,相互の国際研究交流を進めている。たとえば経済協力開発機構(OECD)との間では,その科学技術政策委員会(CSTP),情報・コンピュータおよび通信政策委員会(ICCP),産業・イノベーション・起業委員会(CIIE),農業委員会(AGR),環境政策委員会(EPOC),原子力機関(NEA),国際エネルギー機関(IEA)等を通じて人材の交流などを進めている。また1987年のヴェネチアサミットで日本が提唱した国際的な研究助成プログラムとして,ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)がある。HFSPは,生体の持つ複雑な機能の解明のための基礎的な国際協同研究などを推進することを目的としたもので,英・米・独・仏などの主要国,EU(欧州連合),アジアの新興国等15ヵ国・機関との間で積極的な研究交流が行われている。

 そのほか大規模な国際協力プロジェクトとしては,ITER(国際熱核融合実験炉),国際宇宙ステーション(ISS)計画,国際深海科学掘削計画(IODP)大型ハドロン衝突型加速器(LHC)計画,国際リニアコライダー(ILC)計画などに参加し,国際交流・協力の体制が組まれている。

[EUが推進する研究交流] 現在EUでは,研究・イノベーションの枠組み計画である「ホライズン2020(EU)」が実施されている。EUは1984年から多年次資金助成プログラムである「研究・技術開発枠組み計画(EU)(Framework Programme: FP)」を開始し,2013年まで7次にわたって研究・イノベーションを推進してきた。「ホライズン2020」はこれを引き継ぐもので,2014~20年の7年間で総額800億ユーロの支出が見込まれている。「卓越した科学」「産業リーダーシップ」「社会的課題」の三つの柱から構成され,これには日本も含む世界各国の研究者が参加でき,そのなかで国際的な研究交流の場が提供されている。またヨーロッパを,世界に開かれた,研究者・知識・技術の移動の自由を確保する研究を行う場として統合する「欧州研究領域(European Research Area: ERA)」のイニシアティブも進められている。

 EU全体としての包括的な経済・社会成長戦略としては「欧州2020(Europe 2020)」が開始されている。これは「知的な経済成長」「持続可能な経済成長」「包括的経済成長」を目標としたものである。この枠組みの中でも,積極的な国際的研究交流は必要不可欠なものとされている。このほか,キュリー夫人の名前を冠した研究者育成制度であるマリー・スクウォドフスカ=キュリー・アクションズ(MSCA)による研究者交流(モビリティ),優秀なトップレベルの研究者に資金が提供される欧州研究会議(ERC)の助成などの取組みの中で,EU域内だけでなく世界各国との研究面での国際交流も行われている。学生,教員の交流を支援することを目的とする「エラスムス・プラス(Erasmus+)」にも,世界各国から応募することができる。
著者: 木戸裕

[教職員]

教職員の国際交流は研究者交流と職員交流に分けられる。

[研究者交流] 大学において教育・研究業務を担当するために雇用されている大学教員や研究者,ポストドクター(ポスドク)等による国際交流を指す。これまで研究目的の交流が多かったため,大学教員交流ではなく,研究者交流(researcher mobility,mobility of the highly skilled)と呼ばれることが国際的に多かった。しかし近年は人材育成重視の観点から,渡航先で教育活動を行ったり,教育連携プログラムのもと教員交流を行ったりすることも増えている。

 研究者交流は渡航した研究者の学術に資するのみならず,受入れ国にとっても多様な影響を与え,国境を越えた知識やノウハウの伝播が期待される。中世から学者や学生は自分の関心のある図書や学術,博識者を求めて,複数国の大学から大学へと渡り歩き,その過程で多くの知識が国境を越えて伝播した。現代において研究者は特定の大学に所属するのが一般的であるが,知識やノウハウを求めて,また共同研究などを行う目的で,他国の大学に短期・長期に一時滞在するようになっている。

 一般的には先進国が受入れ国となり,中進国や開発途上国が派遣国となるため,後者からみた研究者交流は「頭脳流出」として問題視されることが多い。しかし,先進国滞在期間中の仕送りは母国の重要な収入源であり,かつ先進国で研鑽を積んだ研究者が帰国したときには母国の発展にも大きく資するという見方もある。先進国にとって研究者交流は近年,とくに科学・技術分野において,国際競争力につながると考えられており,各国において著名研究者等を招聘するための助成プログラムがあることが多い。経済協力開発機構(OECD)では2008~09年にかけて,高度人材モビリティやその獲得に関わる報告書2編をまとめた。科学技術人材(HRST)に特化した統計もとられるようになっているが,各国とも研究者交流は十分に捕捉できていないことが課題となっている。

