ドクウツギ(英語表記)Coriaria japonica A.Gray

改訂新版 世界大百科事典 「ドクウツギ」の意味・わかりやすい解説

ドクウツギ
Coriaria japonica A.Gray

果実を誤食すると致死的なほど有毒な,ドクウツギ科の高さ約2mの落葉低木。枝は四角形をなし,髄が発達する。対生する葉は全縁で卵形から長卵形,3本の脈があり,葉柄はほとんどなく,先はとがる。春,葉の展開前に,前年枝の節から総状の雌性および雄性の別がある花序を出し,小さな黄緑色の花を多数つける。花は5枚の花弁があるが,開花時は萼片よりも小さく,目だたない。雌花は5本の離生した心皮を有し,開花後も花弁は宿存し,多肉で紅色となって目だち,やがて黒紫色に熟す。熟すと多汁で,甘みがあり,子どもが誤食することがあるが,猛毒で,コリアミルチンcoriamyrtinやツチンtutinを含有し,前者モルモットではわずか0.7mgで致死毒となる。近畿以北の本州と北海道の路傍や河原,崩壊地に分布する。

 ドクウツギ科はドクウツギ1属だけからなる孤立した植物群で,ヒマラヤ,中国,日本からニュージーランド,南アメリカ,ヨーロッパに広く,ドクウツギ型と呼ばれる隔離的な分布をする。有毒植物として有名であるが,欧米では観賞用に栽植されることもある。また中国産のC.sinica Maxim.はドクウツギ同様猛毒だが,薬用にされる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドクウツギ」の意味・わかりやすい解説

ドクウツギ
どくうつぎ / 毒空木
[学] Coriaria japonica A.Gray

ドクウツギ科(APG分類:ドクウツギ科)の落葉低木。幹の基部から多く分枝して茂り、高さ約1.5メートル。葉は四角形の枝に左右2列に対生し、外見上は羽状複葉にみえる。葉身は卵状長楕円(ちょうだえん)形または長楕円状披針(ひしん)形で長さ5~8センチメートル、全縁で先はとがり、基部は丸い。単性花で雌雄同株。春、枝の節に総状花序を束生する。雄花序は短く、雌花序はやや長く、並んで出る。雄花、雌花ともに萼片(がくへん)5枚、花弁5枚。雄花には5本の雄しべがあり、葯(やく)は黄色。雌花には退化した5本の雄しべと、花柱が赤色子房が5個ある。果実は5個の痩果(そうか)からなり、多肉質となった宿存花弁に包まれる。汁は甘味があるが、コリアミルチン、ツチンなどの猛毒を含み、誤って食べると死ぬこともあるのでドクウツギの名があり、別名イチロベゴロシ(市郎兵衛殺)ともいう。山野の河原などの礫地(れきち)に生え、近畿地方以北の本州、北海道に分布する。

 ドクウツギ科Coriariaceaeは双子葉植物、離弁花類。低木。葉は対生で単葉。花は5数性で放射相称。果実は5または10個の痩果からなる。南北両半球にとびとびに分布し1属15種が知られる。

[古澤潔夫 2020年2月17日]


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百科事典マイペディア 「ドクウツギ」の意味・わかりやすい解説

ドクウツギ

ドクウツギ科の落葉低木。名のとおり,有数の有毒植物。北海道,本州(近畿以東)の山野にはえる。葉は15〜18対が対生し,卵状楕円形で先はとがり,3脈が目だつ。4〜5月,前年の枝に黄緑色の小さい5弁花を総状につける。雌雄同株で,雌花穂は長く,雄花穂は短い。果実は丸い五角形で花弁に包まれ,径約1cm,はじめ赤色で,7〜8月黒紫色に熟す。毒性は未熟果で最も強く,赤色であるため誤食しやすい。

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世界大百科事典(旧版)内のドクウツギの言及

【有毒植物】より

…プラトンは著書《ファイドン》にソクラテスの手足が冷えやがて心臓が麻痺して死にいたる情景を描写している。シキミに含まれるアニサチン,6月ころに紅紫色の美しい実をつけるドクウツギに含まれるコリアミルチンは,ともに中枢神経を興奮させはげしい痙攣をさそい呼吸困難による死を招く。ドクゼリに含まれるシクトキシンも同様の作用を発揮する。…

※「ドクウツギ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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