レーザー(英語表記)laser

翻訳|laser

精選版 日本国語大辞典 「レーザー」の意味・読み・例文・類語

レーザー

〘名〙 (laser light amplification by stimulated emission of radiation の略)
① 誘導放出による光の増幅装置。
② ①によって放出される周波数・位相とも一定な平行光線。固体レーザー、気体レーザー、半導体レーザーなどがある。光通信、音・映像・データの記録・再生、物性研究、医療など多方面で応用されている。レーザー光線。〔世界を変える現代物理(1963)〕

レーザー

〘名〙 ⇒レザー

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デジタル大辞泉 「レーザー」の意味・読み・例文・類語

レーザー(laser)

light amplification by stimulated emission of radiationから》メーザーと同じ原理を用い、誘導放出によって光を増幅・発振する装置。また、その増幅された光。ほとんど散乱しないためエネルギーが高く、単色光位相のそろった指向性の鋭い平行光線が得られる。光ディスクや通信・精密工作・医療・物性研究などに広く利用。→メーザー

レーザー(razor)

レザー

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改訂新版 世界大百科事典 「レーザー」の意味・わかりやすい解説

レーザー
laser

light amplification by stimulated emission of radiation(誘導放出による光の増幅)の頭文字をつづってつくられたことば。低いエネルギー状態(エネルギー準位)にある分子(あるいは原子,イオン)の数より高いエネルギー状態にある分子の数のほうが多いという非熱平衡分布(反転分布)をしている物質系に,共鳴する光を作用させて,誘導放出過程によって,コヒーレントな光の増幅を起こさせることおよびそのための装置をいう。lightをmicrowave(マイクロ波)におきかえたメーザーmaserと同じ原理に基づく。

分子(または原子,イオン)から電磁波(光もマイクロ波もその一種)が放射される機構は,自然放出と誘導放出の二つに大別される。分子の二つのエネルギー準位E1E2E2E1)に注目して考えると,自然放出は,E2の状態にある分子が外部からの刺激なしにE1の状態に遷移し,その際に電磁波が放射される現象である。これに対して誘導放出は,外部からν=(E2E1)/hhはプランク定数)なる振動数の電磁波が入射したとき,E2の状態にある分子が入射電磁波と同一振動数および同一位相の電磁波を放射してE1の状態に遷移する現象で,レーザー,メーザーはこちらを利用したものである。誘導放出が起こる確率は入射電磁波の強度に比例する。ただし電磁波が入射したときには,E1の状態にある分子が電磁波のエネルギーを吸収してE2に遷移する誘導吸収も同時に起こる。一般にふつうの熱平衡状態にある物質では,高いエネルギー準位にある分子の数は低いエネルギー準位にある分子の数より少なく,このため電磁波が入射しても誘導放出よりも誘導吸収のほうが卓越してしまう。

 以上のことからわかるように,メーザーやレーザー作用を起こさせるためには二つの要件が満たされる必要がある。すなわち,上準位の分子数が下準位の分子数よりも多い反転分布状態をつくりだすことと,電磁波のモードを選択しかつそのモードの電磁波の強度を維持するための共振器をつくることである。

 この原理が1953年まずメーザーにおいて実験的に実現(発表は1954)できたのにはそれだけの理由がある。すなわち,マイクロ波に共鳴するような2準位の間では,もともとエネルギー差が小さいので,上準位と下準位の分子の分布数に大きな差がない。また自然放出できまる上準位の寿命が非常に長い。このため多少の細工をすれば容易に反転分布をつくることができる。さらにマイクロ波領域には空洞というQ値の高い共振器があり,共振器の大きさとマイクロ波の波長とが同じ程度なので,モード密度が小さく,特定のモードを容易に選択できる。

 この原理を光の領域に拡張するにあたり,いかにして反転分布をつくるかということと,どんな共振器を用いるかが最大の難問となった。光に共鳴するような2準位では,上準位にある分子の分布数は無視できるほど少なく,しかも自然放出寿命も非常に短い。また電磁波のモード密度が高く,この中から一つのモードだけを分離選択することがむずかしいためである。

 58年C.H.タウンズとA.L.ショーロウは光領域でメーザー作用を実現するのに有効と思われる方法を提案した。それは反転分布をつくるために,光その他の手段で励起(ポンピング)を行い,下準位にある分子を上準位に急速にくみ上げることである。光に対する共振器には,2枚の平面鏡を向かい合わせた装置(ファブリー=ペロー型共振器)を用いられる。この鏡の間隔をLとすると,共鳴する光の波長λは,Nを正の整数として近似的に,の式で与えられる。この式は本質的に一次元共鳴の条件であって,三次元共鳴に比べると共鳴するモードの数が著しく減少している。鏡面に対して垂直に進む光のみが,繰返しの反射で鏡間に蓄えられるが,光軸に対して斜めに進む光は共振器からやがては外に出ていってしまうからである。この二つのアイデアは今にしてみれば当然のことであるが,メーザー装置の延長上にあるものではなく,当時としては画期的なものであった。これによってメーザーの原理が実現できる波長はマイクロ波から可視光まで一気に4桁以上も飛躍したのである。

 60年にT.H.メイマンがルビーの結晶を用いて波長694.3nmのレーザー発振に成功し,次いで61年にはA.ジャバンらがヘリウムとネオンの混合気体を用いて632.8nmのレーザー発振に成功した。その後10年間のレーザーの研究開発はめざましく,種類も気体,液体,固体,半導体のさまざまなスペクトル線について発振が成功し,ことにおもなレーザー線についてはその出力が毎年ほぼ1桁ずつ改良されてきた。発振波長を長波長側へ伸ばすことは順調に進み,数mmのレーザーができるに及んで,メーザー側あるいは電子管によって発生されるミリ波領域と完全に重なるようになった。

 しかし短波長側への拡張はまもなく行詰りをみせ,約100nmの真空紫外域が限度となっている。この限界をこえるためには,反転分布をつくるための有効な方法と,よい共振器をつくる方法とが再び解決されなければならない。波長が短くなると上準位の寿命がますます短くなり,強力な励起をもってしても有効な反転分布をつくることがむずかしい。また波長の短い光は,さまざまな光学過程をおこし,それだけ損失が大きい。鏡面の反射率も短波長では著しく低下する。
誘導放出