 近年はバーチャル・モビリティという言葉も生まれている。これは電子会議やテレビ会議システム等を通じた合同セミナー,e-ニューズレターやチャット,バーチャル・ラボなどインターネットを介して交流することを指し,物理的な移動より簡便で効果的とされる。今後ますます拡大し,研究者交流は統計としてさらに捕捉されづらくなるだろう。なお日本における研究者交流は受入れ・派遣ともに拡大傾向にあるが,短期が拡大し,中・長期が頭打ち,もしくは減少となっている。地域別に見るとアジアからの受入れが最も多く,欧州,北米地域がこれに続く。派遣については,2004(平成16)年度あたりからアジア地域への渡航が最多となり,欧州,北米地域がこれに続いている。ただし国別にみると,アメリカへの派遣が短期・長期ともに最多である(2013年度統計)

[職員交流] 大学運営や事務等を中心業務とする職員による国際交流を指す。おもに人事交流として実現し,双方の組織運営を学ぶために交流が行われることが多い。統計が取られていない場合が多く,各国とも実態の把握は難しい。財源も各大学依存のことが多いため,大規模研究型大学において機会が多いと言われている。ただしEUでは,職員交流についても「エラスムス・プラス(Erasmus+)」計画で助成されている。職員交流は伝わることの少ない大学運営が学外に拡がる優れた機会であるが,交流をした職員のみに知見が蓄積し,これが勤務校の組織改革等につながらないことも課題とされている。
著者: 船守美穂

[学生]

[歴史の概観] 大学はもともと学生の「国際交流」から始まっている。12世紀末ごろにヨーロッパ各地からボローニャに集った学生たちは,出身地ごとにナチオ(ネーション=国民団)を作って結束し,それらの合議体としてのウニヴェルシタスを成立させた。そこでは大学のあり方をめぐって,「ナチオ」の枠を越えた議論がなされていたはずである。だが大学がヨーロッパ各地に創られ,それぞれの国の君主や領主の支配のもとに置かれるようになると,学生の国際的な移動はむしろ制限されることになる。国外で得た学位は,国内では通用しないということにもなる。18世紀には,貴族の子息が教育の最後の仕上げに行うグランド・ツアーのようなものを除いて,学生が外国に留学あるいは遊学することはまれになる。

 19世紀前半のプロイセンに成立した近代の大学も,ナショナルな枠組みのなかで教養あるエリートを育てるものに変わりはなかった。しかし普遍的な真理や正義の探究によって専門職を養成するというその理念は,やがて世界から注目されることになる。19世紀後半には,ドイツをはじめとする先進国の大学および高等教育機関に,開発途上国や植民地からの留学生が集まるようになる。しかし,とりわけ日本のように,西欧から離れたところで「近代化」を急いだ国からの留学生には,「コンプレックス(日本)」があったと言われる。「コンプレックスは,外に出てはただ取ることのみを考えてスパイのように見られがちな留学生を生み,内にあっては,日本に学びに来るのはこちらより遅れているからだと,留学生を見下す傾向を生じ,国際交流の大事な意義であるべき国際理解にマイナスの影響を与えることさえ珍しくなかった」(前田陽一,1967)

 とはいえ大学が世界に向かって開かれ,その内部で学生が国際的に交流しうるものとなったことは事実である。周縁でも,私的な留学や亡命などによって外国で学ぼうとする者が現れている。1870年代のベルギーでは,学生全体の4分の1を外国人学生が占めている。またスイスでは,大学近代化のための費用を留学生の受入れによって捻出したこともあって,ジュネーブ大学の外国人学生の割合は1880年に44%,1910年には80%に達している。

グローバリゼーションのなかでの変容] 一国の国際化にとって必要なものが,世界に向かって開かれた知性と自由な精神であることは,大学が大衆化した現在においても変わらない。しかし留学生の数が1990年以降に急増するなか(2010年までの20年間に約4倍となっている),学生の国際交流も様変わりしている。

