マーカス理論(読み)マーカスリロン

化学辞典 第2版 「マーカス理論」の解説

マーカス理論
マーカスリロン
Marcus theory

R.A. Marcus(マーカス)が,外圏機構で進む電子移動反応速度定数を見積もるために,活性錯体中で分子の相互作用がきわめて弱いという仮定のもとで展開した理論.すなわち,反応分子は出合い錯体をつくり,電子移動の前駆状態で核,およびまわりの溶媒分子の再配置が起こり,移動する電子がどちらの分子に存在してもエネルギーが変化しない遷移状態を経て反応が進むとし,このときの遷移状態の活性化エネルギーをいくつかのパラメーターに分けた.このとき,反応は断熱的に起こるが,その相互作用は小さいとする.この理論によれば,電子移動速度定数 ket は以下のように表される.

 Δ G 0′ = Δ G 0wpwr

 λ = λoλi

ここで,wrwp はそれぞれ静電的な仕事で,分子の電荷をそれぞれ ZAZB とすると,

e 2ZAZB/(Ds × d),e 2(ZA + 1)(ZB - 1)/(Ds × d)
である.ここで,分子の半径

rArBdrArB
である.また,DopDs は溶媒の屈折率の2乗と誘電率である.λoλi は外圏,内圏の再配列エネルギーで,溶媒配向および分子の核配置の変化に伴う自由エネルギー変化である.ln(ket)は

(λ + ΔG 0)2
関数になっており,反応のドライビングフォース(-Δ G 0)が大きくても小さくても,電子移動反応速度は小さくなる.これがマーカス理論の特徴で,-Δ G 0の大きいところで ket が小さくなる領域逆転(反転)領域という.交差反応の速度定数を見積もることや,生体中での電子移動反応の解析などに適応されている.また,溶液二分子反応ばかりでなく,固体中,電極上における電子移動反応にも適用される.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報