与圧胴体(読み)よあつどうたい

改訂新版 世界大百科事典 「与圧胴体」の意味・わかりやすい解説

与圧胴体 (よあつどうたい)

大気高空へいくほど気圧が低くなるので,航空機に乗って飛ぶ場合,そのままでは高度3000m以上になると酸素の不足で人間の能力が低下する。また人間は急な気圧の変化にも弱い。そこで現在の航空機は,軽飛行機のうちの簡単なものやヘリコプターを除くほとんどが,高空を飛行中は,室内の気圧を外の大気圧より上げて低高度の気圧に保つようにしている。これを与圧といい,与圧する部分を与圧室pressurized cabinと呼ぶ。輸送機などは胴体のほぼ全部を与圧室とする必要があるので,胴体そのものを気密構造の与圧胴体とし,横断面は内外の圧力差に耐えるのに有利な円形または円弧を組み合わせた形が多い。与圧室の実用化は1940年代で,それまで高度3000m以上の飛行には酸素マスクを必要としたが,与圧室の実用により風雨の多い低高度を避けた雲上飛行も容易となり,また,もっとも経済的な高度での飛行が可能になった。ジェット輸送機の場合,経済的な巡航高度は1万~1万2000m程度だが,このとき室内は高度0~2400mに相当する気圧に調節しており,与圧胴体には内外の圧力差によって1m2当り5~6tの力が加わる。世界初の実用ジェット輸送機として登場したコメットの墜落事故は,この力による与圧胴体の破裂によるものであり,その後,与圧胴体は飛行ごとの圧力差に耐える疲れ強さとともに,もし破損してもその拡大をおさえるフェイルセーフ性や損傷許容性をもたせた設計となった。与圧を行うのには,ふつうエンジン圧縮機で圧縮した空気の一部を,空調装置で温度を調節してから与圧室に送り込む。室内を通った空気は与圧室の一端バルブから機外に排出し,このバルブの開きを加減して室内の気圧を調節する。なお,飛行中に窓が破損したため,内外の気圧差によって人間が機外に吸い出されるという事故が起こったこともある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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