大部分のレーザーは,活性媒質を2枚の鏡ではさむ形に構成され,媒質を励起して反転分布をつくるための装置がこれに付随する。媒質が固体や液体の場合には,フラッシュランプなどの強力な光源で光励起する。気体の場合には放電励起が一般的である。p-n接合型の半導体レーザーの場合には接合面を通して電流を流すことでレーザー発振を起こすことができる。気体レーザーの励起の手段としては,このほかに高速の電子線を照射する方法,化学反応を利用する方法,断熱膨張を利用する方法などが試みられている。

 2枚の鏡を用いた標準的な共振器のほかに,単一縦モードを選びだすための複合型共振器,往復の光が干渉してできる定常波構造をさけるため3枚以上の鏡と光単行器とを用い,光を一定の方向にのみまわすリング型共振器などが使われる。発振波長が短くなると,励起状態の寿命も短くなるので,鏡で光を折り返してきても意味がない。このような場合には,増幅される光と励起とがレーザー媒質内を同時に進行するようなくふうをし,媒質を1回通過させるだけで十分な出力がとれるようにする。

 レーザー共振器は必ずしも安定なものばかりとは限らない。目的に応じて,共振のQ値をあるときはパルス的にあるときは周期的に変調したり,また不安定な構造にしたりする。

一口にレーザーといってもいろいろな種類のものがあるので,一概にその光(レーザー光)の性質を述べることはできない。しかしいずれにしても共通していえることは,光のエネルギーがスペクトル的に,あるいは空間的に,あるいは時間的に集中していることである。気体レーザーでは,ふつうコヒーレントで単色性のよい光を発生する。これは狭いスペクトル幅の中にエネルギーが集中していることである。連続的に発振する可視,近赤外域の気体レーザーでは,スペクトル幅を振動数にして1Hzの程度にまでできる。波長を1μmとするとその振動数は3×1014Hzであるから,このレーザーのスペクトル純度は3×10⁻15という驚異的な値となる。ふつうの光源から分光器を使って単色性のよい光をつくりだす場合には,スペクトル幅を狭くするほど,とりだせる光のエネルギーは小さくなる。これに対してレーザーの場合には,強い光ほどより強く増幅されるので,出力が大きくなるほどスペクトル幅が狭くなるという特徴がある。実用的な気体レーザーの発振幅は数十kHz前後であるが,これとてもコヒーレンスの長さにして104mとなるから,ふつうの光源のコヒーレンス長1mと比較して桁違いに質のよい光であることがわかる。

 広い幅をもつスペクトル線の中で,たくさんの縦モードを発振させ,しかも互いの発振が一定の位相関係を保つようにする(モード同期法)と,時間幅が非常に狭い(ps=10⁻12sの程度)光パルスをつくることができる。フーリエ反転の関係からスペクトル幅⊿νとパルス幅⊿tの間には⊿ν・⊿t~1の制約があるから,⊿tが小さいことは⊿νが大きいことで,これはちょうど単色性とはうらはらの関係になっている。

 またレーザー装置は,それ自体が出射光の指向性をよくする機構をもっている。2枚の鏡の間で繰り返し反射されている間に光の進む方向がおのずから決まってくるからである(幾何学的指向性)。それでも光波である以上,出射後の光が回折現象によって広がっていくことは避けられないが,レーザー光の場合それが小さいのは,波長λに比べて十分大きな範囲で,空間的に位相のそろった(空間的コヒーレンスのよい)光束となっているからである(物理光学的指向性)。このような光束は適当な光学系によってλ2の程度の狭い面積に絞りこむことができる。
干渉

レーザーの種類は多いといっても,実用面で広く使われているものはそれほどの数はない。気体を媒質として用いる気体レーザーのうち,ヘリウム-ネオンレーザー(波長3.4μm帯,1.1μm帯,632.8nm帯)は出力は小さいが,安定で単色性がよいので,長さの二次標準や精密実験に使用される。アルゴンイオンレーザーアルゴンレーザーともいう)は514.5nm,488.0nmなど可視域で数本の強い発振線をもつほか,紫外から近赤外の広い範囲で50本以上の発振線をもつ。可視域の発振線は連続的に数Wの出力をだすことが可能で,色素レーザーの励起やラマン分光など強い光が要求される分野で多用されている。これに性質の似たレーザーにクリプトンイオンレーザークリプトンレーザー)などがある。水素分子の電子状態間の遷移で発振する水素レーザーは真空紫外域(124.6~164.6nm,109.8~126.8nmなど)で200本近い発振線を供給するので貴重な存在であるが,短波長レーザーであるため,光共振器を使えないとか,高速励起が必要であるとかの困難があり,使いよいレーザーとはいえない。窒素レーザーも0.316~8.21μmの間に400本以上の発振線をもつが,よく利用されるのは紫外部の337.1nmの発振線で,1kW~1MW程度のパルス出力が得られる。CO2気体の放電を用いる炭酸ガスレーザーは9.6μm帯,10.6μm帯の赤外域でそれぞれ数十本の振動・回転遷移が発振する。炭素Cおよび酸素Oの同位体置換分子を用いれば発振線の数はさらに増す。このレーザーは,電気的入力からレーザー出力への変換効率がよい(10%程度)ことでも知られ,安定した高出力のレーザー光(大きいものでは数十kW)が得られる。また気体圧力を大気圧程度にし,横方向放電を行うレーザー(TEAレーザー。transversely excited atmospheric laserの略)では,GW程度(一つのパルス当りのエネルギーは1kJ程度)の出力が得られる。この波長域では熱作用が大きいので,科学の分野ばかりでなく各種の工業的応用も多い。

 媒質として固体を用いる固体レーザーの代表的なものは,Al2O3の中に不純物として含まれるクロムイオンCr3⁺が発振する(694.3nm)ルビーレーザーや,YAG(yittrium aluminum garnetの略。Y3Al5O12)結晶やガラスの中に含まれたネオジウムイオンNd3⁺が発振する(1.06μm)YAGレーザー(ヤグレーザーともいう)またはガラスレーザーなどである。