 EU(欧州連合)は1987年から「エラスムス・プログラム(EU)」による学生の留学支援を始め,2013年度には27万2497人の学生を留学させている。1999年からはボローニャ・プロセス(EU)によって学位や単位互換のシステムを整備し,学生の移動を促進している。さらに2004年からは世界のすべての国に開かれた「エラスムス・ムンドゥス」も始めている。日本政府も2008年には,受け入れる外国人留学生を20年までに倍増する計画(留学生30万人計画),そして2013年には,20年までに大学生の海外留学を12万人,高校生のそれを6万人へとそれぞれ倍増する計画(「トビタテ!留学JAPAN」)を発表した。留学生の急増には留学の早期化と短期化という現象がともなっている。2014年度に日本から海外に留学した学生は8万1219人であるが,そのなかで1年以上留学する者は1650人にすぎず,1ヵ月未満の留学が半数以上(4万8853人)を占めている。海外の大学と協定を結び,短期の留学を学士課程のカリキュラムに取り入れる学部や大学が増えている。

 英語が世界の公用語とみなされ,アジアからの多くの留学生がみずからのキャリアアップのために留学を志すなか,その受入れを収益事業化するオーストラリアやニュージーランドのような国も現れている。「世界各国の経済が結びつきを強め,大学へと進学する者の割合が増えるにともない,高等教育を外国で受けようとすることは,学生の視野を広げ,彼らに外国語を学ばせ,世界における商業活動の文化と実践をよりよく理解させるための一つの手段となっている。(中略)留学もそういった高等教育の国際化の多様な様相の一つである。それは学生や政治家たちの多くの関心を惹きよせている」(OECD,2016)

 いまや学生にとって留学は,グローバル化した労働市場での就職可能性を広げる手段であるかのようである。しかしそのなかで留学生の「コンプレックス」は,消滅するどころかむしろ経済的に構造化されている。「留学における双方向性がきわめて少ない。結果として,相手大学が授業料収入を目的に設置するコース,あるいは語学コースに短期間,在学することをもって短期留学としているケースが極めて多い」(金子元久,2014)。たしかにアメリカ合衆国に1年間留学するには,国内の大学に支払う学費のほかに300万円ほどの旅費や滞在費がかかる。留学できるのは裕福な親をもつ学生か,アルバイトのために学業がおろそかになった学生に限られる。

 学生の国際交流は,人間が互いに共感しうる感性と,互いの理解しがたさへの謙虚さを共有しうるチャンスである。「たとえ国家が自国の利益のために留学を考えても,立案者の意図とは別に良い意味での国際理解に貢献することはありうる。交流の対象となった学生が,実際にそれぞれの社会で活動し始めるのは数年先である。ことに指導的地位に立つのは遥か先のことである。その時の行動は,当人のその時の自主的判断に基づいて行われる」(前田陽一,1967)。いずれにしても学生は,それぞれの経験のなかで「自主的判断」ができる人間へと成長してゆかねばならない。
著者: 岡山茂

[大学間]◎Knight, J., ”Internationalization Remodeled: Definition, Approaches, and Rationales”, Journal of Studies in International Education, 8(1), 2004.

[研究]◎駐日欧州連合代表部「日・EU科学技術関係」:http://www. euinjapan. jp/relations/science-research/

参考文献: 文部科学省『平成26年度 文部科学白書』:http://www. mext. go. jp/b_menu/hakusho/html/hpab201501/1361011. htm

[教職員]◎文部科学省「国際研究交流の概況(平成25年度)」:http://www. mext. go. jp/a_menu/kagaku/kokusai/kouryu/

参考文献: OECD, International Mobility of the Highly Skilled, 2009.

参考文献: OECD, The Global Competition for Talent: Mobility of the Highly Skilled, 2008.

参考文献: 日本能率協会『大学職員ナレッッジ・スタンダード―大学業務知識編Ⅲ』,2011.

[学生]◎前田陽一「学生の国際交流の意義」『厚生補導』17号,1967.

参考文献: 金子元久「留学の新段階」『IDE』2014年2-3月号.

参考文献: 日本学生支援機構「平成27年度外国人留学生在籍状況調査等について」:http://www. mext. go. jp/a_menu/koutou/ryugaku/_icsFiles/afieldfile/2016/04/08/1345878_1. pdf

参考文献: OCDE, Regards sur l'éducation 2016- Les indcateurs de l'OCDE.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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