ビタミンK欠乏症

内科学 第10版 「ビタミンK欠乏症」の解説

ビタミンK欠乏症(凝固線溶系の疾患各論)

定義
・概念
 ビタミンK(VK)欠乏をきたすと,第Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ因子凝固因子活性が低下して消化管出血頭蓋内出血などの重篤な出血傾向をきたす.特に,新生児や幼若乳児はVK欠乏に陥りやすい.
分類
 出生後7日までの新生児例は新生児VK欠乏性出血症,それ以降の乳児例は乳児VK欠乏性出血症とよばれている.乳児期以降の発症例母乳栄養児にみられる特発性タイプと,先天性胆道閉鎖症に代表される胆汁分泌不全,慢性下痢,脂肪吸収不全,抗菌薬の長期投与,劇症肝炎や肝硬変などの肝障害,クマリン系VK拮抗薬の使用などによる二次性タイプに分けられる.
病因・病態生理
 哺乳類ではVKのde novo合成はみられない.VKの源は食事から摂取されるVK1と腸内細菌で産生されるVK2の2種である.VKはグルタミン酸残基をカルボキシル化してγ-カルボキシグルタミン酸(γ-carboxyglutamate:Gla)に変換する酵素(vitamin K dependent γ-glutamyl carboxylase)のコファクターとして機能する.VK欠乏によりγ-カルボキシル化が障害されてVK依存性凝固因子である第Ⅱ(プロトロンビン),第Ⅶ,第Ⅸ, 第Ⅹ因子やプロテインC,プロテインS,プロテインZはGlaに変換されないPIVKA(protein induced by vitamin K absence or antagonist)にとどまる.Glaに変換されないとCa結合が抑制されて凝固因子機能は障害される.さらに,VKは脂溶性ビタミンであり,胆汁酸の存在が必須であるために,胆道閉鎖症や肝障害でもVK欠乏症を発症する.また,抗菌薬投与により腸内細菌叢が抑制されて発症する.特に,低栄養状態では発生する危険性が高くICU管理時には注意を要する.
臨床症状
 消化管出血が圧倒的に多く,吐血下血が最も頻度が高い.その他,皮下出血や鼻出血もみられる.乳児VK欠乏症では頭蓋内出血が多い.不機嫌,嘔吐,痙攣,哺乳力低下などがおもな症状である.乳児の頭蓋内出血で胆道閉鎖症に起因するVK欠乏症が原因である場合もあり,白色便の有無の確認は重要である.
病態・診断
 診断はPT,aPTT,ヘパプラスチン時間,トロンボテストの延長,第Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ因子活性の低下,PIVKA-Ⅱの増加などの検査所見による.
治療
1)VK欠乏症による止血治療:
VK 製剤0.5~1.0 mg/kg(成人では10~20 mg)を経静脈的に投与する.先天性胆道閉鎖症をはじめとする胆道閉塞性疾患では小児ではVK製剤1~2 mg(0.5 mg/kg),成人ではVK 10~20 mgを静脈内投与する.
2)新生児VK欠乏症の予防:
出生時,生後1週目の産科退院時,1カ月健診時にVK2シロップ1 mL(2 mg)を経口的に投与する従来の指針でVK欠乏性出血症の発症は激減した.しかしながら,VKの予防投与が行われたにもかかわらず発症した症例もみられたことから,最近,出生後3カ月まで週1回のVKの投与を行う新たなガイドラインが発表された(白幡ら,2011).経口摂取困難な新生児例:VK2注射製剤0.5~1.0 mgを緩徐に静注する.[嶋 緑倫]
■文献
白幡 聡,伊藤 進,他:新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症に対するビタミンK製剤投与の改訂ガイドライン(修正版).日小児会誌,115: 705-712, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「ビタミンK欠乏症」の解説

ビタミンK欠乏症
ビタミンKけつぼうしょう
Vitamin K deficiency
(内分泌系とビタミンの病気)

ビタミンKのはたらき

 脂溶性(しようせい)ビタミンであるビタミンKは、肝臓において、血液凝固因子Ⅱ、Ⅶ、ⅨおよびXの生成に関わっています。また、オステオカルシンという蛋白質を活性化することによって骨の形成を促進することも知られています。

原因は何か

 正常な状態では、腸内細菌(そう)でビタミンKが十分につくられるために、ビタミンK欠乏症は起こりません。しかし、未発達な新生児・乳児や、抗生剤投与などの原因で腸内細菌数が減った患者さんなどでは本症が起こる可能性があります。

症状の現れ方

 生後2~3日に下血が起こる新生児メレナという現象がみられることがありますが、これは腸内細菌叢の発達によるビタミンK産生の増加とともに自然に改善します。

 乳児のビタミンK欠乏性出血症では、出生後順調に育っていた乳児が、生後1カ月ころに下血や頭蓋内出血を起こして死亡する例もあります。

治療の方法

 ビタミンKの1日所要量は、成人男性では65㎍、女性では55㎍です。新生児・乳児では母乳中のビタミンK含有量が少ないことと腸内細菌叢でのビタミンK産生が未熟なことから、所要量として0~5カ月の乳児で5㎍、6~11カ月の乳児では10㎍を摂取することがすすめられています。

菅原 明

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「ビタミンK欠乏症」の解説

びたみんけーけつぼうしょう【ビタミンK欠乏症 Vitamin K Deficiency】

[どんな病気か]
 体内のビタミンKが欠乏することにより、肝臓でつくられるビタミンK依存性血液凝固因子(いぞんせいけつえきぎょうこいんし)(凝固第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)の活性が低下し、出血傾向をおこす病気を、ビタミンK欠乏症といいます。
 生後2~3日目の赤ちゃんに下血(げけつ)、吐血(とけつ)などの消化管出血をおこす新生児出血症(新生児真性メレナ)と、生後1~2か月ごろに頭蓋内出血(ずがいないしゅっけつ)をきたす特発性(とくはつせい)乳児ビタミンK欠乏性出血症とがあります。
 特発性ビタミンK欠乏性出血症は、母乳栄養の赤ちゃんにおこりやすいものです。
[治療]
 治療の基本は、ビタミンKの投与です。日本では、予防的に生後1~2日目、5~6日目、1か月目などにビタミンKを赤ちゃんに与えています。
 これによって、ビタミンK欠乏症は大幅に減少しました。

出典 小学館家庭医学館について 情報