 半導体レーザーは小型であること,発振させるための励起装置が簡単であること,製造原価が安価であることなどの理由で,これからの広い応用が期待されている。レーザー光の質としては,大型レーザーに比べるとよくなかったが,ダブルヘテロ構造と呼ばれる電子・正孔の流れや発振光を共振器部分にとじこめる手段が開発されてくるようになって,大きく改善された。可視域から近赤外域の固定波長で発振するものと,数μmから数十μmの赤外,遠赤外域で,発振波長をある範囲で変えられる周波数可変レーザーとがある。

 液体はレーザー媒質としてはもっとも開発がおくれた材料である。液体分子の不規則な運動のためスペクトル線が広くなり,励起エネルギーを効果的に集中することができず,発振させることが困難であるからである。レーザー開発が進み各種の強力なレーザーができてくると,これらが液体の励起に使えるようになり,液体レーザー実用の道が開かれた。そこで注目されたのが有機色素である。有機色素は種類も豊富でそのスペクトルも赤外,可視,紫外域全体にわたっている。スペクトル幅が広いこともかえって好都合で,共振器に同調機能をもたせれば,広いスペクトル線の中の任意の波長で発振させることができる。発振波長可変の色素レーザーはこうして誕生した。励起にはアルゴンイオンレーザー,窒素レーザー,YAGレーザー(2倍波,3倍波)などが用いられる。

 エキシマーレーザー,ガスダイナミックレーザー,自由電子レーザーなど新しいタイプのレーザー開発も盛んである。エキシマーレーザーは紫外域の光源として実用の域に達している。いまレーザー研究に課せられているもっとも大きな課題はX線レーザーの開発であろう。
執筆者:

今世紀最大,最後の発明といわれるレーザーは今や光産業技術の中心として,大きな期待をもたれている。その理由は,レーザーがふつうの光とまったく異なる優れた特徴をもつからである。レーザー光はコヒーレントな電磁波としての性質を備えており,単色性がよく,電波でできることはすべてレーザーでこなしうるのである。電波に比べ1万倍も周波数が高いから,エレクトロニクス技術はレーザーの出現により周波数帯域をきわめて広く拡張することができた。またレーザーは指向性に優れており,平行ビームとして遠距離の伝搬が可能である。大気中では散乱や吸収をうけるので,むしろ光ファイバーの中を伝送する方式が優れている。大気圏外ではまったくその心配がない。レーザー光はレンズで集光すると波長程度の微小焦点にエネルギーを集中することができる。集光点の電磁界はきわめて強く,100億V/m程度が容易に実現される。このような極度に高い電磁界を用いると非線形光学効果が発生し,高周波光の生成や誘導ラマン,誘導ブリュアン散乱,さらには光の自己集束現象などを引きおこす。ふつうの光では不可能な物質処理に威力を発揮する。レーザーのこのような特徴は,原子,分子内の電子の軌道準位間の遷移という量子効果を利用するため実現されるのである。量子効果はふつうミクロな世界にしか現れないのであるが,レーザーでは光共振器によるフィードバック作用のため,原子,分子と光との共鳴を生じ,人間の五感にうったえるマクロの世界に現象が発現するのである。

 このような特徴をもつレーザーの応用技術はその特性に応じて光波としての応用と光エネルギーとしての応用に大別される。

光波としての応用については,まずレーザー計測が開発された。その長所は次の4点である。(1)レーザー光は輝度が高いので,周囲の雑音光に対し検知信号の割合,SN比が大きい。(2)光波としての性質である干渉効果が明確にあらわれるので距離や速度の測定が精度よく可能である。(3)単色性に優れ,特定の周波数にエネルギーが集中しているから,レーザー分光学はすばらしい発展をとげている。(4)レーザーは非常に短いパルス光を発生できるので,時間分解計測がピコ秒領域(10⁻12s)にまで拡張された。計測応用として,直線の規準を与えるレーザーレベル計,レーザートランシット照準器,レーザーアライナーがある。レーザー光の直進性と平行度の高いことで土木計測機械として有用である。測距への応用としては短いパルス光を送出し,目標物から戻ってくるまでの時間を測定して直接距離を出す方法や,連続した光波を出して,反射光との位相の相違から算出する方法がある。精度から見ると連続波方式が優れているが,パルス方式は測定時間が短いので実用性が高い。

 レーザーレーダーは環境保全や監視用として広く使われている。レーザーレーダーは反射光によって遠方物体を検知し,距離,速度,密度,組成なども調べることができる。レーザーは波長の短い光を用いるので対象媒質中の粒子によるミー散乱や原子,分子によるレーリー散乱,ラマン散乱(光散乱),蛍光などを利用できるので,大気汚染物質の同定や海洋観測にも使われる。送出レーザー光は広がることなく目標物に照射されるが,反射光は散乱光としてレーザーレーダーに戻るので,測定感度は距離の2乗に反比例して弱くなる。長距離の測定例としては月レーザー測距装置があり,月までの距離40万kmが±10cmの精度で測定されている。この精度は±2.5×10⁻10に達する。レーザー計測器の特殊な例としてレーザージャイロがある。これは慣性航法に必要な輸送機の運動検出にきわめて有力なセンサーである。光通信は今やますますその重要性を加えている。これは光伝送路に使われる光ファイバーの性能の向上と半導体レーザーの発達によるものである。光ファイバーはすでに銅電線を伝わる電気信号の伝導損失よりはるかに小さい0.5dB/kmを達成しており,石英の資源量の豊富さともあいまって将来はきわめて明るい。伝送周波数帯域が広く,軽量であり,電磁誘導雑音の妨害をうけないことから通信革命を招来するものと受け取られている。

