ビオラ(楽器)(読み)びおら(英語表記)viola イタリア語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビオラ(楽器)」の意味・わかりやすい解説

ビオラ(楽器)
びおら
viola イタリア語
viola 英語
Bratsche ドイツ語
alto フランス語

バイオリン族の中音楽器バイオリンとほぼ同形であるが、1/7ほど大きく、胴の標準サイズは42.5センチメートル。共鳴の点からは約53センチメートルが理想的であるが、演奏の容易さと共鳴との妥協によって現在のような大きさになった。4本の弦はバイオリンより5度低くA4-D4-G3-C3と調弦され、音域はC3-A5。構え方と奏法はバイオリンとほぼ同じであるが、楽器が大きいためその技術的制約は大きい。

 ビオラは、1535年ごろにビオール族一種がバイオリンの影響を受けて発展したもので、17世紀まで主として音響面からアルトテナーなどさまざまな大きさのものがつくられた。ストラディバリの現存する11の名器やダ・サロらの名器にはかなり大きいものもある。18世紀初めには大きさもほぼ統一されるが、演奏上、音響上の難点からその後も種々の改良が試みられる。リッターのビオラ・アルタ(1876製作)はその一例であり、現在では名奏者ターティスLionel Tertis(1876―1975)のモデル(1937年製作)に倣う製作者も多い。

 ビオラは、鼻にかかったようなじみな音色と技術的な困難さから、長く独奏楽器とは認められず、主として合奏の中声部を受け持つ楽器として用いられた。合奏のなかで重要な地位を占めるようになったのはバロック以降で、コレッリ、ビバルディジェミニアーニ合奏協奏曲、バッハ、ヘンデルの宗教曲、管弦楽曲などにみられる。協奏曲テレマン、C・シュターミッツが最初であり、モーツァルトの協奏交響曲(1779)における独奏ビオラの用法は特筆に値する。古典派に入ると合奏のなかでの重要性も飛躍的に高まる。とりわけハイドン、モーツァルト、べートーベンの弦楽四重奏曲では、各声部を均等に用いる声部書法によって、独奏的といえるほど表現力が引き上げられた。その傾向はロマン派でさらに発展され、シューマン、ブルックナースメタナブラームスドボルザーク、マーラー、バルトークらの交響曲、弦楽四重奏曲にその好例がみられる。協奏的作品としてはベルリオーズの交響曲『イタリアのハロルド』(1834)があげられる。20世紀に入ると、バルトーク、ウォルトンらの協奏曲や、ミヨー、ブロッホ、ピストンらの独奏曲などをはじめとして多くの作曲家がこの楽器の独奏的資質に関心を抱くようになる。なかでもヒンデミットは名ビオラ奏者でもあり、協奏曲、独奏曲を数多く残した。

 なおビオラviola(イタリア語)、バイオルviol(英語)はビオール族など中世ヨーロッパのリュート属擦弦楽器の総称としても用いられる。

[横原千史]

『マルク・パンシェルル著、山本省・小松敬明訳『ヴァイオリン族の楽器』(白水社・文庫クセジュ)』


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