モーナー(読み)もーなー(英語表記)Moerner, W.E.

日本大百科全書(ニッポニカ) 「モーナー」の意味・わかりやすい解説

モーナー
もーなー
William E. Moerner
(1953- )

アメリカの物理化学者。カリフォルニア州生まれ。1975年ミズーリ州のワシントン大学で物理学、電気工学などを学び卒業、1982年にコーネル大学で修士課程修了後、物理学の博士号を取得した。1981年からカリフォルニア州サンホセ市にあるIBMのアルマデン研究センターの研究員となった。1995年からカリフォルニア大学サン・ディエゴ校の物理化学教授となり、1998年からスタンフォード大学の化学の教授に就任した。

 モーナーは、細胞の中の分子を生きたまま観察できる蛍光顕微鏡開発に取り組み、分子に蛍光分子を組み合わせて発光させる研究を行った。しかし分子が近接していると蛍光分子に光を当てても、光の円が重なり合ってぼやけて見える。そこでモーナーは特定の分子だけ光らせて分子の位置を特定できないかと考えた。1997年に1分子単位で蛍光させる手法を開発し、さらに自在に光らせたり消したりする手法を開発した。ハワード・ヒューズ医学研究所のエリック・ベツィグはこの手法を発展させて超高解像度蛍光顕微鏡を開発した。これにより、細胞のより微細な構造を把握できるようになり、難病の仕組みの研究に貢献した。2014年「超高解像度の蛍光顕微鏡の開発」の業績で、エリック・ベツィグ、シュテファン・ヘルとともにノーベル化学賞を受賞した。

[馬場錬成 2015年2月17日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モーナー」の意味・わかりやすい解説

モーナー
Moerner, W.E.

[生]1953.6.24. カリフォルニア,プレザントン
アメリカ合衆国の化学者。フルネーム William Esco Moerner。1975年ワシントン大学で学士号,1982年コーネル大学で博士号を取得。1981~95年 IBMアルマデン研究センターに勤め,その間の 1993~94年スイス連邦工科大学チューリヒ校の客員教授を務めた。1995年にカリフォルニア大学サンディエゴ校に移り,1998年にスタンフォード大学教授に就任した。光の波長の半分より小さいものは見分けられない光学顕微鏡(→顕微鏡),生きたままの細胞を見られない電子顕微鏡限界を破ろうと超高解像度の顕微鏡の開発に着手,ケイ光物質をレーザー光で励起させ,発する光を観察するケイ光顕微鏡原理を利用した。方法として,一つのケイ光物質分子が発した光をとらえて,それを積み重ねて高解像度にしようという 1分子顕微鏡を考えた。1989年にケイ光物質 1分子からの光をとらえる 1分子分光法を開発し,1997年には励起光とは異なる特定の光でケイ光物質を照らすと光の放出のオンオフがコントロールできることを発見した。これまでの光学顕微鏡の限界をはるかにこえて 10nmという超高解像度の像を得られるケイ光顕微鏡の開発により,細胞の微小構造や蛋白質移動などを生きたままで観察できるようになった。2014年,この功績によりエリック・ベッツィヒ,シュテファン・ヘルとともにノーベル化学賞を受賞した。

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