 光情報処理技術もレーザーにより大きく進展した。その中心はレンズを用いたアナログフーリエ変換の手法と光の複素振幅の記録を可能にしたホログラムである。前者に関しては画像を回折現象によりフーリエ変換像にして,空間周波数スペクトルに分解し,マッチドフィルターを通して,信号対雑音比を改良したり,また非線形光学素子を組み合わせた光論理演算器の研究が進んでいる。ホログラムは光波のもつ情報として波の振幅と位相とを記録するものである。これは信号光と参照光の干渉縞を写真乾板により作製し,あとで,レーザー光を照射すると元の光波像が浮かび出る技術である。三次元像を記録し,再生することができる。種々の応用が科学計測に適用されている。またレーザーアートとしてディスプレーに応用されている。レーザーを用いた情報処理応用機器としてはホログラムを用いた画像ファイルとかレーザーファクシミリやレーザープリンター,レーザー印刷製版機がある。なかでもカラースキャナーは広く普及し,カラー印刷用の色分解画像を自由に作製することができる。ビデオディスクディジタルオーディオ(ディスク)にもレーザーが利用され,無接触で画像,音響を再生でき,商用価値が高いので盛んに開発が進められている。

レーザーの光エネルギーとしての応用として最初に工業にとり入れられ成果を出したのはレーザー加工である。レーザーのエネルギーを集中して穴あけ,切断,溶接,表面処理などがあげられる。これと関連して医用レーザーが登場し,無血手術に利用されている。またアメリカやソ連ではレーザー兵器の開発が行われ,誘導ミサイル破壊用のレーザー研究も提唱されている。レーザーのエネルギーとその単色性を応用した同位体分離技術も重要である。レーザーを用いた化学反応の機構解明も化学技術に大きな影響を与えている。レーザーによる核融合の実現も人類究極のエネルギーとして全世界的に研究が進められている。さてレーザー加工の特徴としては,(1)レーザー光は微小点に集光できるので,加工部位のパワーは従来の加工法より格段に大きく1010W/km2以上にも達し,他の方法では加工困難なセラミックス,宝石,耐熱合金などに適用される,(2)マイクロ加工が可能で,コンピューター制御が容易である,(3)非接触加工であるから対象物からはなれて工作ができる,(4)透明体の内部の加工が外部から実施できる。眼底手術などへの応用がある,(5)加工空間を真空にする必要がなく,人体への障害もない。レーザーによる穴あけはダイヤモンドダイスなどにYAGレーザーが適用され効率が高い。レーザーによる切断には炭酸ガスレーザーがよく用いられ,酸素ガスを吹き付けながら加工すると効率が高い。レーザークラフトとして木彫品がある。服地の切断も自動化され商業的に実用に供されている。レーザー溶接はYAGレーザーを用いる微細溶接から,炭酸ガスレーザーを用いる大寸法溶接も行われている。半導体工業への応用としてレーザースクライビング,すなわちICチップの分割作業やレーザートリミングという抵抗素子の微調整にも用いられる。レーザーによる表面処理は金属の焼入れから,半導体アニーリングなど幅広い応用が開けている。

 加工技術と関連して医学への応用がある。医用レーザーの最初の応用は眼底網膜凝固装置である。網膜剝離に対しレーザーを用いると瞳孔を通して眼底の手術ができ,すばらしい治療効果をあげている。また外科用のレーザーメスは切開と同時に血管凝固による止血が行われ,無接触で手術ができる。出力10~100WのYAGレーザーや炭酸ガスレーザーが用いられる。脳外科や内臓外科に広く導入され,またあざ取りに威力を発揮している。レーザー内視鏡は体内を観察しながらレーザー照射による手術を施すことが可能で盛んに用いられている。またレーザーによるはり治療も行われ,慢性疾患に効果をあげている。

 アメリカやソ連においてはレーザー兵器の研究が進められていて,レーザー測距儀やレーザーレーダーは実用化されている。ミサイルなどのレーザー誘導方式は目標にレーザー光を照射し,その光の反射点へ向けてセンサーつきのミサイルが直行するという方式である。核ミサイルは科学者が生んだ怪物として,その防御法がなく,ただ単に核のバランスに基づく抑止力のみが頼りとされてきたが,最近アメリカではミサイル迎撃用レーザーが技術的に核ミサイルを無力化あるいは破壊する手段としてとり上げられ,大々的な研究が開始されている。この目的のためのレーザーには電源を必要とせず,しかも大出力が出せる化学レーザーがその中心になるものと思われる。その代表的なものは水素とフッ素を利用したHFレーザーである。

 レーザーのエネルギー集中性と波長選択性との両特徴を応用したのがレーザー同位体分離技術である。基本的には同位体間の光吸収スペクトルのわずかな相違を利用し,一方の同位体にのみ吸収されるレーザー光を与えて励起し,その同位体が元の状態に戻らないうちに第2の操作により励起同位体をとり出す方法である。この方式の特徴としては,(1)高い分離比が得られる,(2)エネルギー効率がきわめて高いことがあげられる。この方式にはたとえばウラン金属蒸気を用いる原子法とUF6など化合物を用いる分子法がある。使用レーザーは前者には可視光レーザーである銅蒸気レーザーと色素レーザーの組合せ,後者には波長16μm帯の赤外レーザーが必要となる。このようなレーザー光と原子,分子との相互作用の研究は広く化学反応解析に応用され,今まで不明であった反応生成中間状態の解明に大きな威力を発揮している。

 核融合にレーザーを応用する研究が最近急速に発展してきた。重水素,三重水素を融合させると1反応当り17.4MeVのエネルギーが発生する。水の中の水素の5000分の1は重水素であるから,資源的にみれば水1lはガソリン300l分のエネルギーを発生することができる。このような融合反応を生成するには重水素原子核を300km/sにして衝突させることが必要である。このような速度を熱で与えることが条件となる。すなわち1億Kが目標である。レーザー光を1点に集光するとこの程度の高温を発生することができる。このため必要なレーザーのエネルギーは100kJ内外となる。このレーザーを直径1mmくらいの重水素,三重水素充てん球に照射し,この燃料球を爆縮し,反応率を高め,数百倍のエネルギー利得をうる研究が進められている。大阪大学に設置された激光X11号ガラスレーザーは,世界一の出力をもつ全50TW,20kJの12ビームレーザー光を直径800μmのターゲットに照射し,核反応中性子400億個を検出している。大阪大学の二重殻ターゲット〈キャノンボール〉はきわめて一様に加熱圧縮ができることで有名である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「レーザー」の意味・わかりやすい解説

