ヤッコソウ(読み)やっこそう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤッコソウ」の意味・わかりやすい解説

ヤッコソウ
やっこそう / 奴草
[学] Mitrastemon yamamotoi Makino

ヤッコソウ科(APG分類:ヤッコソウ科)の無葉緑素の多年草。根茎は円形でざらつく。花茎は高さ5~7センチメートル、肉質で白色、乾くと黒褐色になる。葉は鱗片(りんぺん)状で十字形に対生して斜上し、卵状三角形で背面は丸くて質は厚く、上方のものはしだいに大形となる。包葉はなく、晩秋に白色花を開くが、花被片(かひへん)は厚質、癒合して筒状となり、宿存する。雄しべは癒合して帽子状となり、初め子房を囲むが、のちにすっぽり脱落すると雌しべが現れる。子房は大形で卵球形、花柱は太くて短く、柱頭は扁円錐(へんえんすい)形で径4~6ミリメートル。花には蜜(みつ)があり、小鳥が吸いにくる。液果は橙(だいだい)色で長さ約2センチメートル。シイ属の根に寄生し、四国から九州、沖縄県に分布する。宮崎県内海(うちうみ)のものは国の特別天然記念物に、徳島県海陽町と鹿児島県日置市のものは国の天然記念物に指定されている。名は、花とその下の大形鱗片葉の形状を奴(やっこ)に見立てたもの。

 ヤッコソウ科Rafflesiaceaeはすべて寄生植物で、葉緑素を欠く多年草。熱帯、亜熱帯に8属約50種分布する。ラフレシア・アーノルディRafflesia arnordii R.Br.はスマトラ島産で、花は径45センチメートルに達し、世界一大きな花として知られる。

[小林純子 2021年4月16日]

 APG分類ではヤッコソウ属はヤッコソウ科Mitrastemonaceaeとして独立した。1属でアジアに1種、中央アメリカに1種がある。

[編集部 2021年4月16日]

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改訂新版 世界大百科事典 「ヤッコソウ」の意味・わかりやすい解説

ヤッコソウ (奴草)
Mitrastemon yamamotoi Makino

ラフレシア科としては日本にただ一つある寄生植物。栄養体は糸状細胞列で寄主シイの根内を走り,白色の花だけを寄主体から出す。花茎は高さ5cm,3~8対(通常は6対)の鱗状葉を対生し,茎頂に1個の花をつける。4枚の花被は融合して筒となり,さらに内方におしべの融合した雄蕊(ゆうずい)筒がある。この上部には葯の融合した葯帯がある。上端の孔は小さい。最内部に子房と柱頭がある。初めは雄花期であるが,やがて子房が肥大して雄蕊筒を押し上げて捨て,雌花期となる。花粉は粘質塊をなす。花被筒から出る蜜は葉腋(ようえき)にたまり,ハチや小鳥を誘引して,受粉に役立つ。果実は液果であるが不稔花も多い。側膜胎座の子房には微小な胚珠が充満し,微細な種子となる。本種は徳島県,高知県,宮崎県,鹿児島県から沖縄までと飛んでニューギニアに分布するが,一回り大型のタイワンヤッコソウ型は台湾,ボルネオ,インドシナ,スマトラにあり,これによく似たアメリカヤッコソウは中米にある。寄主はいずれもカシの類である。
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百科事典マイペディア 「ヤッコソウ」の意味・わかりやすい解説

ヤッコソウ

四国〜沖縄に分布し,暖地のシイの根に寄生するラフレシア科の多年生寄生植物。葉緑素はなく,全体乳白色だが,組織が死ぬとその部分は褐色になる。茎は太くて分枝せず,高さ5〜7cm,数対の1〜2cmの鱗片葉をつける。秋,茎頂に長さ1.5〜2cmの花を単生。花被は環状,おしべは筒形に合着して子房をおおい,子房が成熟すると,おしべ群は押し上げられて脱落し,柱頭が現れる。花は蜜を分泌し,メジロなどによる鳥媒花。宮崎市内海の発生地は特別天然記念物。
→関連項目寄生植物

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