ムラートフ(読み)むらーとふ(英語表記)Dmitry Andreyevich Muratov

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムラートフ」の意味・わかりやすい解説

ムラートフ
むらーとふ
Dmitry Andreyevich Muratov
(1961― )

ロシアジャーナリスト。ロシア西部のクイビシェフ(現、サマラ)生まれ。現在のサマラ州立大学卒業。大学時代から地方紙で働き、大衆紙「コムソモリスカヤ・プラウダ」を経て、1993年に仲間と独立系リベラル紙「ノーバヤ・ガゼータ」を創刊。同僚記者6人を殺害されながらも、ロシア政権批判を続け、1995年から編集長を務める(2017~2019年を除く)。

 チェチェン紛争、ロシア内外の汚職、選挙違反、捜査当局の暴力、人権侵害などの実態を調査報道。2006年、チェチェンでの人権侵害の実態に迫った記者のアンナ・ポリトコフスカヤAnna Stepanovna Politkovskaya(1958―2006)が射殺されるなど、記者に対する暗殺迫害脅迫を受けながら、独立した編集方針を貫き、一貫してプーチン政権を批判している。こうした「民主主義と恒久平和の前提である表現の自由を守るための努力」を続ける報道姿勢に対し、2021年ノーベル平和賞が贈られた。フィリピンのドゥテルテ政権を批判し続けるジャーナリスト、マリア・レッサとの共同受賞である。

 ジャーナリスト活動でノーベル平和賞を受けるのは、1935年のカールオシエツキ以来である。アメリカ前大統領のトランプが報道機関を「人民の敵」と公言し、ロシア、中国・香港(ホンコン)、ミャンマーベネズエラなど世界各地でジャーナリズムへの弾圧が続いていることが、ジャーナリストの受賞の背景にあるとみられている。ノーベル賞選考委員会は「他のメディアがほとんど伝えないロシア社会の実態の重要な情報源になっている」と授賞理由を説明した。ムラートフは世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)の「自由のための金ペン賞Golden Pen of Freedom」(2016)、レジオン・ドヌール勲章(2010)なども受けている。

[矢野 武 2022年3月23日]

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