レーザー
れーざー
laser

励起状態にある原子、物質の誘導放射の性質を利用して光(電磁波)を発生させる装置をいう。light amplification by stimulated emission of radiation(誘導放射による光の増幅)の頭文字からつくったことばである。発生する光そのものをレーザー光という。サブミリ波から真空紫外光領域に至る波長範囲のものをレーザーといい、ミリ波より長波長のものは別にメーザーという。

 1954年に発明されたメーザーの拡張としてアメリカの物理学者C・H・タウンズとA・L・ショウロウがレーザーの可能性を具体的に提唱し、1960年にルビー結晶でメイマンTheodore Harold Maiman(1927―2007)が初めてレーザー発振に成功した。以後、次々とレーザーが発明され、現在では非常に多くの原子、分子、物質を用いて多種多様なレーザーが実現している。その結果、われわれの身近なものも含めて社会の非常に広範な分野において、これらのレーザーが使われている。

[井上久遠]

原理

基本的にはメーザーの原理と同じである。原子集団(または物質)の適当な二つのエネルギー準位間で反転分布(エネルギーの高い準位の原子分布数または電子分布数が低い準位より多い状態をいい、負温度状態ともいう)をつくる。二つの準位間のエネルギーに共鳴する周波数をもつ光に誘発されて上の準位の原子(電子)が下の準位に遷移してエネルギーを光に与える誘導放射がおこる。その結果、外部から入射させた光は周波数、位相が同じままで強度が増大する。これをコヒーレント(可干渉)な光の増幅という(反転分布がない通常の場合に生じる光吸収の逆の現象である)。負温度媒質を光の共振器の中に置き、増幅された光の一部分または相当部分を繰り返し往復させる(帰還―フィードバックさせるという)と、光の自励発振がおこりレーザーとなる。図Aに基本構成図を示す。外部から光を入れなくとも共振器内部で自発放射で発生する弱い光が種となって光共振器の特定の一つ、または複数の共振モードでのみ発振する。したがってレーザー光は位相のそろった波となり、通常の光とは本質的に性質が異なる(通常の光は自発放射によるものであるので、たとえば、ナトリウムランプから取り出した一つのスペクトル線の光でも周波数が少しずつ異なった無数の、そして位相も無秩序な光である)。光の共振器は基本的には反射率の高い二つの平面鏡(凹面鏡も使う)を、光の波長よりはるかに長い距離だけ離して互いに平行に向かい合わせて置いたもので、これをファブリー・ペロー型共振器という。この場合には面に垂直な定在波が共振モードになり、隣り合ったモードのエネルギー間隔は同じになる。後述するように、鏡を用いずに、光を伝搬させる方向に一次元の屈折率の周期構造(回折格子)を利用する分布帰還型共振器もある。レーザー媒質で増幅可能な周波数範囲にかなりの数の光の共振モードが存在するので、複数個のモードでレーザーが同時に発振するのが普通である。特殊な方法により一つのモードで発振させたものを単一周波数レーザーという。なお、連続的に光が持続する連続波レーザーのほかに、一定時間だけ光が持続するレーザーもあり、これをパルスレーザーという。

[井上久遠]

反転分布をつくる方法

方法はさまざまであるが、代表的なものに光ポンピング法があり、固体、液体レーザーでおもに用いる。たとえば図Bに示したように四つの準位を利用する。強力なランプ、他のレーザー、あるいは光放射ダイオード(いわゆるLEDで、近年多用されるようになった。発光ダイオードともいう)からの光を照射して、光吸収により基底準位0から準位3(多くはバンド)に原子あるいは分子を励起する。これらの原子、分子、あるいは固体中の電子は短時間に非放射遷移により2の準位に移り、その結果2と1の準位間で反転分布が生じる。これを四準位レーザーという。下の準位として1のかわりに基底状態0を用い、準位2と0の間で反転分布を得る三準位レーザーもある。気体レーザーでは希薄にした気体を放電し非熱平衡状態にすると、電離した電子との衝突により原子が励起され適当な二つの励起エネルギー準位間(中性原子のほかに電離した原子の励起準位も含む)で反転分布が実現する。半導体レーザーでは電流注入型レーザーが一般的である。pn接合をつくり、順方向に電圧をかけると、接合領域で注入された電子と正孔の再結合により光の増幅がおこる。つまり伝導帯と価電子帯の間で反転分布が生じる。ほかにも電子ビーム照射や、化学反応を利用した方法などいろいろある。最後に、自由電子レーザーでは、加速器により高速に加速された電子ビームを、空間変調された静磁場中に通し変調することにより、コヒーレントな光を発生させている。大出力が得られること、および広い範囲で波長を変えられる特色がある。このレーザーでは、通常のレーザーのように原子(中性、イオン)、分子、固体中の原子または電子の離散的なエネルギー準位、あるいはバンド間の反転分布を利用していないが、一般的にレーザーとよんでいる。なお反転分布を必要としない他のレーザーの例として、それぞれ非線形光学現象の一つである誘導ラマン効果あるいは光パラメトリック現象を利用してコヒーレントな光を得る方法があり、それぞれを誘導ラマンレーザーおよびパラメトリック発振器とよんでいる。

[井上久遠]

レーザー光の特性

(1)可干渉性(コヒーレンス)に優れている。通常の光の干渉可能な距離が優れたスペクトル光源でもたかだか数十センチメートルなのに対し、レーザー光でははるかに遠く離しても干渉する。

(2)指向性がよい(ただし、半導体レーザーを除く)。回折限界できまるわずかな広がりで直進する。

(3)単色性に優れている、すなわちスペクトル純度がきわめてよい。極端に狭いスペクトル幅の中に膨大な数の光子が集中している。

(4)したがって、輝度温度が非常に高い。太陽表面の輝度温度6000Kより桁(けた)違いに高温である。

(5)レンズで集光すると、単位面積を単位時間に通過する光エネルギー(ポインティングベクトル)が非常に大きい。とくにパルスレーザー光の場合、閃頭(せんとう)光出力が大きく莫大(ばくだい)な値となる。その結果、光の電場の強さ(磁場の強さも)はきわめて大きく108V/m程度あるいはそれ以上の値に容易に達する。

