ユズリハ(英語表記)Daphniphyllum macropodum Miq.

改訂新版 世界大百科事典 「ユズリハ」の意味・わかりやすい解説

ユズリハ
Daphniphyllum macropodum Miq.

暖温帯の山地に生育するユズリハ科の常緑高木。本州中南部~沖縄,朝鮮,中国,台湾に分布する。高さ10mになる。北海道~本州北部の日本海側の多雪地方には,矮性(わいせい)で高さ1.5m以下のエゾユズリハvar.humileMaxim.)Rosenth.がみられる。葉は枝先に叢生(そうせい)し,狭長楕円形で鋸歯はなく,葉身の長さ10~20cm。質は厚く,表は光沢のある深緑色を呈し,裏は粉白色。長い葉柄は通常,赤色を帯びる。葉の寿命は2年余。初夏に新葉が開くと,一年葉,二年葉とともに階をなし,二年葉は夏~秋に落葉する。雌雄異株。5~6月ころ,一年葉の葉腋(ようえき)に長さ5cmほどの総状花序をつける。花は黄緑色で花被がなく,雄花は約10本のおしべ,雌花は1本のめしべと数本の退化したおしべからなる。果実は暗青色,楕円体の液果で,長さ約1cm。新葉の展開後に,古葉が脱落することから〈譲り葉〉といい,〈子が成長した後,親が譲る〉ことになぞらえた。縁起物として正月の飾りに用いられる。古名はユズルハ庭木として植栽される。若葉はゆでると食用になる。樹皮や葉には,ダフニフィリンdaphniphylline,ユズリミンyuzurimine,セコダフニフィリンsecodaphniphyllineなど構造のまったく異なるアルカロイド十数種類が含まれる。煎じて駆虫薬,健胃剤とする。材は薪炭材とするほか,緻密で軟らかいので工芸材として用いられる。

 ユズリハ科はユズリハ属10種のみからなる小さな科で,かつてはトウダイグサ科に含められていた。子房が2心皮性で,隔壁が発達せず1室となるなどの点により,トウダイグサ科と異なる。日本にはほかに,ヒメユズリハD.teijsmannii Zoll.が本州中南部~沖縄に産する。
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新しい葉が伸びてから古い葉が落ちるので〈譲り葉〉とよばれ,交譲木と書く。正月を待ちわびるわらべうたに〈お正月がござった ユズリハに乗って ユズリ ユズリ ござった〉とあるように,常緑のユズリハは松,ウラジロ(裏白),ダイダイ(橙)などとともに正月飾りや農始めなどに使われる。ユズリハは絶えることなく世代が継承される常緑の聖なる樹として,正月にふさわしいものであり,長崎県壱岐島では正月2日の縫い初めにユズリハ2枚を縫い合わせて神に供えたという。また穀霊の再生継承の象徴として,石川県小松市小原ではかつて12月9日の山祭の前後に各戸でナギカエシという焼畑の収穫祭を行い,その神座となるアワ,キビ,ヒエの穂を入れた輪蔵にユズリハの枝を3本挿したという。《万葉集》には〈弓弦葉(ゆづるは)〉とよまれ,大嘗会に酒を盛る縁起のよい酒柏として用いられることもあった。はしかにかかると,ユズリハに病気を託して払うという呪(まじな)いも行われ,民間療法として葉や樹皮を煎じて下剤,利尿,駆虫薬などとする所がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ユズリハ」の意味・わかりやすい解説

ユズリハ
ゆずりは / 譲葉
[学] Daphniphyllum macropodum Miq.

ユズリハ科(APG分類:ユズリハ科)の常緑高木。幹は直立性で上部は多く分枝し、高さ10メートルに達する。葉は枝先に集まって互生し、長楕円(ちょうだえん)形で長さ15~23センチメートル、全縁で先は短くとがり、革質で光沢があり、裏面は白緑色を帯びる。葉柄は長く、淡紅色を帯びた緑色。雌雄異株。5~6月、枝先近くの葉腋(ようえき)に総状花序をつくり、小さな黄緑色花を開く。花被片(かひへん)はなく、雄花は6~10本の雄しべを放射状に出し、中央に退化雌しべがあるものもある。雌花は1本の雌しべからなり、その基部に不規則に数本の退化雄しべをつけるものもある。核果は楕円形で長さ約1センチメートル、青黒色を帯びる。山地の林中に生え、中部地方以西の本州から四国、九州、沖縄、および朝鮮半島、中国中南部に分布する。名は、初夏、旧葉と新葉がまとまって交代するのがとくに明瞭(めいりょう)なためついた。広く庭園樹として植栽される。

 変種エゾユズリハ(ヒナユズリハ)は北海道から本州の日本海側に生え、低木で高さ約2メートル。葉は母種より、やや小さい。近縁種ヒメユズリハD. teijsmannii Zolling. ex Kurz.は高さ約10メートルに達する。葉はユズリハより小さく、裏面はユズリハほど白色を帯びず、核果もより小さい。雌、雄花ともに、細い爪(つめ)状の花被片がある。海岸樹林中に生え、中部地方以西の本州から九州に分布する。

[古澤潔夫 2020年5月19日]

文化史

ユズリハは、春若葉が生じてから古葉が落ち、新旧の葉の交代が目だつことから譲葉(ゆずりは)とよばれたといい、また葉の主脈が太く弓の弦(つる)に似ていることから弓弦葉(ゆづるは)の名が出たともいう。父子相譲して継承する意味をもたせ、新年や祝事の飾り物として用いられる。

 認識は古く『万葉集』の2首に名がみえる。巻14の譬喩(ひゆ)歌で「何(あ)ど思(も)へか阿自久麻山(あじくまやま)のゆづる葉の含(ふふ)まる時に風吹かずかも」と詠まれているが、そのユズリハは少女のたとえとされる。葉柄だけが赤く色づくユズリハを、成熟していないと見立てたのであろう。ユズリハは九州などではツルノハとよばれる。ユズリハの葉の表は青いが、裏は白っぽく、また葉柄は赤い。これを頭の赤いタンチョウヅルと結び付けたのであろうか。ユズリハが縁起物にされるのは鎌倉時代から記録に残り、藤原知家(ともいえ)は「これぞこの春を迎ふるしるしとてゆずるはかざし帰る山人」(『夫木集(ふぼくしゅう)』)と歌った。はっきり正月に用いるとした記述は『壒嚢鈔(あいのうしょう)』(1446)が古い。『枕草子(まくらのそうし)』には、葉を食物敷き、木を歯固めに使ったことが載る。

[湯浅浩史 2020年5月19日]


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百科事典マイペディア 「ユズリハ」の意味・わかりやすい解説

ユズリハ

ユズリハ科の常緑高木。本州(関東以西)〜沖縄,東アジアの山地の林にはえ庭にも植えられる。葉は枝先に集まって互生し,長楕円形で厚く革質,裏面は白みを帯びる。雌雄異株。4〜6月,前年枝の葉腋から総状花序を出し緑黄色の花を開く。花弁はなく,萼(がく)はまれにあっても目立たない。果実は楕円形で9〜11月黒藍色に熟す。葉を正月の飾りとする。葉の新旧の入れかわりが著しく目立つのでこの名がある。

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