交通政策基本法(読み)こうつうせいさくきほんほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「交通政策基本法」の意味・わかりやすい解説

交通政策基本法
こうつうせいさくきほんほう

鉄道、バス、自動車、航空機など公共交通の整備・維持に関する基本理念をまとめた法律。平成25年法律第92号。2013年(平成25)に成立し施行された。過疎や少子高齢化が進む地方での暮らしの足の確保、巨大災害に備えた耐震強化、老朽設備の改修、代替ルートの確保、国際競争力を高める空港・港湾機能の充実、弱者が移動しやすいバリアフリー化、環境負荷の低減などを基本理念に明記。国、地方自治体、事業者の責務、および国民の役割を明確にし、街づくりや観光振興策と連携しながら、交通体系を一体的に整備するねらいがある。2020年(令和2)の改正では、本格的な人口減少、国土強靭(きょうじん)化、感染症流行を踏まえ、高速交通網など公共交通機能を衛生面を含め安全に維持するため、国が支援することを明記した。政府は同法に基づいて交通政策基本計画(2015年に第一次、2021年に第二次)を策定し、道路運送法(昭和26年法律第183号)、地域公共交通活性化法(平成19年法律第59号)など個別法制を整備してコンパクトシティ形成アジア・ゲートウェイ構想などの具体策に取り組んでいる。政府は進捗(しんちょく)度合いを毎年国会に報告し、交通政策課題などをまとめた白書閣議決定するよう定めている。

 日本の交通法制は、鉄道事業法(昭和61年法律第92号)、道路運送法、航空法(昭和27年法律第231号)など個別事業者向け業法を中心に整備されてきた。このため民主党(当時)が中心となり、だれもが自由・安全に移動できる「移動権」を盛り込んだフランス国内交通基本法を参考に、基本法整備を目ざしたが、2002年、2006年、2011年にいずれも廃案となった。しかし2011年の東日本大震災後、防災地域振興につながる基本法が必要との機運が盛り上がり、交通政策基本法が制定された。なお同法には、訴訟が乱発されるとの懸念から移動権は盛り込まれなかったが、「日常生活に必要な交通手段の確保」との文言が明記されている。

[矢野 武 2021年5月21日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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