(6)特別な場合、10-13秒程度の極端に短い時間幅の光パルスが得られる。なお、最近の研究では、わずか数フェムト秒(1フェムト秒=1000兆分の1秒)だけ持続する(たとえば2×10-15秒程度の時間幅の)超短時間光パルスも得られている(これは1サイクルあるいはそれ以下しか振動しない光に対応する)。

[井上久遠]

レーザーの種類

波長領域による種類では、紫外レーザー、可視レーザー、赤外レーザー、遠赤外レーザー、さらに真空紫外レーザー、X線レーザーがある。動作媒質に関しては気体、固体、液体、半導体の各レーザーの種類がある。

[井上久遠]

気体レーザー

気体レーザーは動作物質として中性原子、電離原子、分子を用いたものである。ヘリウムネオンレーザー(波長633ナノメートル)、アルゴンイオンレーザー(波長488と515ナノメートル)、炭酸ガスレーザー(波長9.4と10.4マイクロメートル)、塩化ゼノン、フッ化アルゴン(波長はそれぞれ308と193ナノメートル)などのエキシマーレーザーなどが代表的なものである。

[井上久遠]

固体レーザー

固体レーザーは遷移金属、希土類元素イオンを均一性のよい結晶あるいはガラス、もしくは光ファイバーに不純物としてわずかな量(0.1~数%)を溶かしたものや、色中心を含む結晶が用いられる。クロムイオンをサファイア結晶に混入させたルビーレーザー(波長694ナノメートル)、ネオジムイオンをイットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶またはガラスに入れたNd‐YAGレーザー(波長1.06マイクロメートル)、ガラスレーザー(波長1.05マイクロメートル)、チタンサファイアレーザーなどが代表的なものである。とくに、チタンサファイアレーザーは共振器内に入れた波長選択素子によりレーザーの波長を連続的に変えることができるので広い用途がある(波長可変範囲は680~1100ナノメートル)。このレーザーはまた、モード同期法(ファブリー・ペロー共振器の多数の共振モードで発振する場合に、モード間の光の位相を固定する方法)を用いることにより、すでに述べた超短時間パルスを発生させるのにも適している。

[井上久遠]

液体レーザー

液体レーザーではローダミンなどの色素分子を有機溶媒に溶かし、光ポンピング法で励起する色素レーザーが重要である。前述のチタンサファイアレーザーと同様に波長可変レーザーとして(色素の種類によって波長可変範囲が異なる)、あるいは超短時間パルス発生用として使われている。

[井上久遠]

半導体レーザー

社会に与えた影響の大きさの観点からは、あるいは産業界では、半導体レーザー(レーザーダイオードLDともいう)がもっとも重要である。半導体レーザーは直接遷移型のヒ化ガリウムGaAs(波長830~900ナノメートル)などのⅢ―Ⅴ族、Ⅳ―Ⅵ族化合物半導体結晶や、これらの三元、四元混晶が使われている。後者はAlGaAsあるいはGaAsP(ともに波長630~900ナノメートル)、InGaN(波長400~470ナノメートル)、InGaAsP(波長1~2マイクロメートル。主として光ファイバー通信用に使われている)などで、組成比によって発振波長を選ぶことができる。半導体レーザーは電流駆動(励起)で用い、また共振器として、とくに外部の鏡を用いないで、レーザー材料の半導体自身の両端の劈開(へきかい)面(結晶をある特定の方向に沿って割ることによって生ずる平滑な面)を用いるのが一般的である(反射率が比較的高い)。初期のころの半導体レーザーでは、図Cで活性層の上下のp型、n型のAlGaAs層がともにない単純なpn接合の構造を用いていた。最近では、電子も光も活性領域に効果的に閉じ込めるために、図Cに示したように半導体量子井戸(異なる2種類の半導体材料を薄い層状に交互に人工的に積み重ねた構造で、一つの層の中に電子が閉じ込められる)の二重ヘテロ構造を用い、かつ分布帰還型共振器による後方フィードバックを用いたものが汎用されている(実際には活性領域の厚さ方向のみならず、横方向に関しても狭い領域に光を閉じ込める埋込みヘテロ構造を用いる場合が多い)。このタイプのものは、駆動電流が小さくてすむなど優れた特性をもっている。また、前記の劈開面を利用したファブリー・ペロー型共振器のかわりに、分布帰還型共振器を用いて特定の波長のみをフィードバックする単一モード型も開発され、おもに光通信用に活用されている。一般に、半導体レーザーはサイズが非常に小さい(典型的には長さが100~500マイクロメートル)点が他のレーザーにない顕著な特色である。ほかに、電子の伝搬方向と垂直(レーザー基板面と垂直)な方向にレーザー光が生じる垂直共振器面発光半導体レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)も重要である。半導体レーザーは小型電流源で駆動でき、サイズが非常に小さく安価なので、機器に組込みが容易であり使用用途が多い。たとえば、光通信用の光源、コンパクトディスク、バーコードの読取りなどに使われている。なお、半導体レーザーは出力光の強度、周波数の安定度、単一モード発振が容易であるなどの点でも優れている。

 一般に固体レーザーは大出力発生に適し、気体レーザーはコヒーレンスに優れている。後者はまた使える波長範囲が広く、ものによって大出力のものもある。一般に励起をパルスにすると大きなパルス閃頭光出力が得られる。また、上の準位に多量の原子をためておき短い時間に誘導放射を集中しておこさせるQスイッチ法により大出力(50メガワット、30ナノ秒程度は容易)を得ることもできる。

[井上久遠]

レーザーの活用

レーザーはその優れた特性のために非常に広範囲に利用されている。

(1)基礎科学分野の発展に大きな影響を与えた。まず非線形光学nonlinear opticsという新しい学問分野を生み出した。これにより、入射光強度に比例する吸収、発光などの通常の現象のほかに、入射光強度に比例しないさまざまな非線形現象が発見された。たとえば入射光強度の2乗、3乗に比例する場合には、それぞれ入射光の2倍、3倍の周波数の光が発生する現象がわかりやすい例である。非線形光学は物質のもつ新しい特性、機能の開拓や種々の新しい分光法の開発を可能にした。次にレーザーを光源に用いると超高分解能分光や超高感度分光が可能となり、原子、物質の詳しい構造が解明できる。原子、分子、固体で選択的に特別な電子状態を励起できるため、その状態の構造・特性やエネルギー緩和機構、化学反応のミクロな機構などが調べられる。レーザー分光により原子の運動を事実上止めることもできる(レーザー冷却という)。この静止原子によりさまざまな新しい現象(たとえば原子気体のボース‐アインシュタイン凝縮など)の研究が可能になった。さらに超短時間光パルスを用いると物理、化学、生物現象で超高速時間変化の知見が得られるので、微視的レベルでの現象の解明に役だっている。最後に、レーザー自身と前記の分野を総合した新しい学問分野を量子光学とよぶ。最近のこの分野の進歩として、量子力学の基礎にかかわる種々の現象検証とその応用の研究があげられる。すなわち、それぞれ位相スクイーズ(圧搾)状態の発生と検出などと、量子暗号法、量子テレポーテーション、量子計算機である。

 超高分解能分光の応用としてレーザーによるウランなどの同位体分離ができる。ほかに、ラマン散乱のようなレーザー光散乱分光法が普及している。物質の分析に、すなわちそれぞれの固体が示す固有な特性を担う素励起を解明するのに威力を発揮している。レーザーはまた長さの標準にも使われるし、重力加速度の精密測定や相対論の検証にも使われている。

(2)レーザーの実用的応用も多種多様である。レーザー光の優れた単色性、指向性を利用し種々の精密測定ができる。距離、位置、変位、速度などを高精度に測るのに利用される。測距には時間幅の狭いパルス光を飛ばし反射して戻るまでの時間を測るレーザーレーダーがある。地球と月の正確な距離、人工衛星を利用した地球の形の精密な決定、大陸間の距離の精密測定、あるいは気象用として雲の高さの測定など多くの例がある。

 光の干渉を利用して機械系の微小変位、変動を光の波長の精度で測ることや、マイクロメートル以下の粒子の径の精密測定、地殻の変動測定、たとえば地震の予知用などにも利用されている。照準としての応用もある。トンネルをまっすぐに掘る場合、荷電粒子用の加速器の軌道を精度よくつくる場合、また長野県野辺山(のべやま)の直径45メートルの電波望遠鏡で多くのパネル板を正確に並べる場合などに用いられている。ドップラー効果を利用して飛行粒子、物体の速度を正確に測るレーザードップラー計も実用化されている。

 レーザーにより人体の血流も測ることができる。レーザーによる測定は一般に無接触なため、振動部分、高電圧部分、高温部分、人体などで使うのに適する。

 環境保全関係では、レーザーを大気中に飛ばして種々の浮遊分子からの散乱光を解析して、それらの種類、濃度分布および位置を調べることができる。レーザーにより温度測定も可能であり、炎や車のエンジンの燃焼温度、含まれる分子の種類、分布も同定できる。

 高出力レーザーを集光すると高エネルギー密度になり超高温が得られるので、加工、切断、溶接などに使われる。ダイヤモンド、金属あるいは服地などの穴あけ、切断や超LSIなどの超微細加工、IC上の文字書きなどに使っている。電子ビーム加工法に比べて真空を必要としない利点がある。表面処理(アニーリング)として金属の焼入れや、基板上に蒸着した物質をレーザー照射で融解したうえで、結晶化させ新物質をつくるのにも使われている。医用では剥離(はくり)網膜のつなぎ合わせや、外科手術用のレーザーメスに利用されている。無接触でしかも血液を凝固させる利点がある。医用ではほかにもレーザー内視鏡や血流検査など多くの応用がある。なお、超高温を利用して大出力レーザーによる核融合の研究も進められている。

 波動としての応用に光(ひかり)通信がある。光は電磁波として周波数が高いので伝送周波数帯域がマイクロ波に比べてはるかに広くとれ、大量の情報を送ることができる。光ファイバー伝送により国内、大陸間の電話通信網(インターネット、携帯電話網ほか)などの実用化が進んでいる。光源としては半導体レーザーを、大陸間の海底における光増幅器としては光ファイバー中に溶かし込んだユーロピウムイオン(1.55マイクロメートル帯の場合)などを光励起したものを用いている。なお、光ファイバーによる長距離光通信においては、現在のところ、いまだ電波領域におけるようにレーザーのコヒーレンシーを利用するには至っていない。

 コヒーレンスがよいことを利用し、新しい情報記録法、ホログラフィーが登場した。通常の写真が光の強度のみを記録するのに対し、物体波の位相の情報も記録する方法で、物体波ともう一つのレーザー光との干渉縞(じま)を記録する。フィルムにレーザーを照射して再生するが、見る角度により像が変わり、三次元的像が再現する。1枚のフィルムに多くの像を同時に記録できるので大量情報記録にも適し広範な応用がある。

 情報記録としてはほかに光ディスクが普及している。レーザーで小さな穴の列をつくって記録し、別の小型レーザーで読み取るもので、大容量記録に適し、コンピュータにも使われている。雑音に強いためオーディオコンパクトディスク、ビデオディスク、DVDなどが普及してきた。ほかにも応用として高速打ち出し可能なレーザープリンター、ファクシミリ、印刷機など、また身近なところでレーザーアート、スーパーマーケットなどにあるバーコードリーダーなど枚挙にいとまがない。

[井上久遠]

『霜田光一著『レーザー物理入門』(1983・岩波書店)』『J・ウィルソン、J・F・B・ホークス著、清水忠雄監訳『レーザ入門――基礎から応用まで』(1992・森北出版)』『A・ヤリーヴ著、多田邦雄・神谷武志監訳『光エレクトロニクス 基礎編』原著5版(2000・丸善)』『久我隆弘著『量子光学』(2003・朝倉書店)』『J・ヘクト、D・テレシー著、井坂清訳『レーザーの世界』(講談社・ブルーバックス)』


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百科事典マイペディア 「レーザー」の意味・わかりやすい解説

レーザー

メーザーをさらに周波数の高い光の領域まで拡張したもので,誘導放出を利用して光の増幅,発振(主として発振)を行わせる装置。1950年代から各種の実験が試みられたが,1960年アメリカのT.H.メイマンがルビーを使ってレーザー光線の発振に成功したことで,一気に実用化が進んだ。レーザーlaserの名はlight amplification by stimulated emission of radiation(誘導放出による光の増幅)の略。原子や分子を高いエネルギー準位にあげるには,強い光や電子線をあてて励起する,半導体ではpn接合に順方向電圧をかけて直接励起する,気体では放電によって励起するなどの方法がある。発振させるには共振器が必要であるが,普通2枚の平面鏡または球面鏡を,光軸を一致させて向かい合わせたファブリー=ペロー干渉計型の共振器が使われる。レーザー光は位相がそろい干渉性のよいコヒーレントな光で,普通の光より指向性と単色性がすぐれている。オプトエレクトロニクスと呼ぶ分野でのレーザー光の素子や装置として応用され,また強力なエネルギー源として利用される。材料により次のようなものがある。(1)固体レーザー。ルビーなどが使われ,キセノンフラッシュランプの強い光で励起。大出力のパルスが得られ,眼科などの手術,精密加工,核融合,兵器(俗に殺人光線という)などに応用される。(2)気体レーザー。ヘリウム,ネオンの混合気体や炭酸ガスが代表的で,連続発振も可能。最もコヒーレントな光が得られるので,通信,計測,ホログラフィーなどに利用される。(3)半導体レーザー。ヒ化ガリウム,インジウム・ヒ素・リンなどのダブルヘテロジャンクション型ダイオードを使用。小型,軽量で応答速度が速く,光ファイバー通信の発光素子として重要な役割をになうとともに,コンパクトディスク(CD)など光ディスクの情報読取り用光源として民生用機器にも多用されている。→レーザー加工
→関連項目ガスレーザーガリウムヒ(砒)素干渉縞光源固体レーザータウンズ電子製版光通信非線形光学プロホロフページプリンター量子エレクトロニクスレーザー兵器

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化学辞典 第2版 「レーザー」の解説

レーザー
レーザー
laser

光メーザーともいう.光の誘導放出を利用して,強力な,単色性の高い,かつまた位相のそろった光線を発生させる装置.レーザー(LASER)の名称はlight amplification by stimulated emission of radiationの頭文字をとってつけられた.通常のこの装置の主要部分は,相互に向かい合わせて置かれた2枚の反射鏡と,その2枚の反射鏡の間に置かれたレーザー作用を示す活性物質とからなっている.2枚の反射鏡はその間を光が何回も往復でき,横にそれて逃げないように平行して置かれ,光学的共振器を形成している.活性物質のレーザー作用に関係する二つのエネルギー準位間に,物理的あるいは化学的方法を用いて負温度の状態を出現させると,そこを通過する特定の波長の光は誘導放出により増幅される.このような波長の光が光学的共振器のなかを往復するとき,光は増幅され強力な位相のそろった光となりレーザー発振をすることになる.レーザーの発振出力は,一方の反射鏡の反射率が100% ではなくやや小さくつくられており,それを通して取り出される.レーザーは用いられる活性物質,負温度を発生させる方法,発振波長,動作の特性などにより分類され,それぞれ名称がつけられている.活性物質によるものの例としては,固体レーザー液体レーザー気体レーザー,あるいはイオンレーザー,半導体レーザールビーレーザー,He-Ne(ヘリウムネオン)レーザー,窒素レーザー,キレートレーザー,色素レーザーガラスレーザーYAG(ヤグ)レーザーなどがある.動作特性によるものとしてはパルスレーザー,ジャイアントパルスレーザー,CWレーザー,波長可変レーザー,モードロックレーザーなどがある.そのほか,化学レーザーX線レーザー,紫外あるいは赤外線レーザー,ラマンレーザーなどの名称もある.応用としては,干渉性が高く周波数安定性のよい点を用いた長さの精密測定,またブリルアン散乱の測定,ホログラフィー([別用語参照]ホログラム)などがある.強力な単色光源として用いられ,ラマン分光分析への応用,レイリー散乱への応用がある.とくに共鳴ラマンとよばれる現象は,レーザーの出現によって確実な測定が可能になった.また,高分解能の分光学への応用,強力なパルス光を用いる種々の非線形光学への応用,励起分子の研究への応用がある.とくにフェムト秒(10-15 s)パルス光を用いて,励起分子がごく短時間に起こす反応の研究も可能になっている.レーザーの実用的応用としては,光通信用ガラス繊維を用いた光通信の開発研究が進められている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レーザー」の意味・わかりやすい解説

レーザー
laser

光の周波数の領域で単色性にすぐれ,干渉性のよい電磁波を発振する装置。波長がきわめて短いので 10-4rad 程度の鋭い指向性も可能である。出力は数 mW程度のものから連続で 100kW,パルスで 1014W に達するものまである。応用範囲は広く,精密計測,ホログラフィー,通信,測量,分光学などの物理研究,生物・医学研究,溶接,特殊材料の加工などに使われる。 1958年 A.L.ショーローと C.H.タウンズによって理論的に提唱され,60年 T.H.メーマンによってルビーレーザーとして初めて実現された。 light amplification of stimulated emission of radiationの頭文字をつなぎ合せてレーザーと名づけられたが,この言葉は原子や分子のもつエネルギー準位の間の遷移を利用し,誘導放出により光を増幅する仕方を表わす。光増幅の媒質としては気体,液体,固体の3態があり,周波数領域は赤外,可視,紫外,X線にわたっている。発振はこれら光増幅媒質にファブリ=ペローの干渉計などの正のフィードバックが組合わされて生じる。

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デジタル大辞泉プラス 「レーザー」の解説

レーザー〔クライスラー〕

アメリカのクライスラーがプリマスのブランドで1989年から1994年まで販売していた乗用車。3ドアクーペ。三菱自動車のエクリプスのOEM車。

レーザー〔フォード〕

アメリカのフォードが1982年から2000年まで製造、販売していた乗用車。4ドアセダンを中心とする。マツダのファミリアの姉妹車。

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